【“未知”】2-27
コバヤシは、屋根沿いを走りながらその思考を加速させる。
メイのステータスも、残りのSPをつぎ込んである程度強化しておいたから大丈夫だろうと考える。
ドラコも居るしな、、
建物の上で耳を澄ませながら走っていると、街中の所々で人々の叫びも聞こえてくる。マップを見ると“赤い波”はついにこの街の南側を中心に押し寄せてきていた。
一刻も早く、ルゥが教えてくれた“魔物を操っている魔族”とやらを見つけて消さなければ大変なことになる、、
しかしコバヤシのスキルでは、名前の分からない人物を探すことはできない。ここまで赤い点が多いと、索敵スキルも役に立ちそうもない。
コバヤシはいくつかの考えをまとめながらも、まずは王都の中心部へとめざし家々を駆け走る。
遠くからでもそれは良く見えていた。
コバヤシがたどりついた場所にあったのは、他の建物と比べてもはるかに高い“塔”であった。
おそらくは王都中を見回せるように造られたものであろう。コバヤシはその塔を外から登りながら考える。
この混乱と大雨、それにフードも被っているから多少見られても問題はないだろう、、
何よりも優先すべきなのは魔物の“指揮官”を倒すことだ。それが結果としてみんなの命を守ることにも繋がる。
人は誰か大切な人のために力を出せるのではなく、大切な人が居るからこそ全力でもがき戦わなくてはならなくなるのだ。
瞬く間にその塔のてっぺんへとコバヤシは到達する。そこで彼は周囲にぐるりと目を凝らす。意識して見ようとすると、とんでもないほどの距離を目視で確認することができる。これは《遠視》というスキルの効果であろう(これも少し前に習得していた)
マップと索敵のスキルでは、この王都全体の様子を確認することができず、部分部分での認識であったが、この塔から直接確認することによって、彼はある程度の全容を理解することができた。
本当に、まるで統率された“軍”のようだ、、
東西南北における魔物達の様子を確認しながらコバヤシは思う。
どうやら魔物たちの多くは南側を集中して攻めているようであった。おそらくは王立兵たちの多くもここに集結しているのだろう、門の近くがかなり騒がしい。しかし気になるのは他の東西北での動きであった。
魔物達は、まるで南の大群をおとりにでも使っているかのように、他の門、東西から攻め込んでいる。街中で聞こえる悲鳴やらはこのせいだろうと彼は推測する。今はその悲鳴一つ一つを確認している時間は無い、、
見た感じで戦力を分けるとだいたい『南60 東10 西10 北20』というところだろうか。
このままだとそれぞれの門が蓋をされてしまう、、
そんなことを考えながらもコバヤシはどうしたものかと考える。
この“指揮官”のねらいは何なのだろうか、、この王都の殲滅、、?
そこでコバヤシはある異変に気がつく。
南門はともかくとして、東西の門とは違い、なぜか北門の魔物達は街の中までは入ってこようとはしてこないようだった。
なぜだろう、、
少し気になったコバヤシは、4分の一の確率に賭け、そちらの方へと向かうことに決める。
・・・
とてつもない人間の数と馬車で、北門(正門)はごった返していた。
「外には魔物が溢れており大変危険です! どうかもうしばらくの待機をこちらでお願いします!」
「ばかやろう!このまま死ねっていうのか!」「早く出せ!門を開けろ!」「そうだそうだ!」「いやだぁ!死にたくないよぉ!」「出してくれぇ!頼む!」「うるせえ!いいからどけぇ!!」・・・
北門は閉じられているらしく、外へとそこから出ることは不可能のようであった。
コバヤシは近くの家の屋根からその様子を観察していた。
しょうがない、、
雨の勢いは更なる強さを増していく。
コバヤシは城壁を登ってしまうことにする。
いちおう人目を気にし、北門から少し離れた場所の壁を登り始める。
《クライミング》
なんなくコバヤシは城壁の上へとたどり着く。こちらには見張りのような人間が全く居ないようであった。
そこから彼は外の様子を確認する。塔で見たときよりもはるかにこちら側の様子がよく分かる。
どうやら“当たり”だったかもしれないとコバヤシは考える。
すぐに彼は(一瞬ためらうも)そこから街の外へとひとっとびに飛び降りる。
たんっと着地の音がするが、特にバランスを崩したりどこかを痛めたりといったことは無いようであった。
ステータスさまさまだな、、
彼はそんなことを考えながらも、先ほど確認できた目的の場所へと走り出す。
そこが近づくにつれ、やはりこちらが“正解”で間違いなかったようだと、コバヤシは確信する。
前に“悪竜”と出くわした時のような、索敵で感じる程度の具合から、それは推し量ることができた。
あの竜のときよりも遥かに、ずっとずっと強力な威圧感を、コバヤシの索敵では感じられることができた。
あれほどの魔物の大群を率いているほどだ、、
コバヤシは、自分が少し恐怖していることに気が付く。
そう、、これが普通の感覚なんだ、、
人間は、知らないことに恐怖する。知らないことを恐怖する。
だからこそそれはいつの時代、誰にとっても最大の恐怖でしかない。
『死ぬこと』
それはこれまでも、そしてこれからもずっと、恐怖の対象であることなのは永久に変わらない。
決して克服されることのない“未知”
知らないことを恐れるということは決して悪いことなどではない。
恐れを忘れた人間から死んでいく。
“転生”とやらをしたとされているコバヤシも当然のように、それを恐れる。
でも良かった、と彼は考える。
死ぬことを怖いと思う感情があるということは、自分はどうやらまだ真っ当であるようだ、、
死にたくはない、、せっかくもらった二回目の人生だ、、
コバヤシはあらためて自身の“ステータス”を確認する。
念には念を、だ。
そして来るべき時へ備え、意識を集中させるのだった。




