【走る、走る、】2-25
人が多い、、
彼女は街中を走りながら考える。
こんなにもたくさんの人間が居る時間に街へと来たことはなかったので、自分の正体がばれてしまわないだろうかと少し不安になる。
何であたしはこんなに必死になっているのかしら、、
息を弾ませながら彼女は思う。
そもそも彼を見つけられるかなんて分からないというのに、、
それにもうこの街を脱出している可能性だって考えられた。
考えれば考えるほどに、彼女は自分のしている行動の愚かしさに気が付く。
しかし、じっとしてはいられなかった、、
私は、この気持ちを知っている。
この世界では初めてのことだった。この身体では初めてのことだった。
でも彼女は、この感情をなんと呼べばいいか知っている。覚えている。
どうしようもなくて、苦しくて、辛くて、息が止まりそうになって胸が締め付けられそうになる。
たった一度、昨日初めて会った相手だったとしても、彼女にとっては関係なかった。
この感情は、理屈じゃないんだ。
昨日の場所辺りに行けばもしかしたら会えるかもしれないと、彼女は更に走るスピードを上げる。
街の外には多くの魔物たちが待機していることが、彼女には理解できていた。
伝えないと、、早く、、
しかし今、彼女の中にあるのはそれよりも、もしかしたらもう一度会えるかもしれないという願いだった。
その時、突然上空から誰かが降ってくる。
「っ!?」
彼女は急ストップし、突然目の前に降り立った(降ってきた)その人間?を警戒する。
目の前の男は、立ち上がってこちらを振り向き、被っていたローブのフードを取る。
「昨日ぶりだな」
何しにここに来た。
その男の目は、まるでその下にある隈までもがある種一つのトレードマークとも言えそうなほどに淀んでいる。そして何事も無かったかのような顔で彼女に尋ねてきた。
彼女はあまりのことに驚きながらも、自分が探していた人物に出会えた奇跡を心の中で感謝する。
「もちろん、、あなたに会いに来たのよ!」
ラレリュース・ド・エルゥは、アキラ・コバヤシに向かってそう告げる。
・・・
ルゥを見つけるのは簡単だった。しかしだんだんと人がごった返してきたので、コバヤシは彼女の場所に行くまで“道以外”を走ることにする。
念のため彼は自分のローブについていたフードを被ると、路地裏に入る。そこで勢い良く跳び上がる。コバヤシの身体はあっというまに隣の家の屋根ほどまでの高さへと舞い上がる。
こないだ獲得していた《跳躍》スキルとステータスの力だろうと彼は考える。
そのまま屋根へとつかまると、屋根伝いに移動していくことにする。
これなら道も空いているし、見られる心配もあまりないな、、
フードを被りなおし、コバヤシは更にスピードを上げる。
・・・
俺に会いに来たって、、
コバヤシはルゥからの予想外の答えに戸惑いながらも、更に質問を続けることにする。
「俺に会う為だけにわざわざこの混乱の中来たっていうのか」
少しだけ呆れながらも尋ねる。
「本当は、、この混乱が起きる前に教えにきたかったの、、」
そう言って彼女はうつむく。
「…こうなることを知っていたのか、、?」
コバヤシは目の前のサキュバスに対して少しだけ警戒レベルを上げる。
すると彼女は首をぶんぶんと振りながら、
「私が知ったのは今日の未明だったの、、」
近い内にこうなるかもしれないとは感じていたけど、、
そう言う彼女の目には涙だろうか、少しだけ潤んでいた気がした。
コバヤシは言い方を少し弱めることにする。
「…これは、計画的なことなのか、、?」
そう言って彼女の目をまっすぐに見つめる。
「魔物達を、操っている奴が居るらしいの、、」
彼女はコバヤシの目を見つめ返しながら答える。
魔物達を操る?
「お前の知っている奴なのか、、?」
「私も、詳しくは知らない、、」
けど、その魔族の噂だけなら聞いたことがあるのと彼女は続ける。
どうもルゥが“この一件”の話を知ったのはホントに偶然だったらしく、居てもたっても居られずに再び街へと戻ってきたとのことだった。
まさか男漁りが出来なくなるからって訳じゃないだろうな、、
しかし目のまえの必死な彼女の姿を見るに、その真剣さだけは少なくとも十分に伝わってくる。
「…どうして、そこまでしてくれるんだ、、」
彼女はどちらかというと魔物サイドではないのだろうかと考えながらも彼は尋ねる。
・・・。
すると彼女は少しうつむき、再び顔を上げるとコバヤシの目をしっかりと見据えこう言うのだった。
だって、昨日も言ったでしょ、
「今でも、私の心は人間だもの」




