表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/198

【嵐】2-24

「…二人とも、聞いてくれ」


コバヤシは自身を落ち着かせつつ、冷静に聞こえるよう二人に話しかける。ドラコとメイの二人がこちらに目を向ける。

「今すぐここから避難した方が良いかもしれない」

コバヤシは二人の顔を見ながら告げる。


窓から見える空には、比喩ではなく暗雲が立ちこめてきていた。


・・・


― 王都 “南門” ―


正門とは反対の方角にある、通称“裏門”と呼ばれているここ南門の前には、王都内に現在居るほとんどの王立兵達が集結してきていた。兵士達は各々の武器や防具を手入れしている。

王都内には警報用の鐘が定期的に鳴り響いており、()()()とはまるで違った光景であった。


「全員聞けェ!!」

すると兵士たちの前で、おそらくは位の高い人間なのだろう、指揮官と思われる男が声を上げる。

「これは、ここ王都に住む人間全ての危機である!」

彼の声に、全ての兵士達は耳を傾ける。


「現在確認されている“魔物たちの大群”は、ここ王都、主としてこの南門を目指して移動している!」

王都を囲っている城壁の上からは、すでに数えられないほど多くの魔物を確認することが出来た。なぜかその大群はまだこちらに向けて“進軍”を始めてこない。


まるで()()()()()()()()かのようだ、、

その大群を確認しながら見張りの兵士は考える。


「私達の責務は、王室がここベレッセンに留まる限り、この王都を死守することである!」

城壁の下には外の状況が伝えられている。

避難を希望する人間は、ここ南門以外からの脱出を考えるはずだろう。城壁上の見張り達の話をまとめると、なぜか魔物達はここ南門を中心として集結しているとのことだった。そのため王都中の兵士達もここ南門に戦力を集中させているらしい。

魔物がこれほどの群れを成すなどということはこれまでに聞いたことも見たこともない。

見張りの一人である彼は、今日の担当だったことを少し後悔しつつ、遠くに見えるその“軍勢”を再び見つめるのだった、、


・・・


「…何か、アキラには何が起きているのか分かるの?」

外では先ほどよりも鐘の音の鳴る頻度が上がっていた。

メイはコバヤシの顔をじっと見つめながら尋ねる。


理由はあとで説明するよ、彼はそう言って窓から外を眺める。街にはまだ特に混乱などは見られない。

雲行きは更に怪しくなっている。


「とりあえず旅馬車を取りに行こうと思う」

コバヤシはそう言って二人に準備をさせることにする。

徒歩か馬車かで迷ったが、まずは馬車を選択することにした。


この際どこへ向かうかは置いておいて、ここからの脱出を優先するべきだろう、、

そう考えていると、他二人の準備も出来たようで(メイがドラコに服を着せてやる)一行は馬車停を目指すことにし、宿を後にする。


・・・


雨がぽつりぽつりと降り始める。

街の人たちの間にはどうやら情報が錯綜しているらしく、一体なにが正しいのかわからないという状況のようだった。


「…魔物の大群が攻め込んでくるって言っているけど、、」

メイは、そんな人々の話の一つが聞こえたのか、前を歩くコバヤシにそう尋ねる。彼女の声には少しばかり不安の色が見える。

「…まだどうなるかわからない、、」

コバヤシはそんな彼女の様子を振り返り見ながら答える。


そう、わからないから今のうちにここを離れておくべきだろう、、

何も無いなら無いに越したことはない。


ドラコの顔色はいつもと変わらないように見える。

こっちは心配無さそうだな、、

そんな彼女の様子をちらりと見ながらコバヤシはふと微笑む。

しかし前に見えてきた人々の群れを見て、彼はそんな余裕も無くなるのだった。


「まだ出ないのか!!」「おい押すな押すなぁ!」「誰かうちの子を知りませんかー!」「おかぁさーん!!」「おいそこまだ入れるだろ!もっと詰めろ!!」「押さないでくださぁい!!」「ちょっと!何するの!!」「うわぁーーーん!!!」・・・


馬車停の周囲には、蟻一匹入れないのではないかと思わせるほどの大混雑と、そして大混乱が広がっていた。


みんな考えることは同じだったか、、

コバヤシは自身の判断の遅さにあきれながらも、次の一手を考える。

しかしその時、自身の索敵とマップに一つだけ()()()()()存在を感知する。


この感じは、、

そしてコバヤシはその存在の位置を確認する。()()はまたしてもなぜかすでに王都内へと侵入していた。

「…二人とも、すまないがもう一度宿の前まで戻っていてくれないか、、」

少しやることが出来たと、コバヤシは二人の方へ振り向きながら言う。

「やることって、、」


大丈夫なの、、?

メイが心配そうな目でこちらを見つめる。ドラコはコバヤシの服をぎゅっと掴む。


「大丈夫だよ」

すぐに戻るから。

コバヤシはそう言うとドラコの頭をぽんと撫で、()()()()スピードを出して走り出す。

目指す先にあるその赤い点は、何故か不思議と“点滅”を繰り返していた。


雨は更に勢いを増す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ