【夢魔 ~テンセイノアリカタ~ 】2-22
コバヤシは彼女の言ったことが一瞬理解できなかった(今もしっかりと理解できているかは自信が無い)
「さきゅ、ばす?」
どこかで聞いたことあったような、、
コバヤシはその疎い知識をフル活用する。
確か、、“夢魔”とかいう悪魔だったはずだと思うのだが、、
ということは、とコバヤシは続ける。
「…おまえは、、魔物、、なのか?」
後ろからだとどう見ても人間にしか見えず、またたとえ魔物だとしてもここまで意思疎通が出来るものだろうかと考える。
すると彼女は、私は魔物じゃないわとはっきりと答え、
「私は“魔族”なの」
そう言うこの“自称サキュバス”からは少し自慢げな口調に感じられた。
というか“魔族”ってのは魔物とは違うのだろうか、、
そもそもこの女性が本当にその“魔族”で“サキュバス”とやらだとはいまだに信じられない。どう見てもやはり人間にしか見えない。
「…その“魔族”だとかいう証拠は、、?」
コバヤシがそう言うと、彼女は少しだけうーんとうなる。
すると彼女が着ているコート?の下から、なにやら細い“尻尾”のようなものがにょろにょろと出てくる。さきっぽが三角形になっており、まるで本当に“悪魔”のようである。
そしてこの(自称)サキュバスは「可愛いでしょ」と言って尻尾をぴんと立たせる。
「それに魔物は私のような魔族と違って、こんなふうに会話とかは出来ないわよ」
可愛いかは置いておくとして、どうやらこの女性はいちおうその“魔族”とかでありそうではあった。まだ半信半疑でがあったが。
「…ゆっくりとこちらを向け」
コバヤシは、“自称”が取れそうなそのサキュバスへと向けて命令する。自身は物陰にまだ潜む。
それにしてもまるで映画のような言い回しだよなと自分に突っ込みを入れる。
「…まるで映画みたいじゃないの、全く、、」
彼女はそう言いながらゆっくりとこちらを振り向く。
後ろから見て分かっていたが、彼女が身に着けている黒いロングのコートのようなものは、まるで現代の日本のそれと同じような印象を感じさせる。街の人間が着けているようなものとは“材質”が異なっているように思われた。
身長は今のコバヤシと同じぐらいであろうか、黒髪の長髪に、肌は少しだけ浅黒く、この夜の中でもその二つの目は赤色に不思議ときらめいている。
なんとなくだが、ドラコの目に似ている、、
そんなことを考えながら、コバヤシは物陰から彼女を観察する。
…え、、?
しかしここで彼は、先ほどの彼女の発言を振り返る。
― まるで映画みたいじゃないの、全く、、
「…一つ聞きたいことがある」
コバヤシは彼女に、確認のため尋ねてみることにする。
彼女は「はいはいもうなんでも聞いてくださ~い」と投げやりである。
「“映画”とはなんだ」
そう言うと、彼女は少しぽかんとしてから、くすっと笑う。なんだそんなこと~?
「そうね、映画って言うのは、、う~ん、、」
“こっちの世界”の人にはちょっと説明が難しいのよね、、
そう呟くのが聞こえたコバヤシは確信し、物陰からその姿を現すことにする。手にはまだ石を持ったままだったが。
「映画、シネマ、movie、活動写真、、」
俺はあまり見ていなかったが。サキュバスの前へと姿を現したコバヤシは、そう続けながら相手の反応を見る。
「・・・。」
目の前の彼女は口をぽかんと開けながらコバヤシを見つめていた。
「この世界に飛ばされる前は、日本という国で生活していた」
さて、どこまで通じるのだろうか、、
「…日本、、」
彼女の赤い目が、じっとこちらを見るのが分かる。
まさか私以外にもこんなことがあるなんて、、
ぼそりそう呟いた後で、彼女は更にこう続ける。
「私は、かつて人間として生きていたの」
そこで彼女は一息つく。
生まれ育っていた場所は、、
彼女はその名前を告げる。
「グレートブリテン」




