【ある夜の夢】2-21
ドラコを宿のベッドに寝かせると、コバヤシとメイは二人でちょっと早めの夕食、もしくはかなり遅めの昼食を取ることにする。この世界の人たちはきっちり三食にこだわってるわけでもないのが、コバヤシの体質的にもマッチしていた。
まぁ無理やりにでも胃に何かを送らないといけないという状況もかつてはよくあったが、、
ブラッキーな生活は胃を破壊するのである。そんなことを彼はしみじみと思い返す。
二人は宿からも近いウエスタン風なレストランで食事を取ることにした。ドラコへも何か買ってってやろう。
二人だけで食べてきたと知ったらもしかすると怒るかもしれないな等と想像すると、少し面白くて笑ってしまうコバヤシであった。
この日のご飯はなんとステーキ(依頼達成祝い)にパンとサラダ、そしてスープといった感じである。普段は米派やパン派など気にもしたことがなかったコバヤシであったが、さすがにそろそろ米が恋しいなと思ってきていた。
この世界にも米的なのがあればいいんだが、、
ドラコにもお土産を渡し(ぱくむしゃごっくん)、夜も更けてきたので明日に備えてそろそろ寝ておくかといったところで、コバヤシの索敵にひっかかった存在があった。
? なんだこれは、、
その“存在”は赤く光ったり消えたりを繰り返している。そしてすでにそれは街の中に侵入していた。
ちょっと用事を思い出したと、コバヤシは二人に告げ、一人そちらへと確認しに向かってみる。場所はここからそんなに遠くない。
ここまで気づかなかったのはこの不思議な反応のせいだろうか、、
そんなことを考えながらも、彼はいくつかのケースに備える。
・・・
そこはかなり入り込んだ路地裏であった。
魔物の姿は一切確認出来ない。
しかし索敵の赤い点は、そこに居た“一人の女性”を間違いなく指していた。
確かに人間にも反応したケースはこれまでにもあったが、、
コバヤシはこの世界に来たとき最初に出くわした暴漢共を思い出す。
しかしそれにしては、、
コバヤシからは、その女性の後姿しかここからは確認することができない。
こんな路地裏に一人で何をしているんだろうかと、まず最初にそう考える。
コバヤシはしばらく物陰に身を潜み、この女性を観察することに決める。
「 」
なにやら独り言を時々呟いているようなので、意識してそちらに耳を澄ます。
「今日も出来なかったら…」「…か分からないし…」
コバヤシの《聞き耳》スキルでも全部を聞き取ることができなかったが、女性の声なのは間違いないようであった。
しょうがないな、、
コバヤシは念のためにアイテムボックスから投擲用の石を一つだけ取り出しておく。そして、
「そこを動くな」
コバヤシははっきりとその女性に聞こえるような声を出す。
女性は後ろからでもわかるほどびくりとし、そのまま硬直している。
なんだか悪いことをしてしまっている気がするんだが、、
しかしいまだ索敵とマップスキルには赤の点がちかちかとしているのだった。
この女性に“悪意”があるようには思えないが、、
そんなことを思いつつもコバヤシは警戒を緩めない。
「後ろを振り向かずに答えろ」
コバヤシは物陰からその女性の様子をうかがいつつ続ける。
すると女性はこくりとうなずく。
とりあえずコミュニケーションは取れる、、
「ここへ来た目的を話せ」
・・・。
女性はうんともすんとも言わない。どうしたのだろうか、、
「素直に話せば危害は加えない」
まるでこっちが犯罪者じゃないか、、
コバヤシはそんな印象を自分に受ける。
「・・・・・りに、、」
しまった、聞き逃してしまったか。もう一度尋ねてみる。すると、
「…男漁りに、、」
・・・聞き間違いだろうか、、
コバヤシは更にもう一度尋ねる。
「…だから、、男漁りに来たんだって!」
女性が急に声を荒げる。そして聞き間違いではなかった、、
ついに索敵スキルがいかれてしまったのだろうかと本気で心配になるコバヤシであった。
「…男漁りに来ただけ、、?」
嘘だろと思いつつもコバヤシは再び尋ねる。
「だけってなによだけって!」
こっちには大事なことなのよと彼女はぷんすかと怒っているようであった。
「…人に危害を加える気はないのか、、?」
なんてくだらないことにくいついてしまったんだ恨むぞ索敵スキルよと思い、早く帰って寝ようと考えつつも最後にコバヤシは尋ねる。
すると女性は、突然びくりとし、
「べ、別にそんなことアルワケナイジャナイノヨネー」
なぜ急に片言になる、、
「何か隠しているな」
嘘をついているのであればこのままほっとくわけにも行かない。王立兵にでもつまみだすか、、
そんなことを考えながらコバヤシは相手の反応を待つ。
「…本当に、、」
少しして相手が話し出す。どこか声が震えている気がした。
「本当に、、素直に話せば攻撃してこない、、?」
コバヤシは自分がとんでもなく悪役になっているかのような気になる。
「あぁ」
彼女に対してそう告げると、その女性はこちらに対してこう告げるのであった。
「私は、、、“サキュバス”なの」




