【嵐の前】2-20
王都へ帰ってきた一行は、さっそくギルドへと依頼の完了報告と納品を済ませに行くことにする。
「それじゃ、わたしが済ませてくるから二人はここで待ってて」
そう言うなりメイは、ドラコをおんぶしたコバヤシを置いてギルドの受付へと歩いていく。
依頼の報告で必要になる素材(ゴブ耳や鉱石など)はあらかじめメイに渡しておいた。
コバヤシはその間に新しく取得したスキルと称号の確認を行うことにする。
いつのまにかいくつもの称号やスキルが増えているのはいつもどうりのようで、称号のいくつかは相変わらずふざけたものであった。『びくともしない』などがその一例である。なんなんだこれは、、
あの時のVIT強度実験のたまものなのだろうかと彼は一瞬考える。ちなみに装着時の効果はVIT+10である。
待てよ、、ステータスをいじっただけであの防御力が手に入るということは、この世界での、いわゆる“強さ”というのは果たしてどのように手に入れていくものなのだろうか。
例えば“筋トレ”をしたら、コバヤシで言うところの“STR値”に影響が出るのだろうか、、
しかし自分以外の人間にはどうやらこの“ステータス”の概念が無いようなので、それもいまいち考えにくい。やはり共通認識である“レベル”を上げていくということなのだろうか、、
前にメイが教えてくれた“教会”ってやつにでも行ってみるかとコバヤシは考える。
それにしても、この“称号”とやらは一体誰が(または何が)決めているんだろうか、あのサポセンとやらか、、?
わからないことを考えても仕方ない、これはこういう仕様なのだと認めて諦めて受け入れて生きていけばいいのである。以上が社畜の心得その1。
スキルはわりと役に立ちそうなものもあったので、あとで確認してポイントを振っておくことにしよう。
「おまたせー」
そうこうしている内にメイが戻ってくる。背中のドラコもだいぶ回復したようで、自分の足で歩くとのことだった。
思ったよりも報酬が良かったらしく、メイはホクホク顔で報酬を山分けする。
「それじゃ、この後はどうする?」
彼女はこちらに笑顔を見せながらそう尋ねる。
コバヤシは、ちょっと行って見たいところがいくつかあったので、メイに付き合ってもらうことにした。ドラコもどうやら付いてきたいとのこと。
「ちょっと買いたいものがあるんだよ」
そう言ってコバヤシは前を歩き出す。
・・・
見えてきたその建物は前回来た時同様、金色の看板がよく目立つ店であった。
「あら、行きたいところって“リザルディオ”だったの」
メイはお店を見上げながらコバヤシに話しかける。
この店を知ってたのかいと彼女に尋ねると「まあ有名だしね、ここ」とのこと。
ここ有名だったのか、、
からんからん、
一行は店の中へと足を踏み入れる。後ろでドラコが「おー」と声を上げるのが聞こえた。そういえばドラコが好きそうな店の気がする。
「いらっしゃい」
奥から声が聞こえる。おそらくはあのトカゲ亜人のイケメンであろう。
確か、、あっちだったはずだが、、
そうしてコバヤシはうろ覚えながらも目的のぶつがある場所へと向かう。
よし、、
たどり着いたその場所にはコバヤシが探していたものが置いてあった。
『冒険者女子に大ブレイク! “魔物食ノススメ”』
一瞬だけためらうも、そのポップ?の隣に平積みで置いてある本を一冊取る。更にその周りに置いてあったいくつかの調理用品も買っていくことにする。関連商品ということだろうか。
「なにこれ、、」
すると後ろからメイが覗き込みそう呟く。
「いや、ザッチョさんの料理見てから色々と考えたんだよ」
あれぐらい魔物を美味しくいただけるようになれば、冒険がもっと楽になるかもしれない。そして食費も浮くかもしれない。一石二鳥ぐらいはあるだろう。魔物なんて道中いくらでも手に入るだろうし。
一度試せばおそらく《料理スキル》のようなものも手に入るはずだと彼は考えていた。
メイは隣でう~んとうなっている。
彼女の料理スキルは壊滅的らしいからな、、(ゾフィー談)
「アキラって料理も出来るわけ、、?」
彼女は疑いの目をこちらに向ける。
「まあそれなりには出来ると思う」
それにこの本を読んでいけば、いつかアイテムボックスに封印されたままのあの“竜の頭”も料理できるようになるかもしれない。
そんなことも考えつつコバヤシは受付の方へ歩いていく。
「ドラコ、これ求む」
いつのまにか隣に現れていた赤毛の少女は、その小さな手になにやら“ビーフジャーキー”のようなものを握り締めていた。いくつかが紐でくくられているようである。
コバヤシはドラコの頭を撫でながらそれを受け取る。
「おや、、あなたは確か、、」
コバヤシさんでしたねと、相も変わらず真っ白なローブに身を包んだグラナダが言う。
彼は一度聞いたことのある客の名前はだいたい覚えてしまうということだった。すごいんですけど、、
「もしや、彼女が例の、、?」
そう言って彼はメイの方をちらりと見る。メイは不思議そうに首をかしげる。
例の、、、あぁ、、
「いや、、セフィアの件とは関係ないですよ」
メリエに帰ったらやらなければならない使命を思い出しながらコバヤシはそのように返す。
そうでしたかと一言だけ言って、グラナダは商品の合計金額をコバヤシに伝えてくる。深く突っ込んでこないこのクールさもまた彼の魅力としている気がした。メイは「何の話」という顔でぽかんとしている。
ドラコはグラナダの顔をさっきからじっと見つめていた。一目ぼれでもしてしまったのだろうかと、コバヤシは冗談交じりに考える。
「ありがとうございます」
また機会があればぜひお立ち寄りください、そう言ってニヤリと笑う(とコバヤシは思った)彼はやはりイケメンの香りがするのであった。
「次はどこ行くの?」
リザルディオを出てから、メイはコバヤシにそう尋ねてくる。
コバヤシは先ほど買った諸々を全てアイテムボックス鞄に収納すると、彼女に次の目的地を告げる。
「次は。前にメイが話していた教会?に行って見たいと思うんだけどいいかな?」
するとメイは少し嬉しそうに「いいわね!」といって案内を引き受けてくれる。
ドラコの方もちらりと見ると、こちらはコバヤシの顔を見てから「いいとも~」と元気に?了承する。
サングラスの司会を懐かしく思い出しながらも、コバヤシはドラコが差し出してきた手を握り返し、メイの後を付いていく。
・・・
現代日本で社畜生活を営まされてきたコバヤシにとって、“教会”というものにはあまりなじみが無く、なんならこれまで一度も行ったことがない気がしていた。信仰心というものとは程遠いところに居る彼である。
見えてきたその建物は、メイが前に教えてくれた通り荘厳な造りの巨大な建築物であった。
大きな門は開放されており、どうやら誰でも自由に出入りが出来るようだ。軍の兵士が入り口に何人か立ってはいるが、出入りする人間のチェックなどは特に行っていない。
門から入ると、その中は少し薄暗いものの、いくつもの光によって、これはおそらく魔光石の光ではないかと彼は考える、その建物の内部を照らしている。
中には何人もの人間が祈りを捧げたり、静かに瞑想?していたりしていた。
不思議なことに亜人の姿は一人も見られない。
亜人は信仰心が薄いとかそういうことだろうか、そちらのが仲良くなれそうだなと少し冗談交じりにコバヤシは考える。
「あそこに居る人間が“神父”っていって、お願いすれば自分のレベルを教えてくれるの」
メイがそう言って指をさした先には、青色のローブを羽織ったおじいさんが中央奥の方に座っている。そのエリアだけ特別に区切られているようだ。
それにしても“神父”ね、、
この世界の宗教は一体どういう仕組みになっているのだろうか。コバヤシは前の世界でもそもそも詳しくなくまた興味も無かったが、異世界の宗教となると少しは興味もでる。
まあそのうちでいいかな。
コバヤシはざっと辺りを見回した後にそう思う。どうもこういった場所が好きにはなれそうに無かった。隣のドラコを見ると同じようで(もしくは疲れてしまっているのか)コバヤシの手を握りながらこくりこくりと眠ってしまいそうである。彼はそんな少女を再びおぶることにする。
メイが「ちょっとレベルを聞いてくるわ」と言って“神父”なる人間の下へと歩いていくので、コバヤシはその様子をじっと観察することにする。
思ったような展開は特に無く、神父のおじいさんと多少言葉を交わしたかと思うと、すぐにメイはこちらへと帰ってくる。
「これで終わりなのか?」
コバヤシは少し驚いたように彼女にそう尋ねる。
「えぇそうよ。アキラも行ってみる?」
ドラコは預かっててあげるから、メイはそう言うとドラコのおんぶを引きうける。少女はすでに快眠モードであった。
コバヤシは一瞬ためらうも、自分の“ステータス表示”との比較が知りたかったので試してみることにした。彼はその“神父”なる怪しげな(コバヤシにとっては)老人の下へと歩いていく。
・・・。
「“14”ですな、、」
あっさりとその老人はコバヤシにそう告げる。開いてるのか分からない目でコバヤシを見つめたかと思うと、すぐにそう告げてきたのだった。そしてその数値は、自身がいつも確認できるものと誤差も無い。
なんでも“神父”の人間は相手の『レベル』と『クラス』の確認をすることが出来る特殊な能力があるらしい。
そういえば『クラス』の確認は忘れてしまったなと、メイの元に戻りながら思うコバヤシであった。
まあ次回でもいいか、、いまのところそれほど興味があるわけでもない。
そうして彼は、ドラコのおんぶ権を再びメイから取り戻すのであった。
『ドラコのおんぶ権』…特に欲しいアイテムというわけでも無い。
後でメイから教えてもらった『クラス』についてはこんなところだった。
「自分の適性があるもののみ成れる」「“クラス”とか“ジョブ”とかって言われているけど」「クラスによって出来るようになることとか変わってくるのよ」「魔法使いなら魔法、剣士なら剣術とかってね」「自分のクラスに必要な技術とかはあっというまに得ることが出来るんですって」・・・
なかなか複雑なシステムのようであった、、
機会があれば&よっぽど気が向いたら、またサポセンに聞いてみてもいいかもしれない。
あれが知っているか&話が通じるかはかなりの賭けであるがとコバヤシは考えながらも、宿へ向かってその帰り道を歩いていくのだった。




