【日差しに馬車は揺れ】2-19
この心優しきドワーフはなんと、次の日の朝食までご馳走してくれた。
「昨日の肉のお礼だぁなぁ」
彼はそう言って豪快に笑う。お礼をお礼で返されてしまった、、またなんとしてもお礼を返さなければというよくわからない使命感に燃えるコバヤシであった。
料理は彼の趣味の一つでもあるようで、腕をふるえる機会があってこっちも嬉しかったとのこと。コバヤシもいずれはこちらの世界でも料理をたしなむぐらいにはなっておきたいと思うのであった。ちなみにメイは料理スキル皆無らしく、曰く「原料だけで十分なのよ」らしい。その割には今日の朝ごはんをパクパクと食べている彼女である。昨日あんまり食べてなかったもんな、、
「く、、、美味しい、、」
悔しそうにも食べ続ける彼女の姿はどこかシュールで笑えるものがある。ドラコは通常運行である「おかわり~」
一行は朝食を食べ終わると、鉱山を抜けるべくザッチョの家を後にする。彼が途中まで案内してくれるとのことだった。至れり尽くせりである。なんて良い人、、いや良いドワーフなんだ、、
・・・
「あとぁここをまっすぐ行くだけだぁなぁ」
ザッチョはコバヤシ達三人に向かってそう言う。彼の案内に従ってここまで来たが、道中で魔物には一匹も出くわさなかった。もしかしたらそういう道を選んでくれてたのだろうか、、
「本当にありがとうございました」
また必ずお礼をしに伺います、コバヤシはそう言ってザッチョに深々と頭を下げる。
「ざっちょ~」
ドラコは右手をグーにして彼の左手にこつんとぶつける。どんな挨拶だ、、
「…まぁ、ありがと、、」
メイがぼそりとそう呟くのが聞こえると、コバヤシとザッチョは目を合わせて笑う。
んじゃ気をつけてえなぁ、彼はそう言うなり再び鉱山の奥へと消えていった。
「…それじゃ、俺たちも帰ろうか」
コバヤシはメイとドラコの方を向きそう告げる。
二人はこくりとうなずいてコバヤシの後に続く。
それにしても、、
彼はマップと索敵のスキルを確認しながら考える。
この鉱山の奥底には、なぜか多くの魔物が集中していることが分かっていた。
魔物がこんなにも“群れる”ということがあるのだろうか、、
メイに尋ねてみようかと一瞬考えるも、今回はもう依頼も達成できることだし良いかと思い直す。
妙な心配掛けてもあれだしな、、
コバヤシは改めて出口までの道を確認しながら、後ろの二人を気にしつつ前へと進んでいくのだった。
・・・
外の光は久しぶりな気がした。
コバヤシ達三人は鉱山の外へ出ると、皆一様に伸びをする。やはり太陽(と呼ぶのかは分からなかったが、、)と広々とした地上は気分が良い。
「た~い~よ~け~」
ドラコが両腕を思いっきり上へと伸ばしながらよくわからないことを口にする。まあこいつは半分くらいよくわからないことを口走るが。
「さっ、それじゃ馬車停に向かいましょ!」
メイもやはり地上の方が調子良いらしく、颯爽と前を先導していく。
この調子ならだいぶ早く王都に帰れそうだな。
コバヤシはそう考えながらもメイの後に続く。
一行は、ちょうど王都行きの馬車が出るところに間に合い、急ぎそれへと乗り込む。
「王都行き出発しま~す」
ぴしっと御者は馬に鞭をふるう。旅馬車の馬達はみな、コバヤシが知っているものよりも小柄な気がした。どちらかというとロバ、もしくは昔の日本馬のようなものの方が近いイメージであった。もっとも、この生物が本当に“馬”なのかどうか合ってるのか疑問に思い、メイにさりげなく名前を尋ねてみるとやはり“馬”という答えが返ってくる。
これは仮説だが、おそらくこの言語スキルが、自分の知っているものと近いものを自動翻訳してくれてるんではないかとコバヤシは考えていた(ちなみに“太陽”も“太陽”とのことだった)
こうして考えてみると、まだまだこの世界についてはよくわからないことばっかりだな、、
あとは何があったかとコバヤシは考えながら、メイにいくつか尋ねていくことにする。
「これは前から思っていたことなんだけど」
そう言ってコバヤシは続ける。
「“一月”って何日あるの?」
細かい時間の概念が曖昧なのはすでに気づいていたが、いまいち月日や年の概念についてはよくわかっていないコバヤシであった。中世程度の文明ならばこの概念はあるはず、、
「あと、“一年”が何日なのかも知りたいかな」
そう言ってからコバヤシはメイの顔を見る。
彼女は「アキラってほんとに色んなこと知らないのねえ」と少し驚きながらも、丁寧に細かく教えてくれる。コバヤシがかつて居た世界とはやはり少し異なるようであった。
まずはそうね、、
一月は30日ずつで、一ヶ月は上月・中月・下月の三週間に分かれてるわ。一年は10ヶ月。太陽の動きで決められたものらしいんだけど、ごめんなさい、私も詳しいことまではあまり知らないの、、
エルフはエルフでまたかなり話が変わってくるんだけどね、メイは最後にぽつりとそう呟く。
ふむ、一週間が10日で、最初の一週間を上月と呼ぶ、か、、
これは慣れるまでかなり大変だぞと思うコバヤシだったが、しかしそこまで時間に追われるようなことをしているわけでもないから思ったよりも大丈夫かもしれないとすぐに考え直す。
なんだかんだ細かい時間の概念無しでもやっていけているしな、、
あちらの世界に居た頃とはえらい違いであった。
「ありがとう」
コバヤシは、教えてくれたメイに礼を言う。ちなみにドラコは途中から再び馬車の揺れに倒れてしまっていた(ぉのれ、、せかぃ、、)
着いたらまずはギルドに報告行って、、
それからどうしたもんかと少し考える。宿に戻るにはまだだいぶ早い気もした。
「明日はお休みがてら王都の観光でもする?」
メイがそう言ってコバヤシの方を見つめる。
そうだった、、観光もしたいのだった、、
そうしようかとコバヤシは彼女に一声かけた後に、おすすめの王都スポットを教えてもらうのだった。




