【エルフ&ドワーフ 2】2-17
食事を終えたコバヤシ達一行は、おのおの自由に過ごすことにした。
メイは結局あまり食事に手をつけなかったので、ドラコがその分を全てたいらげる。そして異常に膨れ上がったおなかを上にしてすでにおやすみタイムに入っていた。どうやら服は脱ぎ忘れているようである(助かった)
「そんじゃぁ俺ぁちょっとやんなきゃいけんことがあんでなぁ」
ドワーフはそう言うなり隣の部屋(キッチンとは逆側にある部屋だ)へと入っていく。
コバヤシはその部屋をちらりと覗いてみると、そこは鉄と油が混ざり合ったような匂いで満たされていた。
「ここは、、」
俺の仕事部屋だぁなぁ、彼は壁に立てかけられているいくつもの種類があるハンマーを確認しながらそう告げる。
ゲーム知識には疎いコバヤシであっても、ドワーフが鍛冶等を得意とするということは聞いたことがあった。
本当にそのとおりなんだな、、
コバヤシはその“仕事部屋”を観察しながら考える。
「それよりにいちゃんよぉ」
ザッチョがこちらを向き話しかける。彼の視線は、コバヤシが腰に身につけているボロボロナイフへと向いていた。
ちょっとその剣見せてもらってもいいかぁと彼が言うので、コバヤシは自分のナイフ(一応)を抜き、それを手渡す。
「…こいつぁひどすぎんなぁ、、」
ドワーフはため息混じりにそう呟く。少し恥ずかしい、、
ついでだ、ちょっとこいつもいじってやぁらぁと言って、コバヤシのナイフを火(炉?)にかける。
いくつもの専門的な道具が数多く置いてあったので、コバヤシにはその一連の流れを理解することは出来なかったが、ザッチョはまるで流れ作業でもするかのように淡々と作業を進めていく。その動作の流れにはもはや美しさすら感じさせる。
これが職人技というやつなのだろう、、
そんなことを考えながらコバヤシは彼の、ドワーフの職人技に魅入る。気が付くとメイも扉の近くで、むすっとしながらその様子を眺めていた。
火であぶった(?)コバヤシの“元ボロボロナイフ”を取り出すと、ザッチョはそれに向かって勢いよくハンマーを振り下ろす。
カァンと心地いい音が部屋の中に響く。その音が何回か続いたかと思うと、彼はまたナイフを火の中へと入れる。どうやらこの作業を何回か繰り返していくようであった。
周りをよく見ると、おそらくは彼が打ったのであろうと思われる“作品”がいくつも置いてある。
そのどれもが、コバヤシですらも一目で分かるほどに素晴らしい出来であった。すさまじいといっても良いかもしれない、、
もしかしてこのドワーフって実はすごい人なのか、、?
それともドワーフとはみんなこういうものなのかもしれないな。
コバヤシがぼんやりとそんなことを考えていながら部屋を歩いていると、作業中の彼に近づきすぎてしまっていたらしく、勢いよく彼の振り上げたハンマーが、コバヤシの後頭部へと、
ごっ
直撃する。
「いっ!!」
いや、、痛く、ない、、?
「おおぉいあんちゃん! 大丈夫かぁ!?」
「アキラ! 大丈夫!?」
ザッチョとメイがこちらを心配そうに見つめてくる。
大丈夫だよ、コバヤシはそう言って自身の後頭部をさする。
衝撃のわりに、あまりにも痛くなさ過ぎる、、
打ち所が良かったなどという程度の問題ではないように思う。
とすれば考えられるのは、、
コバヤシは自身の考えを整理しながら、ある実験を試してみる。
「ザッチョさん、このハンマーを一瞬お借りしてもいいですか?」
コバヤシは壁に立てかけてあるハンマーの中で、一番軽そうなものを指差して尋ねる。
んぁ~? 良いけどなにすんだぁ?
「ちょっと試してみたいことがあって」
コバヤシはそう言ってそのハンマーを取り、そしてメイの方を振り向く。
「メイ、ちょっと来てくれ」
彼女は一瞬きょとんとした顔でコバヤシを見つめるも、彼の言うがまま、一行が先ほど食事を取っていた隣のホールへと移動する。
コバヤシはその際に「ザッチョさんはそのまま仕事を続けていただいてかまいません」と告げておくことを忘れない。
そうしてその仕事場のドアをしっかりと閉める。
よし、、
「メイ、このハンマーで俺のことを叩いてくれ」
コバヤシは彼女に先ほどのハンマーを渡しながらそう伝える。
「…え?」
彼女はぽかんとしながらそれを受け取る。
「力は、そうだな、、」
7~8割ぐらいで頼む。
そう言ってから、衝撃に一応備えて身体を半身に身構える。
「いやいやいやいやいや、、え、、?」
メイは訳が分からないといった感じでこちらを見つめている。
「後で説明するよ」
コバヤシは説明を後回しにして彼女を急かす。
するとメイは顔をしかめながら「ほんとにだいじょぶなの、、?」と聞いてくる。
コバヤシはそれに対してこくりとうなずく。
「…りょーかい、、」
メイはそう言うと、コバヤシの指示通りハンマーを横へと振り上げる。
これで推理が外れていたら、、
コバヤシは一瞬そんな考えが浮かぶも、いずれは確かめなければいけなかったことだと思い直し、再び意識を集中する。
それじゃ、、いくわよ、、
そう言って彼女は、ハンマーをそのまま水平にコバヤシへと振りかざす。




