【エルフ&ドワーフ 1】2-16
「ドワーフ、、」
後ろでメイがぼそりとそう呟くのが聞こえた。
これがドワーフ、、?
「ひげもじゃ」
ドラコがなにやら目の前のドワーフなる存在に対しての感想をもらす。コバヤシの感想も似たようなものだった。
その“ドワーフ”はランタンのようなものを掲げていた。もう片方の手には斧?のようなものを手にしている。上半身は体毛で埋め尽くされており、後で分かったことだが服は着ていなかったようだ。それほどまでに体毛の濃さがすさまじかったのである。下半身はわりとしっかりとした生地の短パンを穿いていたようだ。持っている斧のようなものを下げるのであろう鞘みたいなものも付いている。
「はじめまして、こんにちわ」
コバヤシはそのドワーフに対してとりあえず挨拶を試みる。
「おおぅ!」
彼なりの挨拶だろうか、手に持っている斧を振り上げこちらへ声を上げる。どうやらこれが普通の声量のようであった。彼が声を出すたびに周囲がみしみしという気がする。気のせいであって欲しい。
「おっす」
ドラコも彼女なりの挨拶を返す。戦闘民族なのかこの子はと思ったが口には出さない。
「・・・。」
ん? メイの様子がどこかおかしい。
「メイ、どうかした?」
すると彼女は渋々といった感じでコバヤシの後ろから出てくる。
「…どうも、、」
メイは何故かこのドワーフと目を合わせようとしない。
「んぁああ? なんじゃエルフも居ったんかぁ」
彼はメイの方をじろりと見つめながら言う。
なんだろう、、どこか二人の間に違和感を感じるコバヤシであった。
何しにここに来よったんじゃと言うので、コバヤシは依頼のことについて軽く説明をする。
「それなら今日はウチに泊まってきいやぁ」
彼はそう言ってコバヤシ達ににっこりと笑いかける(おそらく笑っていただろうと思う)
今からじゃ帰りの馬車に間に合うかわからんぞと彼は教えてくれる。
確かに鉱山の中に居ると外の様子が分からなかったので、今どのぐらいの時間、昼なのか夜なのかを確認することが出来なった。
「どうする、二人とも」
俺は彼の世話になるのも良いかと思うけどと、コバヤシは二人にも尋ねる。
「ドラコ、いっぴょう」
そう言うと少女はぴっと手を上げる。おそらく賛成という意味だろう、、
「…まぁ、二人がそう言うなら、、」
さっきからどうもメイの様子がおかしい気がした。
「んじゃ俺の寝床に案内してやんよぁ」
再びドワーフは大きい声を出すと、鉱山の奥へと歩き出す。
・・・
そこはとても鉱山の中にあるとは思えないような家だった。
コバヤシ達一行がたどり着いたそのドワーフの寝床は、まるで大きなホールのような場所になっていた。
石造りの重厚な扉を開けるとこの空間が広がっていたのである。
天井はかなり高く、よく見るといくつもの柱が天井を支えているかのように思われた。コバヤシは建築に詳しくなかったが、それでもこの家の造りのすごさは理解できてしまう。
「まぁ適当な場所で寝てくんやぁ」
“ザッチョ”と名乗ったそのドワーフは、なんと今日のご飯もご馳走してくれるとのことだった。
何か手伝うことありませんかと尋ねると「客はゆっくりしていきんさぁ」と言われたので、このホールで三人はくつろぐことにする。
それにしてもこんな広い部屋、メイは好きそうなものだが、さっきからずっとむすっとした顔をしていた。
どうしようかと少し考えるが、コバヤシはメイにどうかしたのかと結局尋ねてみることにする。
「いや、、その、、」
彼女の答えはどこかはっきりとせず、いつもの彼女らしくない。
もしかして体調が優れないのだろうかと少し心配になるコバヤシだったが、そこでドラコが
「メイ、ドワーフにがて」
仰向けにくつろいでいたドラコがそんなようなことを言う。
苦手? そうなのだろうか、、
「別に、、苦手っていうか、、」
なにやらもごもごとメイが喋っている。どうやら苦手というのはホントのようであった。なぜなのかはよくわからないが、、
「んぉおーいぃ、できたぞぉ」
ザッチョの声がホールに響き渡る。どうやらこのホールの隣にキッチンがあるようで、彼は巨大ななべをを抱えながらこちらへと歩いてくる。ドラコはいつのまにか正座して待機していた。どれだけ楽しみにしてるんだこいつは、、
ザッチョが持ってきたなべに入っていたのはどうやらシチューのようであった。見た目はホワイトシチューみたいであったが、香辛料が多く使われているようでいくつもの香ばしい匂いがそのシチューからは漂っている。見た目よりもかなり複雑な料理なのかもしれないなとコバヤシは考える。
「いんやぁ~、今日は良い肉が入ってたでちょうど良かったでなぁ」
そう言いながら彼はシチューを四人分に取り分けてくれる。
「ちょっと待ってくぁ」
彼はそう言うともう一度キッチン(?)へと戻っていく。
これは適当に食ってくぁ、戻ってきた彼の手には紐で縛られた大きな塊肉がぶら下がっていた。隣でドラコの目が異常に輝く。
さっそく四人はご馳走を頂くことにする。いただきます、コバヤシは心の中でそう唱える。
シチューと塊肉、そのどちらも香辛料がたっぷりで、コバヤシの好みにとても合うものだった。ドラコは塊肉をかじりついて離さない。メイはまだ食事に手をつけていない。
「料理上手のドワーフなんてね、、」
彼女はそう言いながら目の前のご馳走を眺めている。
「エルフにぁこの味がわからんかもしれんがぁなぁ」
・・・。
なんだこの空気は、、
ドラコはがじがじとまだ肉にかじりついている。
「あー、、この肉は、なんの肉なんですか、、?」
コバヤシはザッチョにそう尋ねてみる。
「んぁ~、こいつはアースワームの肉だぁなぁ」
あーすわーむ?
すると隣でメイの頬がぴくりと動く。
「ふ~~~ん、“魔物食”ってわけ」
魔物食? え?
「あーすわーむうみゃしもぐもぐ」
ちゃんと飲み込んでから話しなさいドラコ。
「これ、魔物の肉だったんですか、、」
「昨日ちょうど見つけてなぁ」
コバヤシがぽつりとそう尋ねると、彼は上機嫌に応える。
もう一口、今度はおそるおそると再びその肉を口にしてみる、が、、やはり美味しい。
一晩漬けておいた甲斐があったぁなぁ、毛むくじゃらドワーフはそう言って、この“アースワームの塊肉”を豪快にかじる。
「まぁエルフの上品な舌にぁ合わんかもだがぁなぁ」
彼はそう言ってメイの方をちらりと見る。
メイはそんなドワーフの方をぎらりと睨み返す。
…だからなんなんだこれ、、
「あーすわーむうんまー」
ドラコは肉から口が離せないようだった。




