【鉱山探索】2-15
その日の昼頃、コバヤシ達一行は無事に目的地である鉱山の前へとたどり着いていた。
ここまでの馬車移動によって再び“ばたんきゅー”のドラコを抱えながら、コバヤシは目の前の入り口を眺める。
ゴブリンたちのせいで人間が近寄れなくなってしまったとのことで、今回はこの鉱山の偵察兼鉱石採取と、あとは出来る限りでいいからゴブリンたちを排除して欲しいという依頼であった。
「さ、それじゃあ行きましょ」
そう言ってメイは颯爽と鉱山の入り口らしきトンネルへと入っていく。
コバヤシはドラコをおぶりなおし、その後へ続く。
マップを見ただけでも分かるほどに、この鉱山の中はぐねぐねとした曲がり道があまりにも多い。
このスキルが無かったら間違いなく出てこられなくなるな、、
コバヤシはそんなことを考えつつ索敵も欠かさない。
確かに何体か引っかかる存在は居たが、まだこちらと接触しそうなのは特にいなかった。
「私は鉱石ってあんまり詳しくないんだけど、、」
でもアキラがいればなんとかなるでしょと、先を進むエルフの声はずいぶんと楽観的である。
というか自分任せだったのか、、
コバヤシは採取して欲しいといわれていた鉱石の名前をメイから一通り聞いておくことにする。
・・・
「メイ、そろそろ魔物とも出くわすかもしれない」
だいぶ奥まで進んでから、それなりに回復したドラコを地面へと下ろしつつ、前を進む彼女にそう告げる。
索敵スキルではすでに周囲の“敵”を何体か確認していた。
メイの顔に少し緊張の色が見える。
すると前方からなにやらこちらへと向かってくる赤い点(コバヤシの索敵とマップ上)が一つあった。鳴き声のようなものを叫んでいる。
ずいぶんと小さいな、、
やがて目視でも確認できたそれは、体格でいうとドラコと同じぐらいといったところだった。ぼろぼろの布をまとい、手には小さいナイフのようなものを握りしめている。皮膚の色は鈍い深緑、いやかなり汚れていたので正確には分からなかった。
これが“ゴブリン”というものだろうか、、
コバヤシはこちらへと向かって走ってくるそれを迎撃する準備を進めながら考える。
「私がやるわ」
そう言うとメイは、ゴブリンに向かって一本矢を放つ。
ドスっという音と共に、放たれた矢はゴブリンの頭へと綺麗に突き刺さる。悲鳴を上げるまもなくそのゴブリンはそのまま地面へと倒れていった。すごいな、、
「まだ何体か居そうだから気をつけて」
彼女の言うとおり、コバヤシ達の周囲にはまだ何体かの敵性反応があった。ふとドラコの方を見ると、どうやらようやく本調子に戻ってきたようで、集中した顔つきになっている。良かった良かった、、
しかしこんな洞窟内で火は使わないようになと、コバヤシはドラコに伝えておく。
「のーどらこふぁいぁー」
少女はそう言って親指をぴっと立てる。
ほんとにわかったのだろうか、、
少しだけ心配になるコバヤシであった。
・・・
「う~ん、、」
三人で周りのゴブリンたちを殲滅した後に、倒れたゴブリンの一体を観察しながらメイがなにやらうなっていた。
どうかしたのかとコバヤシが尋ねると、
「いや、、このゴブリンたち、、ちょっと装備が良すぎる気がするのよね、、」
そう言って彼女は、そのゴブリンが手にしていたナイフを拾い上げる。
確かにコバヤシのそれよりははるかに良いもののように感じられた。というか自分のよりひどいものはおそらくもはや“剣”とは呼べないのではないかとすら思う、、
「装備が良いと何か変なのか?」
コバヤシがそう尋ねると、メイは歯切れ悪く返事する。
う~ん、いや、、まあそういう訳でもないんだけど、、
どうやら彼女なりに気になることがあるようだった。
コバヤシはとりあえず倒したゴブリン達の装備と“耳”を切り取り、片っ端からアイテムボックスへとぶち込んでいく。
いくら依頼完了報告のためとはいえ、死んでるゴブリンの耳をちぎっていくのはなんとなく気持ちが悪い行為のように感じられたコバヤシであったが、隣を見るとドラコはぷちぷちと、まるで野菜の収穫作業のようにゴブ耳ちぎりを手伝ってくれていたので、コバヤシもがんばることにする。
というよりドラコはこの作業をただしてみたかっただけのようであったが、、
…よし、こんなもんだろう。
コバヤシとドラコは、ゴブ耳採取もそこそこにメイの元へと戻る。彼女はまだうむむとなにやら考え込んでいるようであった。
「メイ、ゴブリンの耳はちぎり終わったよ」
「え、、あ、あぁ、ごめんなさい全部任せちゃって、、」
コバヤシが報告するとメイがこちらへ申し訳無さそうに謝罪してくる。
「いいよ、別に重労働って訳でもなかったし」
「楽しかったー」
そう言ってドラコはメイに向かって“ぴーす”をする。
メイはそれを見て微笑みながらも、それじゃあ鉱石の方もぼちぼち済ませていきましょうかと言って、更に鉱山の奥へと進んでいく。
そこから少し歩いていくと、一行は開けた場所に出る。
コバヤシ、メイ、ドラコの三人は、それぞれが暗闇の中でも視界が利くようで、この鉱山の中でも困るようなことは全く無かったが、この開けた場所はそれまでと違い、あまりにも明るく照らされていた。
これは、、
コバヤシは近くの、薄く輝きを放っている石へと近づく。
「“魔光石”よ」
メイはそう言うと、同じく観察するためかコバヤシの近くへとしゃがむ。ドラコも魅入られたようにじっとそれらを見つめていた。
まこうせき?
魔光石、実は魔力の有無を確認にする際にも使われる。天然のものと加工されたものの二種類があり、天然のものはただ薄く光り輝くだけだが、加工すると様々な用途に使用できるものとして幅広く利用されている鉱石である。
メイが話してくれた情報を整理するとこんなところだった。
なるほど、、おそらくは街の光などもこれを代用しているのかもしれない、、
コバヤシは、前にメリエの宿で見た“不思議な光を放つライト”を思い出す。
鉱石の採取とは主にこれらのことらしく、三人でそこらへんにぼんやりと光り輝いている魔光石を、片っ端からアイテムボックスへと放り込んでいく(ホント便利ねこの黒い穴、、)
コバヤシはついでに、投石でも使えそうな石もいくつか入れておくことにする。
するとその時、コバヤシ達の後方でなにやら物音が聞こえた。
メイとドラコの二人は気づいていない。
索敵には反応が無かったので、なにか動物だろうかと思いそちらへと目を凝らしてみる。
コバヤシは一瞬、出てきたそれがゴブリンかと思った。しかしゴブリンというにはずいぶんと恰幅が良くまた全体的に“毛むくじゃら”であった。
その毛むくじゃらはコバヤシ達を見つけると、大きな声でこう話しかける。
「んだぁ~おんめら~」




