【他愛も無いことがいつか幸せだと感じるようになる】2-13
「遅かったわね」
忘れ物はあったのとメイは心配そうに尋ねてくるので、コバヤシはそれに対し大丈夫だったよとだけ応える。
「メイはもうギルドに報告した後?」
「いや、これから行こうと思ってたところよ」
そう言って二人は一緒に歩き出す。
依頼達成報告は基本、完了の証拠と依頼紙があればどこのギルドでも出来るらしい。
今回の依頼はBランク以上の冒険者しか受けることが出来ない高ランクの依頼であったために、報酬もなかなかのことということだった。今ではAランクの上級冒険者メイ様様である。
ゼフィー(筋肉魔法使い)のもとに立ち寄ったのは挨拶も兼ねてとのことだった。それにしても高額報酬の依頼をギルドへ出すほどの魔法使いということは、もしかしたらあの筋肉は実はすごい人とかなのだろうか、、
「う~ん、、まぁ、そう、ね、、」
メイは苦虫をかんだような顔で応える。
「一応ここの王室からの依頼とかもこなしているみたいだから、、まぁ、すごいといえば、すごい、、のかな、、」
王室御用達ということだろうか、それは十分にすごいのではとコバヤシは考える。
「あの人とは付き合いが長いのかい?」
気になっていたことを聞いてみる。
するとメイは、う~んと少しうなった後で、
「長い、わね、、」
そうぽつりとつぶやく。あまり話したくは無いのだろうか。
というかそもそも同郷だしね、、
メイはそう言って、ふぅとため息をつく。
「え? てことは彼女もエルフってこと?」
あまりの動揺に思わず足が止まるコバヤシである。
メイはこくりとうなずくと、コバヤシに向かい、
「…実は今日の晩御飯をご馳走したいって言われてるのよ、、」
みんなも連れてきなって、、メイはそう言うとこちらを振り向く。
「そうなの?」
良いじゃないかとコバヤシはメイに応える。ドラコもきっと喜ぶだろう。
それじゃ、決まりね。はぁ、、
彼女はそう言うと再び歩き出すので、自分はそれに続く。
・・・
「そうだ、俺も何かしらの防具を買っておこうと思うんだよ」
コバヤシはメイと歩きながら彼女にそう話しかける。
するとメイはこちらにいぶかしげな視線をかけながら「アキラ、そんなの必要ないんじゃないの」と返してくる。
確かにそうかもしれないとはコバヤシも少しは思う。
「でも全く防具を付けていない冒険者ってのはやっぱり目立つだろ?」
怪しまれるような要因はなるべく排除したいと考えるコバヤシであった。
ふーんとメイはこちらを見る。
「なら、魔法と武器を使うスタイルだってことにしておけばいいんじゃない?」
私もそんな感じだしとメイは続ける。
「でもアキラが使う魔法って、、」
彼女はそう言ってこちらをじろりと見つめてくる。
確かに、自分の使う“魔法”はよくわからないものが多い(というよりそもそも魔法ではないと思うが、、)
メイのように分かりやすく魔法魔法しているような真似はコバヤシにはできないし、やり方すらわからない。
「まあ魔道士が着るようなローブを羽織っていれば後は向こうが勝手に勘違いしてくれるんじゃないかしら」
それもそうか、、
「それじゃ、そういうローブと、、あとはメイの、そういう弓も買おうかと思ってるんだけど、、」
そう言ってコバヤシは彼女が持っている弓を見る。するとメイはなぜかうれしそうに「なら良い場所を教えてあげるわ」と言ってコバヤシの手を引く。
そうだ、このぼろぼろの短剣も何とかしなくちゃな、、
そんなことを考えながら、メイの後ろをしっかりとついていくコバヤシであった。
・・・
メイおすすめの万屋で、コバヤシはとりあえず紺色のローブだけ購入することにする。短剣もいくつか品揃えがあったが、もう少し考えたかったので今回は見送ることにする。メイが使っているような弓は売っていなかった。前はあったのになぁと彼女は残念そうに呟く。
「もう一軒行ってみる?」
しかしそろそろ日も暮れそうだったので、いい加減ギルドへ依頼の完了報告をしに行くことにする。
ドラコをずっと待たせるのもあれだしな、、
むろんあの子ドラゴンはあのまま寝続けている可能性のほうが高い気がしたが。
「それじゃ、ちゃちゃっと報告済ませちゃうから、ここで待っててよ」
王都のギルド前に着くと、メイはそう言って受付へと向かっていく。
王都内のギルドはどうやら一つだけではないらしく、なんと王都の中だけで5つ存在しているとのことだった。
なんという巨大な街か、、
コバヤシはギルド内をぐるりと見回しながら思う。
いまコバヤシとメイが入っているこの建物の大きさ自体は、メリエのとそんなに大差はないように思われた。大きさだけでなく内部の造りも似通っている。もしかしたら統一されているのかもしれない。
しかしギルドの中に居る冒険者の服装は、メリエのそれと違い、みんながみんな洗練された装備をしているような気がした。
どれも高そうだ、、
「お待たせー」
装備格差にしみじみとしていると、メイが受付から戻ってくる。
「はい、これドラコとコバヤシの分ね」
そう言って彼女はきっちり三等分した報酬の内の二袋をコバヤシに渡す。
ふむ、、こういうことはしっかりとしないといけないよな、、
コバヤシは、メイがそんな当たり前のことをきっちりとしていることに一人感動し、
「ありがとう」
心を込めてそう告げる。
そんな彼を見て、メイは目をぱちくりさせると、すぐにふふっと笑う。
「じゃあ、ドラコのお迎えに行きましょうか」
そう言って二人はギルドを後にする。
これから晩ごはんだぞーと言えば、きっとベッドから一瞬で飛び降りてくるに違いない。
コバヤシはそんなドラコの姿を容易に想像することができ、思わず一人にやけてしまうのだった。




