【“勇者”】2-12
セフィア石を無事に(?)売り払い、いくつかの王都土産も購入したコバヤシであったが、先ほど聞いてしまった“セフィアショック”の衝撃から立ち直れていなかった。
ということはだ、、
彼は落ち着いて思い返してみる。
― 「え、、これ、って、、」
リーシアは差し出されたその石をまじまじと見つめる。
「これは借金とかとは関係なく、(日ごろお世話になっている)自分の気持ちなので」
コバヤシはそれをリーシアの手へと渡す。
リーシアはまだ固まっている。
何か変なことをしてしまっただろうか、、
コバヤシは少し焦るものの、すぐにリーシアが
「あ、ああのそれじゃわたしももどりますすんからので!」
そう言うやいなやすぐに店の方へとかけていってしまった。
・・・。
完璧にアウトであった。内角も外角も関係なかった。
いや、でもリーシアさんは俺が“記憶喪失”だということを知っているはず、、
だからたぶん理解してくれているはずだと考え、再び少し前のことを思い返す。
― 「あの返事は、、まだ少し待っていてくれませんか、、」
少しうつむいた顔で、そう尋ねてくる。
…どの返事だろうか、、
しかしすぐにコバヤシは先ほどのディナーの件だなと気がつく。
「もちろん大丈夫ですよ」
こちらにまた帰ってきたときにでも、
コバヤシはそう言ってリーシアの方を見る。
彼女は、少しほっとしたように息を漏らすと、コバヤシへ向かい礼を言う。
・・・。
「…あぁ、、」
これはやらかしてしまっている。もうどうしようもなくやらかしてしまっている。
そしてリーシア父が自分を睨みつけていた理由も理解できてしまった。理解したくなかった。
帰ったら速攻で誤解を解きに行かなければ、、いや彼女に対して好意が無いとかそういう訳では決してないけれど、、
ぐむむむむとお店の前で頭ぷすぷすさせていると、どこからかコバヤシを呼ぶ声が聞こえた。
「アキラー」
メイがこちらへと歩いてくる。どうやら筋肉魔法使いとの話は終わったようだ。
コバヤシはメイに向かい手を上げる。
こんなとこでなにしてたのと聞かれたので、先ほど行っていた売買の話をさらっとする。
それとなくメイにセフィア石の持つ意味について尋ねてみたところ、まるで常識のように彼女もそれを理解していた。よほど有名な話だということなのだろうか、、
知っているのであればなぜ教えてくれなかったんだと、柄にもなく無責任なことまで考えてしまうコバヤシであった。
そこでメイが、ちらちらとこちらの様子を見ていることに気がつく。
「どうかした?」
メイの方を見て歩きながら彼は尋ねてみる。すると彼女はコバヤシの全身を細くした目で観察しながら、
「ん~、、いや、ちょっとね、、」
歯切れの悪い応え方をするエルフさんであったが、すぐに
「ちょっと気になることがあったのよ」
そう告げながら、その“気になること”について話してくれる。
実はこの国って、一部では“勇者”が居ることでも有名なんだけど、、え? そうね、居る時と居ない時があるのよ。だいたいが“魔王”が現れたという時には存在しているらしいからね、え? あぁそっか、アキラはこういうことほとんど知らないんだっけ、ええそうよ。まぁいまのところ魔王については何の噂とかもないけどねえ。
まぁ魔王のことは置いといて、、
「ここに居る勇者って奴の名前がね、、」
そう言ってメイは再びこちらをちらちらと見てくる。
名前がどうかしたのかとコバヤシは彼女に尋ねる。
すると彼女は「名前がね、、なんとなくアキラと似てるのよね、、」
その勇者なる人物の名前は“タケル・セイドウ”というらしい。現在は他国に居るとのこと。
せいどうたける?
確かに、、まるで日本人のような名前だ、、
もしかしたら自分と同じような境遇の人間かもしれないなとコバヤシは考える。
勇者、魔王、それに転生者か、、
急に増えたいくつかの新しい情報を整理しながら、彼はどうしようかと少しばかりためらう。
あまり気は進まないが仕方ない、、
コバヤシはメイに、ちょっと店に忘れ物をしたからここで少し待っていてくれないかと言い残し、さっと路地裏に入る。
“call”
た~んたたったったった、た~ら~ら~ら~ら~ら、た~ら~ら~ら~、、
冒険へ旅立つ時にふさわしいBGMだな、というかやっぱりこっちのことどこかで見てるんではないだろうか、、
がちゃ
『ちょうぃ~っすぅ! サポセンっすぅ!』
こいつか、、
はずれしかないくじを引いている気分のコバヤシであった。
『ちょ、なんすかコバっちゃんこいつって~、ウケる』
なにが“うける”のかやはりわからなかった。こばっちゃんについてはスルー。
そんなこばっちゃんは、まず“勇者”について聞いてみることにする。
『あ~、なんかそういうの居る世界もあるらしいっすね~』
魔王とかも居たりするらしいんっすよと続ける。
『違う世界から引っ張ってきた人間が“勇者”とかになったりみたいなのは結構あるみたいなんすよぉ』
『てかなんかそのシステム?を真似て造ったらしいっすよ、これ』
『あ、今のオフレコでおねがいしゃす』
『え? いや~、そのセイドウなんちゃらが転生者かどうかとかはこっちじゃわかんないっすねぇ』
『まあ少なくともうちの管轄じゃないんで!』
管轄とかウケる!
コバヤシには特にウケなかった。
『あ、もう聞きたいことはそんぐらいっすか?』
『そんじゃ、自分そろそろアゲアゲのテンアゲにパリピオールなんでぇ!』
『ん~またのご利用をお待ちしてまっするぅ!』
がちゃ




