【その亜人、真実を告げる】2-11
念のため後ろからこっそりつけてきておいて本当に正解だった、、
コバヤシは、大浴場を出た場所にある“憩いの場”らしきスペースでくつろぎながら考える。
ドラコが暴漢達に向かっていった時はびっくりしたが、とりあえず怪我などもなくて良かったと彼は安堵する。心配のあまり暴漢達の内の一人だけ遠くから投石でのしてしまったが気づかれてはいないだろう。
しかしあんなとこで本名を名乗ってしまうなんて、、後で奴らから“お礼参り”にでも来られたら大変じゃないか、、
むろんドラコが倒した暴漢達は全員ここの“王立兵”とやらに事情を説明して確保してもらいはしたが(コバヤシが後でこっそりと行いました)
強さは心配ないかもだが、常識面も少しは教えていかないとだな、、
“コバヤシの教えその1 やるときは徹底してやれ”
いったいどこの闇金だと一人ぼんやり突っ込みを入れていると、
「ふふぇ~、、、」
身体の力が全て抜け切ったような声と共に、ふらふらとしたドラコがコバヤシの元に現れる。
なんて幸せそうな顔をしているんだこいつは、、
コバヤシのふとももに、とんと頭を乗せてくつろぐ少女の顔を見ながらふっと微笑んでしまう。
「ドラコはこのあとどうする?」
くつろぎドラゴンにそう尋ねてみるも、すでにおやすみモードへと移行してしまっているのか、
「ぅ~ん、、むにゃむにに、、、」
起きる気の無い返事で返してくるドラコであった。
しょうがないなとコバヤシは少女をそのまま掬い上げて、一度この少女を宿のベッドに置いてくる事にするのだった。
・・・
ドラコを宿のベッドへと置いてきてから、コバヤシは今度こそ自分ひとりで街中をふらふらすることにする。
まずはリーシアさんのお土産になるものでも買える店があればいいんだが、、
そんなことを考えながら、周囲のお店とマップの二つを確認しつつ、適当に街中を進んでいく。
このマップスキルというものは、どうやら自分の知っている『人名、店名、都市名』などの固有名詞は調べられるらしいということが発覚する。小さ過ぎるものは無理ということなのだろうか、、?
例えばアイテム名のようなものを表示させることは出来ないようであった。
まだもう少し再検証が必要になるかもしれないなと考えていると、コバヤシの目に
『総合商店“リザルディオ”』という金色の看板を付けた大きいお店が入ってくる。
入り口には『王都のお土産はここで!』『買取も行っております。ギルド公認』と書かれた看板も置いてあった。少し興味が引かれたコバヤシはそのお店へと足を踏み入れてみることにする。
からんからんと、来客を告げるベルの音が扉の開閉と共に鳴り響く。
店内には実に様々なものが所狭しと置いている。『王都のお土産はこれで決まり! “ベレッセンクッキー”』『こちらも忘れてはいけない! “ラダ石鹸”』『夜のお供に… “ホルモンポーション”』『冒険者女子に大ブレイク! “魔物食ノススメ”』『まだ持ってないの? “お役立ちコンパス”』・・・
こんなにも色々とあるのでは一体なにをお土産にすればいいのか、、
リーシアさんが好きそうな物なりをレミ辺りにでも聞いておけばよかったかと少し後悔すると共に、レミの分もお土産を一応買っておこうと思うコバヤシであった。
「いらっしゃい」
すると奥のほうから男性の声が聞こえた。店員だろうか、コバヤシはそちらへと足を進める。
少し進むとその声の主の姿が確認できた。
背丈2mはありそうなその男(とコバヤシは思った)は白いローブのようなものを優雅に着こなし、頭にはこれまた白いベレー帽のようなものと、銀縁の丸い眼鏡をオシャレに付け(とコバヤシには感じられた)受付の机越しこちらの方をちらりと見る。
全身が白や銀色で統一されたそのファッションは、彼のその深緑色した鱗の肌によく映える。受付に優雅に座るその大きな(おそらく)トカゲの亜人は、丸眼鏡越しに覗くそのつぶらな瞳をこちらへと向けていた。
コバヤシは一瞬だけ動揺するも、すぐに先ほどメイから聞いた話を思い出す。
彼はいわゆる“成功した亜人”という部類なのだろうか、、
「すみません、少しお尋ねしたいことがあるのですが、」
コバヤシは彼の目を見ながらいくつか尋ねてみることにする。
彼はコバヤシの方を少しだけきょとんとした目(コバヤシにはそう感じられた)で見つめるも、すぐに「なんでしょうか」と応えながらこちらへと来てくれる。
コバヤシは少しだけ事情を説明し、王都のお土産には何が良いのかを聞いてみる。
すると彼は「困った時の“きえもの”」としてこの店のお土産部門売り上げ№1と2を教えてくれる。どうやら先ほど見かけた『ベレッセンクッキー』と『ラダ石鹸』というものらしい。
ずいぶんと親切に色々と教えてくれる彼はどうやらこの店の店主らしく、名前をグラナダというらしい(やはり男、というより♂のようであった)
しばらく店主と会話をしていると、彼のその暖かい(亜)人間性と、頭の回転の速さに感心するコバヤシであった。
さっそくお土産として、石鹸をリーシアへ、クッキーをレミへと買うことに決める。
「そういえば、買い取りも行っているんですか?」
コバヤシは入り口にあった看板を思い出して店主に尋ねる。
「えぇ、うちはきちんとギルドの承認を得ているんで、金額をごまかしたりってことはないですよ」
商売は信頼がモットーなので。
そう言ってニヤリと笑う彼は、知的な雰囲気とユーモアの二つを併せ持つようにすら感じさせる。
それならばと、コバヤシは前にダンジョン迷宮の深部で拾った『セフィア(石)』の残りを鞄から取り出して店主に見せてみる。
メリエのギルドが調査資料として買い取った分と、リーシアさんにお土産で渡した分を除いた余りである。特に使い道も思い当たらないしな、、
「これは、、セフィアですか、、」
グラナダと名乗った彼は、なにやらルーペのようなものを取り出してコバヤシから受け取った石をじっくりと観察している。
なかなか良い状態ですね、、そう言って彼は鑑定作業を終えたのかルーペをしまう。
「確かに、これならうちで買い取らせていただけますが、、」
しかしよろしいんですかと彼はコバヤシに尋ねかける。
何がいいのかコバヤシには分からなかったので、彼にどういう意味かと聞き返してみる。
「これほどのもののセフィアなら、おそらく女性の方は大喜びでしょう」
そう言って彼はにっこりとコバヤシに笑いかける。
あぁ、プレゼントとしてということだろうか。
コバヤシは、実は知り合いに一つ渡してみたところどうやら引かれてしまったという話を店主にしてみる。
「いや~、そのガールフレンドさんもきっと突然だったんでびっくりしたんでしょう」
グラナダはいまだにっこりとこちらを見つめている。
「いや、ガールフレンドではないのですが、、」
コバヤシがそう言うとグラナダはびっくりしたようで、
彼女さんでもない人に渡したんですか、とそのつぶらな瞳が少し大きくなる。
「お客さんも隅に置けませんねぇ」
そして再び笑顔へと戻る。なにかそんなに変なことだったのであろうか、、
と、そこでコバヤシは店内のあるコーナーに気づく。
そこには、どうやら自身がこれから売却しようとしている『セフィア』を取り扱っているコーナーだったようで、他の商品と同様、ここにも多くの“売り文句”が書いてあった。
コバヤシはその中の一つから、衝撃のあまり目を離せなくなる。
『やっぱりプロポーズは男性から! 結婚石“セフィア”』
・・・え?




