『ドラコの大冒険 ~王都お散歩編~ 』
この物語は、王都にてただ一人、自分自身の求める頂へとたどり着かんと懸命にもがき、そして自らの運命に立ち向かわんとする、ある少女の物語である!
・・・
ドラコは、コバヤシからもらった“お金”を握り締めながら街中をぶらつく。
少女の目的は最初から唯一つであった。
ドラコ、必ず見つけ出す、、
周囲に自分の五感をフル活用しながら、彼女は注意深く街中を歩いていく。目的のそれがどこにあるのか、いまのドラコにはまるで見当もつかなかったが、これだけ大きな街なのだからそれもしょうがないことだろうと少女は真剣に考える。
その時、自身の背後、少し遠くから誰かの視線を感じた気がして振り返る。
「・・・。」
それらしい人を見つけることは出来ない。
気のせいだったのだろうか、、
ドラコは気を取りなおして再び自身の使命へと戻ることにする。
ここは、人と、ものが多すぎる、、
街中を歩きながら、ドラコは少しくらくらとしている自分に気づく。
これは、なんとしても早くあれを見つけ出さないと、、
少女の使命感は更に強くなる。
「 」
その時、どこからか女性の悲鳴のようなもが聞こえた気がした。
ドラコは少しそちらへと集中して耳を澄ませてみる。
「・・・・・・ぇてっ!」
やはり、女性が何かに抵抗しているようだった。
ドラコは一瞬だけ逡巡するも、すぐにその声がした方へと駆け出す。
その時なぜ自分がそうした行動を取ったかなど、少女はわざわざ考えることも無かったが、自分がこの世界で最も好きな人なら、たぶん同じことをしていたからだろうと、ドラコは後から考えるのだった。
・・・
「んー! んー!」
口を布でふさがれた女性が、周りを囲む男たち相手に必死に抵抗していた。
「ちっ、何発か殴って言うこと聞かせるか、、」
男たちの会話に、縛られている女性はびくりと震える。
「やあやあやあやあ」
突然、ある少女の声がその路地裏へと響く。どこか感情が入っていないかのような声だった。
「あ?」
男たちは一斉にそちらを見る。
「なんだ、てめえは」
女性を囲んでいた4人の男のうちの一人が、先ほど声を上げた(と思われる)赤毛の少女(いや、幼女と言ってもいいかもしれない)に、どすの利いた声で尋ねる。すると、
「ドラコ、ドラコ」
少女の名前なのだろうか、一声だけそう告げると、彼女は縛られている女性の方をじっとみつめる。
「んー! んー!」
その女性は少女に向かって何かを叫んでいたが、口をふさがれていたためにこのドラコなる幼女にはそれを聞き取ることが出来なかったはずだった。しかしこの紅蓮の髪をした幼女はその女性へと向かってこう告げる。
「おーきーどーきー」
・・・
「ここはお嬢ちゃんが来るところじゃねえんだよ」
怪我する前に帰りな、男たちの一人がドラコに近づきながらそう告げてくる。
そんな男に向かい、ドラコは相手のみぞおち辺りに軽く“突き”を一瞬で入れる。
「ぐぁっ…」
男はがくりとおなかをかかえながらそのまま地面へと倒れこむ。
「はぁ!?」
なにしやがったてめぇ!
残った三人が戦闘態勢に入る。しかしそれは、ドラコからすればあまりにも遅いものであった。
一歩で男たちとの間合いを詰めると、二人目の男に対しても先ほどと同様の“突き”を入れる。
「ぐぁっ…」そしてそのまま倒れそうになるその男の胸ぐらを掴むと、もう一人の男へ向かって思い切りそれを投げつける。
ゴンという大きな音と共に男二人の頭がぶつかりあう。
あと一人、、
ドラコは淡々と掃除を進めながら計算する。
しかしそこでもう一人の男もいつのまにか地面へと倒れていることに気づく。
近づいて見てみると完全に気を失っていた。少女は辺りを見回してみるが、自分と目の前の縛られている女性以外には誰も見つけることが出来ない。
勝手に気を失ったのだろうか。
ドラコは不思議に思いながらも、目の前の女性を縛り上げている縄やら布やらを解く作業に入る。
・・・
「ありがとう、、お嬢ちゃんほんとに強いのね、、」
女性は目に涙を浮かべながら感謝の言葉を口にする。
「ドラコ、ドラコ」
少女は自分の名前を告げることを忘れない。
すると目の前の女性は少し微笑むと「ありがとう、ドラコ」と口にする。
何かお礼をさせて欲しいの、目の前の女性はドラコの目を見つめ真剣な表情になる。
お礼といわれても特に何か思いつくことがない少女であったが、ふと一つ思いついたのでそれを口にすることにした。
「ドラコ、探してるもの、ある」
そして少女は、ついにそれの居場所を突き止めるのであった。
・・・
「おおぉ、、」
目の前にあるそれは、紛れもなく少女がこの街で捜し求めていたものであった。
“共同大浴場”
メリエのものよりも更に巨大であった。ドラコは入り口にて何度も飛び跳ねそうになる(実際には何回か飛び跳ねていた)
前の町では見つけることが出来なかったドラコにとっては、少し久しぶりとなるお風呂であった。
後でコバヤシとメイにもこの場所を教えてあげよう、、
ドラコはこの場所まで案内してくれた先ほどの女性に感謝しつつ、共同浴場への扉を開ける。
「いざ、、」
少し緊張しながらもドラコは奥へと進んでいく。
ふむ、、どうやらみんなあそこで“お金”を渡しているようだ、、
少女はその『受付』と書いてある机へと向かっていく。そしてコバヤシからもらっていたいくつかのコインを差し出す。
ふふふ、ぬかりはない、、
そんなことを考えながらドラコは受付にいる人間へとそのコインを渡して告げる。
「ドラコ、いちまい」
受付の男性は一瞬ぽかんとドラコを見つめたが、すぐにそのコインを確認する。
そしてドラコの方を向き直り一言だけ告げる。
「あと1コル足りてないね」
そして少女の元へとコインを戻す。
「…え?」
ドラコには何が起きたのかまるで理解できなかった。
な、、、なにをいってるかわからねーとおもうが、、おれもなにをされたのかわからなかった、、、
ドラコは混乱のあまり意味不明なことを考える。
つまり、、入れない、、?
あまりの衝撃にうちひがれる赤毛の少女、しかしその時
「すみません」
いつのまにか自分の後ろに立っていた男は、ドラコを通り越して受付に話しかける。少女にとっては、安心感を与える声である。
「大人一枚と、子供一枚お願いします」
はい、ありがとうございます、ごゆっくりー。
「ごめんなドラコ」
たまたまそこでおまえのこと見かけたからさ、
そんなことを言う彼は、いつものように自分の頭を撫でる。
彼のそんな撫で方も、ドラコは好きであった。
少女は先ほどまでの絶望などいつのまにかどこかへと吹き飛んでしまっていた。
そして彼女は、彼の、コバヤシの手をしっかりと握り、満面の笑みでこう告げてやるのだった。
「ドラコ、勝った!」




