【2-A235-PS103番地 東・ベレッセン】2-10
コバヤシ、メイ、ドラコ(コバヤシがおんぶ)の三人は御者に礼を言うとついに王都へと足を下ろす。
「それじゃ、とりあえずは宿を取りにでも行こうか」
そう言ってマップを確認するコバヤシであったが、あまりに広すぎるため何がなんだか分からない。
「しょうがないなあ」
私のおススメを教えてあげよう。メイがそんなコバヤシを見かねてか、自慢げに先導を引き受ける。メリエよりも王都の方が詳しいのだと彼女は言う。
「私が冒険者登録したのもここだしね」
そうだったのか、、
コバヤシは前を颯爽と歩くエルフを見て感心する。
メイは本当に色々なことを知っているな。しかしここでもフードは被ったままなのか、、
時々亜人とすれ違うたびに、どうしてもコバヤシは彼らを観察してしまうのだった。あまりじろじろと見てはいけないのかもとは思いながらも、しかし彼にとってこれはあまりにも“異世界過ぎる”経験であった。
よく見てみると、一人だけで出歩いている亜人はほとんど居ないように思われた。だいたいが富裕層のような服装をしている人間達のそばに居るということが多いように感じられる。まるで護衛、または荷物持ちといった感じである。
そもそも亜人の“定義”は何なのだろう。メイは先ほど「エルフ、ドワーフ、そして亜人種」と言っていた。ということはエルフとドワーフは亜人ではないというくくりになるのだろうか。
またはそこまでしっかりとした区分があるわけではないのかもしれない。
「あそこよ!」
少し考え事をしながら歩いていたコバヤシは、メイの声によってその建物に気づかされる。
その小さい洋館のような建物の入り口には『ドミノ』とだけ書いてあった。ここの名前だろうか、、
メイは先にこの館へと入っていく。コバヤシはドラコのことをおぶりなおしながらもそれに続く。
ギイィ
扉の開く音が少しホラーがかってるな、、
「いらっしゃいませ」
扉の向こうは、外観からはあまり想像できないような広々としたホールが広がっていた。受付がすぐ手前にあり、そこには二人組みの女性が立っている。
メイド服、、のようなものを着ている。コバヤシが知っているようなものとは少し違ったが、それでもその二人が着ていた“制服と思われるそれ”からはやはりメイド服という言葉が正しいような気がした。
メイがさっそく受付を済ませてくれる。するとドラコが少しは回復したらしく「ドラコ、歩く」とだけ言うとコバヤシの背中から降りる。
「大丈夫か、ドラコ」
コバヤシは地面へと降り立ったこの少女へと声を掛けると、彼女はこくりとうなずき辺りを見回している。
受付のあるホールにはいわゆる一つの“螺旋階段”があり、それが二階のフロアへと繋がっていた。
「それじゃ、部屋に行きましょうか」
受付から帰ってきたメイは二人にそう告げる。
・・・
一行は部屋へ荷物を置いて、といってもアイテムボックスのおかげでほとんどなかったが、メイの知り合いだという今回の依頼主へとさっそく会いに行くことにする。
「依頼主はどういう人間なんだ?」
コバヤシはふと疑問を口にする。
う~ん、、そうね、、、
メイは考えながら口を開く。
「なんというか、、変わってる人、かな、、」
そう言う彼女の顔は、まるでなにか苦いものでも食べてしまったかのように顔をしかめている。
“変わった人”か、、
一体どんな人物なのだろう。
それにしても、とコバヤシは街中を再びメイの後ろについていきながら思う。この街の入り口で見かけた鎧の兵士たちは、街中でもちょいちょいその姿を見ることが出来た。
彼らはいったい、、
「あー、確か“王立軍”とか言ったかしら、、」
王様に仕える兵士ってとこじゃないの。メイはコバヤシにそう伝える。
軍もあるなんて、、やはりメリエとはだいぶ様子が違うもんなんだな。
彼はそんなことを思いながら、後ろにドラコが付いてきているか確認をする。
少女はてとてととコバヤシの後ろをしっかりとついてきていた。
もう“酔い”もだいぶ回復したようだな、、
ドラコの顔色はすでにいつもの様子ぐらいには復活しているように見えた。
「もう少しで着くわよ」
メイは、後ろを歩く二人にそう告げる。
・・・
路地裏の奥にその“家”は立っていた。それを“家”と呼ぶには少しためらわれたが、他になんと称したらいいかわからなかったので、コバヤシはそれを“家”と呼ぶことにする。
なぜ崩れ落ちないのか不思議で仕方ない形をそれはしていた。地震がきたら一瞬で崩れ去ってしまいそうだなと彼は思う。この世界に地震があるかは置いておくとして。
もしかしたら魔法のようなファンタジーパワーでこのバランスを成り立たせているのかもしれなかった。いやきっとそうに違いない。
「おー」
隣でドラコが小さい歓声を上げる。こいつにもこの不思議ちぐはぐ建物には思うところがあるのかもしれないな、、
目を輝かせている少女を横目に、少し微笑みながら彼は考える。
「それじゃ入りましょう」
そう言うやいなやメイはすたこらとこの“家”へ入っていく。
メイが扉を開けたとたんこれは崩れ始めるんじゃないかと半ば本気で考えたが、どうやらその心配は杞憂に終わり、彼女は無事に扉の中へと消えていく。
「コバヤシもー」
ドラコに手を引かれ、彼はしぶしぶそのダンジョンへと足を進める(ダンジョン迷宮のがしっかりとした造りだった気が、、)
中はなんと意外にも普通の造りであった。所々に、コバヤシでは何に使うのか全く理解できないようなモノがちらほらと置かれている(転がっている)
「おー」
ドラコは、なにやらよくわからない青色のサッカーボールのようなものを手にとって持ち上げている。
なんとなく危なそうな気がしたのでドラコには何も触らせないように言い聞かせる「ぶー」
とっちらかってはいるが、思ったよりも本当に普通な造りだな、、
そんなことを考えていると、奥からの話し声に気づく。メイが誰かと話しているようだ、今回の依頼人とやらだろうか。コバヤシはドラコを引き連れて、その声がするほうへと足を進める。
「やっぱりメイだったか、がっはっはっは」
「やっぱりてなによやっぱりって」
ずいぶんと親しげに感じられる。
「メイ」
コバヤシは二人が話しているその場所へと足を踏み入れる。
「あー、おまえさんがメイの話していた噂の彼かい、がっはっは」
コバヤシを見るなりそう告げるその女性(?)の身体はどう見ても2m近くはありそうであった。膨れ上がった筋肉が腕のわずかな部分からも想像することができる。
しかしコバヤシにとって最も不思議だったのは、この筋肉ムキムキ女性(?)が、いかにもな“魔女”を彷彿させる形の帽子を被り、黒いローブ(と思われる)を羽織っていたことであった。
いや、これはもしかしたらただのマッチョ大男が女装しているだけかもしれないぞと彼は本気で考える。
「何か失礼なこと考えてるんじゃねえのかぁ、がっはっはっは」
大きく笑うその女性(?)からは、やはり“魔女らしさ”のようなものが感じられたコバヤシであった。
「…アキラ・コバヤシです」
そう言ってコバヤシは彼女(?)に向かって頭を下げる。
「ドラコ、ドラコ」
ドラコも目の前の筋肉魔女へと挨拶をする。
「アキラ、ドラコ、こっちはゼフィー・シルエスト・セスタよ」
「ゼフィーで良いぜ、お兄さんと嬢ちゃんよ、がはは」
身体同様に大きな顔でゼフィーは言う。
「それで? 酒は飲めるようになったのかよこのはねっかえりは」
そう言って今度はメイの方へと向き直る。
昔から飲めたじゃない、、拗ねたように言い返すメイはどこか楽しそうでもあった。
しかしメイが酒を飲めるかどうかに関してはノーコメントを貫くコバヤシである。
「そうかぁ? なあお兄さんよ、もういまじゃずいぶんと昔のことなんだがな、こいつそんとき…」
「わぁあああああ!」
ちょっと何言う気なの!
メイはそう言ってコバヤシとドラコを玄関へと追いやろうとする。
「私とゾフィは依頼について確認することあるから二人は王都の観光でもして時間潰してて!」
宿で落ち合いましょう、それだけ言われるとメイからものすごい勢いで追い出されるドラコバヤシであった。
バタン。
一体何を過去にしでかしたのかとても気になってしまう、、
しかしさてどうしたもんか。
そうだ、観光ついでにリーシアさんへのお土産でも探してみるかなとコバヤシは思い至る。
ドラコはどうするかと尋ねてみたところ「うむむ…」としばらく仰々しくつぶやいた後に
「ドラコ、散歩行く」
コバヤシの目を見ながら少女はそう応える。
それならばと、コバヤシはドラコに少しのお金を渡し、ちゃんと宿に戻ってこれるかと尋ねたところ、少女はこちらを向きこくりとうなずく。本当に大丈夫だろうか、、
「それじゃあ気をつけるんだぞ、、」
コバヤシはドラコにそう告げると、
「うむ、くるしゅうない」
そう言い残し、彼女は手をぶらぶらさせながら街へと消えていくのだった。
不安だ、、




