【王都】2-9
「あれが王都よ」
次の日の昼頃、すでに酔いから回復していたメイが、旅馬車一行の進む先に見えてきた巨大なその街を指しながらコバヤシにそう告げる。
旅馬車一行の先に見えてきたその街の巨大さは確かに、メリエのそれより大きいことがコバヤシのマップによって理解出来た。あまりにも巨大な都市らしく、ここからではマップを使っても全容を把握することが全く出来ない。
しかし街を囲む巨大な壁は、メリエのものと非常によく似ている。
なんでも、このあたりの大きな街はこの王都の造りをまねして作られたものが多いのだとか。
なるほどとコバヤシはうなずく。
違う文化圏のものもいつかは見てみたいものだ、、
彼はだんだんと近づいてくるその壁を見ながら考える。
マップで見たところ、いくつかの“層”に別れているという内部の造りも、メリエと非常によく似ていた。
いや、メリエがこれによく似ているのか、、
「そろそろ正門ね」
その門は、あまりにも壮大で、果たしてこの門は本当に閉めることが出来るのだろうかとコバヤシは疑問に思う。
そういえばここも入市税とかあるんだろうかとふと思い当たるが、そういうのもすでにこの旅馬車に支払っているとのことであった。
御者は、あれがこの門の警備兵だろうか、いわゆるフルプレートメイルと呼ばれるような、全身を銀の鎧に包まれた兵士達となにやら言葉を交わしている。
身分証の提示を求められたので、コバヤシは自分のとドラコの分の二つを彼らに見せる。
兵士たちは身分証を見ながら馬車の内部も確認する。地面に仰向けになっているドラコはいまだ世界を呪っている最中であった。もう少しだぞドラコ、、
身分証が返される。そしてようやっとコバヤシ達の馬車は王都の中へ入っていくのだった。
・・・
石畳の道が、どこまでも続いていく。
メリエとは違い、この王都内における街中の道路は、路地裏のような場所を除くとほとんどが石造りのようだ。コバヤシにとっては驚いたことに、大きな通りでは車道と歩道の区別があり、車道には馬車が通りやすいように車輪がスムーズに移動できるような溝まで造られている。
これはなかなかすごい技術レベルだな、、
コバヤシがかつて居た世界の、ヨーロッパのどこかの国といわれてもぱっと見では分からないのではないだろうか。
車道には多くの馬車が混在している。それぞれ移動自体はゆっくりながらもスムーズに行われていた。これだけ車で溢れていたら渋滞なども出来てしまいそうだなコバヤシは考える。
歩道は歩道で多くの人間が行き来しているのが見える。メリエよりも更に多くの“人種”があるように思われた。
ん?
そこでコバヤシはあることに気づく。
「メイ、この王都には人間以外の種族も居るのか?」
彼は歩道を眺めながら尋ねる。
「え? そうね、、エルフやドワーフはあまり見たこと無いけど“亜人種”はそこそこ居るんじゃないかしら」
…亜人種、、
外を歩いている内の何人かは、普通の人間とは明らかに違う外見を保っている生物であった。どうやら個体によって千差万別のようだ、例えば人間のように立って歩いている猫?やトカゲ?のようなものである。
というかドワーフとやらも居るのか、、
コバヤシは先ほどメイから聞いた話を思い返す。
まあエルフが居るのだから、他の“種族”が居てもおかしくは無いと思ってはいたが、、
「彼ら、、亜人の人たちは普通に言葉を喋れるのか?」
外に見える“トカゲの亜人”を見ながらコバヤシは尋ねる。
「王都に居るような人たちはみんなある程度話せるんじゃないかしら?」
彼ら同士で話す時はその種族の言葉で話しているとのことだった。
「まあ中にはたどたどしい言葉遣いの人も居るけどね」
そう言ってメイはコバヤシの隣に来て一緒に窓から外を眺める。
ずいぶんと近いこのエルフの距離感がどうもいまだに掴みきれないコバヤシである。
「ぅ~~~~、、、」
すると、これまでずっと地面に突っ伏していたドラコがうめき声を上げる。
コバヤシはそれを少し心配そうに確認すると、御者にあとどれくらいかかるかと尋ねてみる。
「もうすぐそこですよ!」
御者が指したその場所には、おそらく馬車の発着場なのだろう、すさまじい数の馬車がその巨大な広場に集結していた。
「ルーベン行き~、ルーベン行きはこちらだよ~」「あと一席! あと一席だよー!」「すみませんカミナ湖行きへはどの馬車を、、」「おいもう出ちゃうじゃんかよ! やばいやばい!」…
そこには馬車だけでなく多くの人間も集まっていた。ところどころに亜人の姿も見受けられる。
「あれ?」
コバヤシはもう一度彼ら、亜人達とその周りにいる人間の様子をよく観察する。
・・・。
「メイ、、亜人ってのは、もしかしたらあまりここだと“地位的なの”が高くなかったりするのか、、?」
彼は気になったことを口にする。
「う~ん、そうね、、労働力や奴隷として使われていることがほとんどだと思う、、」
そう告げるメイの目はどこか悲しそうに感じられた。
コバヤシは、ドラコを初めてメリエに連れて帰ったときのことを思い出す。
まあ、、人間の奴隷が居るのだから、そりゃあ亜人の奴隷だって居るだろう、、
「でも、亜人の中でも成功した人たちだってたくさん居るのよ」
メイはコバヤシの目を真剣な目で見つめる。
彼自身、亜人の知り合いは一人も居ないのだから、まだ何一つ判断することは出来ないなと思う。知る前に知ったような判断をするべきではない。
コバヤシは再び車窓に目を戻してそう考える。
今回の旅で、少しでも彼らと関わる機会でもあれば良い。
ドラコにも色々な経験をさせてあげたいと思うコバヤシであった。
その時、がくんと馬車が止まる。
「お待たせしました! 着きましたよ皆さん!」




