【呆れ顔のエルフ】2-6
血抜き自体はメイが一人であっという間に済ませてしまったので、コバヤシは見てるだけで終ってしまう。
「そもそもそのナイフって使えるの?」
メイはちらりとコバヤシのボロナイフに疑惑の目を向ける。
う、、、確かに“斬る”という動作はもはや出来なかった気が、、
「買い替えた方が良いのかな、、」
王都で武器屋にでも寄ってみるかと彼は考える。
「さて、と、これでとりあえず血抜きは完了ね。あとは解体だけど、、」
近くに川とかがあればいいんだけどと、メイはあたりを見渡す。しかしこの近くにはそれらしきものもないのはマップでも分かっていた。
「川があった方が良いのかい?」
コバヤシがそう尋ねると
「うーん、そうね、別に無くてもいいっちゃいいんだけど、、」
でもあったほうがやっぱり便利なのよと彼女は続ける。
そういうものなのかとコバヤシは一人納得する。しかしこれはいい機会であろう。
「それじゃあ川の近くに行くまでこれはしまっておこうか」
そう言って彼はアイテムボックスを開く。
二人の前に、真っ黒で大きく平べったい、マンホールの蓋のようなものが突如出現する。
「っ!?」
メイが瞬時にその場から距離をとる。
ふむ、どうやらこの世界でも“こういった魔法”は存在しないのだろうか(まあこれは魔法ではないのだろうが)
コバヤシはメイの反応を見てそんなことを考えながらも、血抜きされたイボシシの胴体をひょいと持ち上げて、このマンホールの蓋へと投げ込む。すると肉はその蓋へするっと吸い込まれていった。その後ですぐにその蓋は消え去る。
「…今の、、何、、?」
メイはマンホールの蓋が消えたあたりをいまだにじっと見つめている。
「えーと、たぶん俺の魔法的なものなんだ」
コバヤシはなんともあやふやな説明をする。
「気づいたらなんか使えてて、、」これは嘘ではない。
目の前のエルフはコバヤシのことをしばらくの間じっと見つめると、途端にふっと気が抜けたように微笑む。
「なに、気づいたら使えてたって」
そう言うとメイはふふっと笑う。
彼女に聞いてみたところ、アイテムボックスのような魔法は見たことも聞いたこともないとのことだった。
やはりそうかと確認できたコバヤシは、メイにしっかりと口止めしておくことを忘れない。
「へ~、便利なのねえ、それ」
メイは口止めに了承した後で、コバヤシからアイテムボックスの説明を聞くとそう呟く。
今度から私の服とかも入れてよ、
そう言いながら、目の前の彼女は悪戯に微笑む。
その時、コバヤシの索敵に反応があった。まだずいぶんと遠いが、、
ふと思いつき、彼は小弓を一瞬だけ貸してくれないかとメイに頼む。
「別にいいけど、、アキラって弓使えるの?」
彼女は不思議そうな顔をしながらも自身の弓をコバヤシへと渡す。
敵の反応はゆっくりとだがこちらへと向かっている。
よし、、これなら、、
コバヤシはまず先ほどの見様見真似で矢をつがえ、一番近くの木に向かって何とか弓をひいてみる。
意外と硬いもんなんだな、、
コバヤシが放った矢はよろよろとその木へ飛んでいった。
隣でメイが「20点ね」などと笑いながら告げる。
コバヤシはそんなメイの話を聞きながらも、先ほどの敵性反応へと意識を向ける。
それは着々とこちらへ向かっているはずなのだがいまだ姿は見えない。彼は少しそちらの方向をぐるりと観察してみる。
すると、上空になにやら大きな鳥?が飛んでいるのに気づく。
「メイ、あれ」
コバヤシはその鳥のようなものを指差しながらメイに伝える。
メイはその方向を凝視すると少し険しい表情になる。
「“ホーンバード”ね、、」
まだこちらには気づいてないみたいだけど、、彼女はその“ホーンバード”を見上げながら言う。
「危険なのかい?」
聞きながらもコバヤシは静かに自身の“新スキル”を確認する。
「狙われたら結構めんどうね、、」
このまま少し隠れてやり過ごした方がいいかも。
そう提案する彼女を横目にコバヤシは弓を構える。
「え」
コバヤシが放った矢は、先ほどとは打って変わり、すさまじいスピードで一直線にその魔物へと飛んでいく。
矢はホーンバードの胴体に直撃する。
突然の急襲に、矢が突き刺さったその魔物は、気味の悪い悲鳴のようなものを叫びながら地上へと落下していく。
どすんっ
それはコバヤシとメイの居るすぐそばに落下した。近くで見ると思ったよりもかなり大きい。なるほど、ホーンバードというだけのことはある立派な一本の“角”をその魔物は頭部に付けていた。
そういえばと、コバヤシは少し前にドラコが提案していたことを思い出す。
「これは食べれたりしないかな」
目の前の魔物はこれまでのものよりかはまだ可食性がありそうな気がした。
鳥っぽいしな。
コバヤシは目の前で倒れているその魔物を見て思う。
するとそんなコバヤシをメイがあきれた顔で見ていた。
「…なんか、、もう、、もういいわ、、」
食べれるらしいけど、私はこんなの調理したことないわよと、少し疲れた顔で彼女は言う。
そうなのか。それならばと、コバヤシはとりあえず目の前の魔物もアイテムボックスへと丸々放り込んでおくことにするのだった。




