【見上げてごらん】2-3
そこは大きく開けた草原のような場所であった。辺りはまるで地平線まで見通せるかのように広い。
先に着いていたこの“旅馬車”の一行はすでにキャンプの用意や食事の支度など始めている。
こうして見るとかなりの人数がこの旅馬車には加わっているように思われた。
「ドラコー、、大丈夫?」
メイが心配そうにドラコの背中を撫でている。
三人は馬車から降りると、御者に指示された場所へと向かう。そこではすでに食事が出来た順から配られているようだった。辺りは香辛料の良い香りが漂っている。
ふと自分のおなかがそこそこ減っていたことに気づく。
結局ドラコの“馬車酔い事件”でメイもコバヤシもパンを食べ損なっていたのである。
「…ドラコ、、勝つ、、」
すると隣でさっきまでふらふらしていた少女がなにやら宣言めいたことを口にし、料理を食べている人たちを睨みつけ、、、見つめている。
勝つって、、何にだチビドラゴンや、、
コバヤシ達は料理を配布していた人の下へと歩いていき、それぞれ木のトレーいっぱいに食事をもらってくる。
なにやらふかした芋のようなものと、これは、、カレー? いやシチューだろうか、、
味的には薄いカレーといった感じだったが、芋をこれにつけて食べるとこれまた美味であった。
「おかわり」
気づくといつのまにか隣で食事していたはずの赤髪少女が、さきほどの配膳手の前でそのように告げていた。
まぁ、、元気になったようで良かったよ、うん。
最初にこの“party”機能をドラコで確認した時と違って、メイにもあの時と同じように試すのはいささか気が引けた。
というのも、この機能で相手のステータスをいじってしまうと、おそらくいじられた本人にとってはかなりの“違和感”として現れるであろうからだ。
ドラコが敵にやられてしまうなどということがないように、自身と同様HPとVITだけはいじっているが、それ以外はそこまでいじっていない。
メイも同様にしてもいいんだが、、
やはりメイにはこの機能を説明してしまってからの方がいいか、、そうだ、いっそのことこの“party”と“box”は『魔法の一種』ということにしてしまえばいいのではないだろうか、、
少なくとも他の人などに万が一ばれてしまった時はそうすることにしょう。
それでももちろんばれないに越したことはないがと考えながら、コバヤシは自身を納得させる。
三人は夜食を終え(内一人は三杯たいらげ済み)、それぞれ就寝の準備へ入ろうと移動することにする。
どうやら自分達が寝る場所は自分達で選べるらしく、この旅馬車群が囲んでいる、陣営とでも言うべきだろうか、の範囲内であればどこでもいいらしい。
大きなテント(素材は何か動物の皮?)が二つあったが、その中はすでに多くの人間達によって場所取りがされていた。
となりでメイが「ぐぬぬ…」となにやら悔しがっているのがどこかおかしい。
しょうがないので三人は陣営の真ん中あたりで雑魚寝する事に決める。
この旅馬車というシステムは、冒険者を護衛として専用に雇っているらしく、客たちは安心して夜も過ごすことができるという訳だ。
食事といい、まさに至れり尽くせりだなとコバヤシは思う。
しかし野宿だと分かっていたら何か寝袋のような寝具のものとか買っておけばよかったか、、
といってもこれまでそんな(金銭的)余裕があったわけでもなかったんだった。
「今日は、星が綺麗ね、、」
隣からメイの心地いい声が聞こえる。
ドラコはすでに眠ってしまったらしい。たまに「…ぁと、、いっこだけ、、、んまぃ、、」といった幸せそうな寝言が聞こえてくる。
コバヤシはそれに少しにやけながらも、ドラコがちゃんと服を着ているかいちおうチェックしておく。
こんなところでいつもの“裸族っぷり”を(文字通り)晒されたらたまったもんじゃないしな、、
ちゃんと確認してから、着ていることに安堵し、コバヤシも空を見上げる。
コバヤシはそれまで星座などまるで詳しくなかったが、それに興味を持ってしまうほど盛大な光景だった。これならそりゃライトなんか要らないか。もっともコバヤシが知っている夜空とはおそらくもう違うものなのだろうが、、
コバヤシは前居た世界での、星など見つけることすら見つけることすら難しい空、そして見上げる余裕すらなかった頃を思い出す。
吸い込まれそうだな、、
そんな安直な感想が出たことに、彼は一人笑う。
でも本当に、
吸い込まれそうな夜の星空が、視界の、その全てに、どこまでもただ漠然と広がっていた。




