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【馬車は進み、少女は世界を呪う】2-1

『正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるであろう。正義も理屈をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。』(侏儒の言葉 / 芥川竜之介)


・・・


“status”


コバヤシは、目の前に広がる、今ではもう見慣れた自身の“ステータス表示”を見ながら、馬車の中で考える。


ドラコも自分も、ずいぶんと“レベル”が上がったことだし、後でもう一度ステータスの調整をしてみてもいいかもしれない。

コバヤシは、彼の隣でこてんと自分に寄りかかっている赤毛の少女を見る。

少女のその腰の辺りまで伸びた真っ赤な髪は日の光に当たるときらきら揺らめく。


「ドラコは疲れちゃったのかな」

向かいに座っていたメイがコバヤシにこっそりと言う。


彼女はドラコと対照的にショートのヘアスタイルではあるが、今はフードを被っていたためにその白金色の髪を拝むことは出来ない。人前では基本このスタイルらしい。といっても今この馬車にはコバヤシ、ドラコ、メイの三人しか乗っていなかったが。


「皆さん、まだもうちょっとかかるんで、どうかゆっくりしててくだせえ!」


そう言えば御者の人も居たか、、


「確か、王都ってとこまで馬車で5日かかるんだったよね」

コバヤシは頭の中を整理しながら誰にともなく呟く。


「この馬車で二日、途中の町で馬車を乗り継いで、そこからまた二日ね」

メイが応えてくれる。


途中の町か、、

彼にとっては、この世界で二番目に訪れる町だった。


彼らが出発したメリエの街は、もうずいぶん前に見えなくなっている。コバヤシが想像していたよりもこの“旅馬車”とやらのスピードは速いくまた、馬車の内装?も想像していたものより遥かに快適なものであった。内部には座り心地のいいミニソファのようなものが一対あり、全部で最低四人は少なくとも乗れるだろう。

旅馬車とはどれもこのような造りなのだとメイは教えてくれる。

コバヤシは再びステータス確認の作業へと戻る。

どうやらいつのまにか新しいスキルや称号もいくつか増えていたようであった。

新しい称号(ふざけているものも多い)の装着時効力を一通り確認し、コバヤシは自身の称号を今つけているものから『中級冒険者』というものへと付け替える。


・『中級冒険者』 … 全てのステータス+10


次にアイテムボックスの確認に入ったコバヤシは、メリエを出る前に大量のパンを買っていたことを思い出す。

そういえばアイテムボックスに入れっぱなしだったな。


「そういえばメリエでいくつかパンを買っておいたんだけど、みんな食べる?」

「良いわね! 私にも何か一つちょうだい!」

良いよ、どれにすると尋ねつつ、鞄から、実際にはアイテムボックスの中から、いくつかのパンをメイの前に出す。


メイにはアイテムボックスのことも話しちゃって良いかもしれないな、、

そんなことを考えていると、いつもなら食べ物の話になったら真っ先に食いついてくる(そして食い尽くす)ドラゴン少女が何の反応もしていないことに気づく。


「・・・ドラコ?要らないのかい?」

そう言って彼は寄りかかっていた少女の顔を覗き込む。

すると少女は、


「…ぅ~、ドラコ、、せかいまわる、、」

そんなことを言いながら両手で口を押さえていた。


これはもしかして、、


「あらら嬢ちゃん! 酔っちゃったか!」

御者が少し後ろを振り向きながら尋ねてくる。


あー、、やはり、、


「ぅう~~~、、おのれせかぃ、、」

ドラコはそう言ってコバヤシの横から離れ、今では馬車内の床をぐるぐると転がっている。


そんなことしたら余計に世界を恨んでしまうぞドラコよ、、


コバヤシはスケールの大きい恨みを抱くこのちびっ子に、水でも飲ませてやらないとなと思いアイテムボックスを確認するのだった。

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