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【これから】1-54

「アキラ! ドラコ!」

メイは二人を確認するなりこちらへ向かって駆けてくる。


三人は『宿屋 おりえんと』の前で待ち合わせしていた。コバヤシとドラコが泊まっている宿である。

ようやく名前がわかったものの、この宿からは何も“オリエント感”を感じない、、

というかこの世界に“オリエント”的な要素はあるんだろうか、まるで西洋風なところしかないが、、

今度レミにお店の名前の由来でも聞いてみるかなと、コバヤシはふと思いつく。

そしてコバヤシとドラコの二人は、レミが持ってきた話とやらを聞くことにする。


・・・


あんな態度を取ってしまって、、もしかしたらコバヤシさんを傷つけてしまったかもしれない、、

リーシアは先ほど最後に見たコバヤシの顔を思い出す。


やっぱり、、困らせてしまってるのかな、、

彼女はさきほど男から渡されたお金の袋と、そして前にもらった石を見つめる。


なんであの人は私にこんなものを渡したんだろう、、

その石をもらってから彼女はもう何度もこのことを考えている。

普通、会って間もない人にこんなことしてくるかしら、、


コバヤシは、悪い人間ではない。

それどころか、見た目とは裏腹におそらくはずいぶんと心の優しい人間であると、彼女は考えていた。


こんなにも早く借金も返済してくるし、、

リーシアは、彼の強面過ぎる顔があまりに誠実な行動を取ることが少し可笑しかった。

ふと、思わず微笑んでしまっている自分に気がつき慌てて表情を戻す。


あれから全然仕事も手につかないし、、

それにして父にこのことを話すんじゃなかったと、彼女はだいぶ後悔していた。

あんなこわいお父さん見るの久しぶりだったな、、

母親と一緒になんとか留めるのが大変だったことを彼女は思い出す。


母さんは母さんで軽すぎるんだから、、


しかし本当にどうしようかと、リーシアは中庭で再び考えにふけってしまう。

そこへ彼女の父が姿を現す。


「リーシア、、またあいつが来てるぞ、、」


・・・


「あの、たびたびすみません、、実は ― 」

コバヤシは、メイが持ち込んできた話をリーシアに話す。


メイは自分の知り合いが依頼人だという依頼を見つけたとかで、コバヤシ達にその依頼を一緒にどうかと誘ってきた。

なんでも“ぼろい”仕事らしく、ついでに『王都』なるところへと観光がてら行くことも出来るらしい。

「あなた達ほかの場所も見てみたいって言ってたじゃない?」

コバヤシとドラコは今後の予定も特に決めてなかったのでこの話に乗ることにしたのだった。

しかしこの『王都』とやらは、ここメリエの街から馬車で片道5日程度かかるとのことであり、さらにその馬車は今日の夕暮れ頃に発つという、なんとも急な話だったのだ。

今回のこの“旅馬車”とやらを逃せば『王都』行きはまたずいぶんと先になってしまうのだとか。


「なので突然なのですが今日発つことにしまして、出来れば挨拶をと」

馬車なんて初めてですよ、コバヤシはそう付け加える。


「・・・。」


…やはりまだ具合が悪いのだろうか、、

来るべきではなかっただろうかと考えるが、すぐに、いや何も言わずに行くのはやはり、、と自分で自分に反論する。


「…それだけだったので、、どうかお身体をお大事に、、」

コバヤシはそう言い残し去ろうとする。


「あの、、」

リーシアが口を開く。


「あの、、またこちらへは、帰ってきますか、、」


コバヤシは、久しぶりに彼女としっかり顔を合わせた気がした。


「えぇ、もちろんですよ。“おりえんと”は泊まり心地最高ですし、」

ここのパンもまた食べたいですし、

そう言ってコバヤシは自分の顔をなんとか笑顔にしようとする。

リーシアはそんな彼を見て少し頬を緩める。


「ふふ、ありがとうございます、、」

良かった、と彼女は小さく呟く。


「あの、、」

彼女は再び口を開く。


「あの返事は、、まだ少し待っていてくれませんか、、」

少しうつむいた顔で、そう尋ねてくる。


…どの返事だろうか、、


しかしすぐにコバヤシは先ほどのディナーの件だなと気がつく。


「もちろん大丈夫ですよ」

こちらにまた帰ってきたときにでも、

コバヤシはそう言ってリーシアの方を見る。

彼女は、少しほっとしたように息を漏らすと、コバヤシへ向かい礼を言う。


そんなたいそうなことではないと思うんだが、、

やはりとても礼節のある方だなと、コバヤシはあらためて感銘を受ける。


「では、、行ってきますね」

「はい、」

彼女は、久しぶりの笑顔を彼に向ける。


「気をつけて、、いってらっしゃい!」


・・・


おまたせ、彼は待っていた二人に告げる。


「それじゃ、行こうか」


メイが御者に合図をする。


この馬車が最後だったようだ。


旅馬車というものはあるていどまとまって出発するらしい。


ゆっくりと、馬車が動き出す。


「馬、がんばる」


ドラコが馬に向かい、ふんすと声援を送る。


ありがとね、嬢ちゃん。御者は笑いながらドラコにそう返す。


メイはそのやり取りを微笑みながら見つめていた。


その光景を見ながらコバヤシは、これから先の旅に少しの不安と、そして多くの期待も同時に抱く。


この先何があるのかなんて、自分には分かったもんじゃないけれど、


少しでも楽しんでいけたらいい。


そうして彼は前を向き、


馬車の進む先を見据えた。



一章、完


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