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【中庭と借金と山盛りのパン】1-53

さて、まずはさておき返済だ、、


借用証書があるとかないとかそういう問題ではない。

そう、これは人と人との義理だとか人情だとか恩だとかっていうそういう話なんだぜぇこいつぁよぉ

何故か任侠ものみたいになってしまうのは気のせいだろう。


報酬で得た資金をアイテムボックスへ入れながら、コバヤシはこれからの予定を組む。


メイはやることがあるとのことなので、彼女とは後でまた合流することになった。コバヤシとメイの冒険者ランクアップ祝いにどこかへ食べにでも行こうということになっている。

コバヤシは一気にCランクへ、メイはなんとAになったらしい。

本来ならコバヤシをBにまで上げたかったと、あの小柄な老人は言っていたがどうやらCで落ち着いたらしい。

ギルドはギルドで色々とあるのだろう。というよりあの小柄な老人は一体何者。


しかし悪竜の一体を倒した(燃やした)のはドラコだったのだが、彼女が報われないのは少し残念である。

当の本人は全く気にしていないが(というより話すら聞いていない)


今度はドラコも冒険者登録をしておくか、、いや身分とかあれだしそもそも目立ちすぎるか、、うーむ、、

とりあえず、今日のところは美味いものをたくさん食わしてやろう。

そう考え、コバヤシは隣を歩く少女の赤い頭を撫でる。


・・・


「・・・いらっしゃい、、」


「こんにちは」

コバヤシは再び焼きたてパンの香ばしい香りに包まれていた。


挨拶をするリーシア父は、あいかわらずエプロンが似合っていない。

それよりも彼の視線からはどこか“敵意”のようなものが今日は感じられた。気のせいだろうか、、

ドラコは再びお店のパンを買い尽くす気らしい。


まあがんばったからな、、

コバヤシはふと微笑みながら店内を歩き回っている小さい赤少女を眺める。


「あの、リーシアさんは今いらっしゃいますか?」

コバヤシはリーシア父へと視線を再び戻し尋ねる。


「・・・。」


ん?


さっきよりも敵意が強くなった気がした。しかし気のせいだろう。


「・・・。」

リーシア父は親指をくいっと店の奥へ向ける。


奥に居るということことだろうか、、


「ドラコ、行くよ」

コバヤシは山盛りのパンをトレイに載せた少女に声をかける。

「これ、コバヤシのつけで」

そう言ってドラコがリーシア父にそのトレイを渡す。


…勝手にツケるでない、、

後で払います、そう言い残しコバヤシとドラコはまたあの中庭へと出るのだった。


・・・


「リーシアさん」

「っ!?」

コバヤシが声をかけると、彼女は飛び上がったように振り向く。


驚かせてしまったようだ。

驚かせてすみません、コバヤシはそう続ける。


「いや、、その、、」


どこか彼女の様子がおかしい。

そういえば最後に会った時も様子が変だったような、、


コバヤシは尋ねてもいいものか少しためらうが、先に借金の返済を済ませてしまうことにする。

コバヤシは【割の良い依頼がちょうどあった】というていでリーシアに説明する。


余計なこと言ったら心配させてしまうかもしれないしな、、

リーシアさんが自分のことごとき心配するだろうかということは今は考えない。


しかしこれで彼女への義理だけはとりあえず果たしたか、、

これから少しずつ彼女に恩返し出来たら良いとコバヤシは考える。


そうだ、


「良かったら今日の晩御飯リーシアさんも一緒にどうですか?」

リーシアは、コバヤシが差し出した返済分のお金をしぶしぶといった感じで受け取る。

「その、、」

彼女の言葉が詰まる。もしかして迷惑な誘いだっただろうか、、


「リーシアも、一緒にお散歩」

ドラコはリーシアの手を握ってそう呼びかける。

リーシアさんはふっとドラコに少し笑いかけ、そして何かを喋ろうとする。


「リーシア、来てくれ」

しかしリーシア父の声によってそれを聞くことはなかった。


彼女は呼ばれるとすぐにお店の方へ慌てた様子で行ってしまう。

最後に少しだけこちらをちらりと振り向いたその横顔は、どこか申し訳無さそうにこちらを見ていた気がした。


まあ気のせいかもしれないが、、


「ドラコ、リーシアさんになんか変なこと言った?」

「きおくに、ござん」

うーん、具合でも悪かったのだろうか。そしてドラコの返事は相変わらずである。


コバヤシはそんなことを考えながら、ドラコに再び声をかけパン屋を後にするのだった。


あ、、山盛りパンは買っていかないと、、


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