【想定外】1-47
人は、差別をする生き物である。
誰かを愛したり、誰かを嫌ったり、誰かをひいきしたり、何かに所属したり。
人間は、たとえ意識的でなかったとしても、自らの主張で動き、そしてその結果としてそれらは『差別』という現象として現れる。
誰かを助けるということは誰かを助けないということであり、誰かを愛するということは誰かを愛さないということであり、何かに所属するということは何かに所属しないということである。
コバヤシは、目の前で無残にも生きながら食い散らかされたのであろう、今はもう意思のないそれらの物体を眺めながら思う。
彼らがこれまでどれほどの悪事を働いてきたのかはコバヤシの知るところではなかったが、それは結局のところ彼らが選んだものであり、この結末もまた彼らが導いたものなのだろうと思う。
彼らを助けるという選択をしなかったコバヤシにとっても、、
「メイ、後ろに下がっていてくれ」
コバヤシはメイを後ろへと追いやろうとしたが、彼女の足はまるで動きそうにもなかった。
しょうがないか、、
コバヤシは、なぜ自身があまり動揺していないのかについて疑問を抱いてはいたが、これももしかしたらステータスのおかげなのかもしれないということにしておく。
今は目の前のこれを片付ける方が先だ、、
もはや実力を隠しておくだなんて悠長なことも言ってられない。
今回は石を持ってはいなかったので“直接”やるしかない。
そのとき食事をひと段落終えたのか、口の周りを真っ赤に染めた化物がこちらを向く。
もう時間も無い。
コバヤシは腰に下げた短剣へと手をかける、そして、
「ふっっ!!」
思いっきり竜へと向かい飛び出す。
・・・
世界が、スローになる。
自分以外の動きが、いたく、ゆっくりに、、
瞬く間にコバヤシの目の前へ竜の顔が近づく。
コバヤシは短剣を引き抜く。
いまだ世界はスローのままだ。
竜の頭は、近づくと思ったよりも大きく、そして漂う血の匂いのせいもあってか、そのグロテスクさはより一層際立って見えた。
短剣を、竜の首元へとあてる。
ずぶずぶずぶ
ゆっくりと、ぼろぼろの短剣は竜の首元へと刺さっていく。
竜はまるで気づいていないかのように、その大きな瞳を瞬き一つすらさせない。
短剣が奥まで突き刺さる。
コバヤシは、そのまま自身の腕も竜の首へと突っ込んでいくのを感じた。
生暖かく、そして獣くさい。
竜の首に差し込んでいた右手を、そのまま思いっきり引き抜くことにする。
ぶちぶち、ずるり
竜の首は大部分がひきちぎれ、ずれていくのが分かった。
コバヤシはそのまま竜の後ろへと跳んでいく。
世界は、速さを取り戻す、、
・・・
ぼんっ
大きな音と共に、気づけば目の前の竜の首が引きちぎれていた。
いや、正しくはまだかろうじて繋がっている部分もある、そう表現した方が正しいかもしれない。
「・・・え?」
私は目の前の出来事に、いったい何が起きたのかをまるで理解することができていなかった。
一瞬で、どういうわけかわからないが、竜の首が引きちぎられていたのである。
竜はそのままその大きな身体を横へと倒していく。
「・・・は、、え、?」
ずどんという音と共にその体は倒れていった。
すると倒れた竜の向こうから、右手、いや右腕部分が血まみれのコバヤシが歩いてくる。
「っ!?」
私はさきほどまで隣にいたはずのコバヤシがなぜ前方から歩いてくるのかと混乱し、すぐに今度は隣にいるはずドラコを見る。
するとドラコはすでに臨戦状態を解除しており、倒れた竜の死体をまじまじと眺めている。
「ちょっと怖かったね」
目の前から歩いてくる男は「今日のスープはちょっと甘かったね」のように、まるでいつもとはちょっと違う味付けの料理を食べましたみたいなニュアンスで話す。
「な、、、え、?」
私はいくつもの疑問が沸き起こり、うまいことそれを言葉にすることが出来ない。
私には、何が起きたのか、何が起きているのか、全く認識することが出来ていなかったのだ。
・・・
コバヤシは目の前で呆然としているメイをどうしたものかと考えていたが、すぐに新しい異変に気づく。
索敵に、もう一つの気配が現れたのである。
その赤い点はかなりの速さでこちらに近づいていた。
後ろからやってくる、、
コバヤシはメイをどうにかすることは中断し、二人を背にして、こちらへやってくるであろうそれに備える。
それを確認できた時、コバヤシは後ろでメイがごくりと息を呑むのを聞いた。
それはこちらへ向かい、先ほどのものと似た、叫び声のような鳴き声をあげる。
本日二度目の、“恐竜”のお出ましだった。




