【悪しき竜】1-46
その存在はまだここからはかなり離れている。マップだとぎりぎりその赤い点が映るかといったところである。
しかしコバヤシには、この赤い点がどうやらこれまでで一番の“強敵”であると、なんとなく感じられるのであった。
索敵スキルのせいかは分からないが、なぜかそのように感じとったコバヤシは、少し神経を張り巡らせる。
これが“悪竜”だろうか、、
すると遠くから男の悲鳴のようなもが聞こえた気がした。
メイとドラコの二人は何の反応も示していない。
コバヤシはもう一度集中して耳を澄ませてみる。
やはり、、男、達の声が聞こえる、、
それもコバヤシには聞き覚えがある男たちの声だった。
どうするか、、
コバヤシには“彼ら”をそこまでして救助する必要性を感じなかった。
しかしもしこの赤い点が自分たちの探している悪竜なのであれば、これを逃す手は無い。
「…二人とも、何か聞こえなかったかい」
コバヤシは少し逡巡するも、ちょっとした無茶に出ることにする。
問いかけられた二人はぽかんとコバヤシを見つめている。
まあそうなるか、、
「少し、外に出て確認してみていいかな」
「まあ、良いけど、、」
メイは不思議そうにしながらもコバヤシの提案を受け入れる。
よし、、
三人は遺跡の外に出る。
コバヤシはそこで立ち止まり、耳を済ませているかのようなそぶりを見せる。
ドラコはすでに勘付いたのか、赤い点の表示が有る方をじっと見つめていた。
「ねえ、特に何も聞こえないけど、、」
メイはそう言って不安そうにコバヤシを見る。
「…。」
コバヤシはそれには応えずに、もう少し赤い点の方へと近づいていく。
すると、これまでに聞いたことの無いような動物の叫びが辺りに響く。
甲高く、耳をつんざくようなその叫びは、コバヤシに恐竜の鳴き声をイメージさせる。
もっとも、恐竜なんてフィクションの世界でしか見たこと無かったが、、
メイは鳴き声の方を即座に振り向く。
「行きましょう!」
そう言うなり、鳴き声のした方へ一直線に駆け出していく。
・・・
― なんでこんなとこに竜が、、!
― うぁあああああああ!
鳴き声がした方へと近づくにつれ、コバヤシには襲われているだろう男たちの声がはっきりと認識できていた。
やはり竜、、そして襲われているのは、あの男たちで間違いない。
コバヤシは、前を走るメイの様子を確認する。
伝えておくべきだろうか、、
しかしその前に三人は現場へと到着する。
「ああぁあああああいてぇよぉおおおお!!」
そこには凄絶な様相が広がっていた。
辺りには、おそらく人間の血であろう、ところかしこに飛び散っており、よく見ると人間の臓器のようなものも所々に見受けられる。
そして、その中心にそれは居た。
・グラウドラゴン
・Lv 12
・脅威度 弱
やはり恐竜のようだなというのが、コバヤシがまず最初に抱いた印象だった。
思ったよりも大きくは無く、大きさとしては『一回り大きいダチョウ』といった感じだ。
むろんダチョウにはこんなにも凶悪そうな爪や牙など並んでいないが、、
その凶悪そうな口からは、人間の腕と思われる部位がはみ出ている。
目の前にはその腕の持ち主と思われる男が、おそらくはひきちぎられたのであろうその腕があった部分を必死に抑えながら悲鳴を上げていた。
コバヤシはその顔を見て改めて確信する。
やはり、あのときリーシアさんを襲おうとしていた男の一人だ。
コバヤシは目の前でのたうちまわる人間を冷静に見てしまっている自分に気がつく。
「メイ、これが“竜”ってやつでいいのかな」
コバヤシは隣で震えているメイにそう声をかける。
ドラコは臨戦態勢になりながらこの『グラウドラゴン』なるモンスターをじっと見据えている。
しかし、脅威度弱?
人間の身体を食いちぎっているにもかかわらずこの脅威度というのは、、
いまいちこの脅威度とやらは信用できるか分からないなとコバヤシは判断する。
「メイ?」
返事が無かったので再びコバヤシはメイに声をかける。
「あ、え、ええ、、そ、そうだと思うわ、、」
目の前の竜はどうやらまだ“お食事”に夢中らしく、こちらに襲い掛かったりはしてこない。
「あ、、あの人間を、助けないと、、」
メイはひざを震わせながらもそう呟く。
さっきまで悲鳴をあげていた目の前の男は、グラウドラゴンに足で体を押さえつけられながら、今では悲鳴も上げていなかった。ときおりその身体をびくんと痙攣させている。
「…あれは、もう死んでるよ、、」
コバヤシはメイにそう伝える。
よく見ると、周りには更にあと二つの人間だったものが飛び散っていることに気づく。
どちらも顔を確認出来る損傷であったが、逆に言えば「確認できたのは顔ぐらい」というものだった。
やはり、、
目の前で転がっているこの合計三人は、どうやらあの時のリーシアさんへの罪を、その身で無残にも味あわされたようだ。
いや、味わうのではなく味あわれたというべきなのかもしれない。
なぜここに居たのかは不明だったが。
信賞必罰って訳じゃないだろうに、、
コバヤシは、飛び散った肉片から漂う匂いに少し気分が悪くなりながらも、そう思うのだった。




