【一日目、森】1-43
次の日の朝、朝食を済ませたコバヤシとドラコの二人はギルド前に居た。メイとはここで待ち合わせしている。
「お待たせ!」
メイは到着するなりそう告げる。
「おはよう、メイ」
「おは~」
コバヤシとドラコの二人はメイにそう挨拶する。というか『おは~』て、、
「二人とも、おはよう」
メイは二人を交互に見ながら微笑みつつ挨拶する。
それじゃあ私は依頼の受注だけ済ませてしまうわねとだけ言って、メイはギルドの中へと入っていく。
“悪竜”、、どんな化物が出て来るんだ一体、、
コバヤシはあらためて自分とドラコのステータスを確認しながらも、不安を感じずにはいられなかった。
・・・
目的地の遺跡までは森の中で途中一泊野営をするとのことだったので、コバヤシはレミにそのことを伝えておくことにする。
「ドラコたち、お出かけ」
ずいぶんと平和な表現である。
「あははは、分かったよ~。二人とも、気をつけてね~」
レミはそう言ってドラコの頭を撫でる。
コバヤシとドラコの二人は、ギルドで依頼を受けてきたメイと合流し街を出る。
西門の門番はいつもの二人であった。
グエン×マルコ…
だめだ、昨日の腐サポセンのせいでそういう風に見てしまいそうな自分が居て、コバヤシは考えを振り払うように頭を振る。
「どうしたの?」
そんなコバヤシを不審に思ったのか、メイはコバヤシにそう尋ねる。
「あぁ、いや、ちょっと気合?を入れてた」
コバヤシは適当なことを言う。
「気合、めがもり」
ドラコもよくわからないことを言う。
「そっか、、そうだよね、、」
おそらくメイだけがちゃんと気合を入れようとしていた、、
どうやら街から遺跡に向かうちょうど途中ぐらいに、野営の出来る、野営に適した場所があるらしい。
こないだみたいに一日かけて歩いていったら、着いても調査どころじゃないしな、、
コバヤシはマップと索敵を全開にしつつも、メイの道案内に従うことにする。
ドラコはすっかり遠足気分である。
「ドラコ、あまり離れるなよ」
いちおう念のためにコバヤシはドラコにそう伝えると、
「あいわかったなり」
ドラコはこちらを向き上機嫌な返事を返すのだった。
森の中を進み始めてしばらく経つが、いまだ魔物には遭遇しない。
この辺りは魔物が少ないのだとメイは教えてくれる。
出来ればこのまま何とも遭遇せずに野営地まで着ければいいと考えていると、やはりそう上手くいく訳も無く、コバヤシの索敵に引っかかる存在があった。
まだずいぶんと先だが、このまま行けば遭遇するだろう。
さてどうしたもんか、、
メイはもちろん、ドラコもまだ気づいていないみたいである。
メイはこっちの実力をどの程度だと想定しているのだろうか。
・・・
力を持ちすぎた存在は、ただそれだけの理由で悪になる。
強大な力があるというだけで人はそれを恐れ、時には利用し、そして最後には集の力で個を潰す。
とてつもない自己顕示欲者でもない限り、人は平和に生きていくために力を上手く隠していかなければならない。
全てをも押さえつけられるなどという“絶対的な力”なんてものは、これまでに存在し続けたことは無い。
例外は無い。
コバヤシのささやかなる主義主張の一つであった。
しかしそう考えているのもつかの間、
「みんな、ちょっと待って」
メイがついにその魔物を発見する。
魔物はどうやら『エルツリー』のようであった。
ドラコはじっとその魔物を見つめている。
メイが気づくよりもずいぶん前から気づいていたようだ。
「エルツリーか、、」
メイは木の後ろに隠れながらも様子をうかがっている。
「どうする」
コバヤシはメイに尋ねてみる。
「あれぐらいなら私一人でも大丈夫だけど、、」
そう言ってメイはコバヤシとドラコの方をちらりと見る。
「ここで私の実力を見せたら、あなたも見せてくれるかしら」
・・・。
コバヤシは返事に窮する。
いや、いずれにしろ見せなければいけない状況が来るだろう、、
コバヤシはこの依頼を受けた時から覚悟は決めていた。
メイを信じるしかない。
「…メイ、俺とドラコのことは他の人たちに話さないと約束して欲しい」
コバヤシはメイの目をみつめながらゆっくりとした口調で話す。
「…わかったわ」
メイは一瞬戸惑ったように見えたが、すぐにコバヤシの目を見つめ返しながらそう返事を返す。
見ず知らずの人間に見られるよりは、俄然ましだろう、、
コバヤシはそう割り切って立ち上がる。
少し先に居る木の魔物へと、コバヤシは標準を合わせる。
拾った小石を手に、軽く振りかぶる。
ひゅおっという風切り音と共に、コバヤシの投げた小石はとてつもない速さでエルツリーへと一直線に飛んでいく。
石が魔物に触れるなり「ぱぁん」という音と共にエルツリーの上半身(と思われる)が木っ端微塵に砕け散る。
残った下半身(と思われる)はぴくぴくと動いた後で地面へと倒れていった。
マップからは赤い点が消えている。
「・・・な、、」
メイはそれを呆然として見つめていた。




