【龍と竜】1-41
「私が居たパーティーは、あのダンジョン迷宮の手前にある遺跡調査が目的だったの」
メイの顔が真剣味を帯びる。
「でも遺跡についた後で仲間の一人があの迷宮を発見して、、」
どうやらメイは止めたらしいが、なにかお宝があるかもしれないという欲に駆られたほかのメンバーを結局留めることは出来なかったとのこと。
「だから、私達の依頼は完全に失敗って訳、、ま、それも最も命有っての話だけどね、、」
メイは悔しそうに顔を歪ませる。
なんとなく、話の流れが読めてきた、、
「今日、ギルドから聞かされたの。私たちが調査するはずだった遺跡の近くで“悪竜”の出現が確認されたって、、」
「“あくりゅう”?」
コバヤシは聞いたことのない言葉を聞き返す。
「えぇ、私もこれまでに数回しか直接見たことはないんだけど、、」
悪龍、または悪竜とかだろうか、、
「ギルドではこの悪竜調査、または討伐の依頼を出すみたいなの」
メイはあらためてコバヤシの目をしっかりと見据える。テーブルのお酒にはほとんど手がついていない。
「コバヤシ、あなたとドラコの実力を見込んでお願いしたいの。どうか、私と一緒にその遺跡調査を受けて欲しい」
メイの顔からは必死さと、そして真剣さがひしひしと伝わってくる。
「いや、実力って、、メイの前でそんなもの見せた覚えは、、」
「普通は子連れでダンジョン迷宮の最深部までたどり着くことなんて絶対に出来ないわ」
あー、、
「ましてや迷宮主を倒すなんてこともね」
そう言いながらメイはようやく自分のエールに少し口つける。
まるで見透かされているみたいな気がしてコバヤシは気が引ける。
どこまでこの女性は分かっているんだろうか、、
「報酬は全額コバヤシ達が受け取っていいわ! 途中で手に入れたものとかも全部!」
「…どうしてそこまでこだわるんだい」
コバヤシはメイの目を見つめ返しながら尋ねる。
「…これは、本来なら私達、私の居たパーティーでの仕事だったはずなの、、」
エールを握る手に力が入る。
「でも、私一人になってしまったらもう、、」
…リベンジのつもりなのだろうか
コバヤシはそこまで気は進まなかったものの、その“あくりゅう”とやらについて少し聞いてみる。
どうやらこの世界には“りゅう”にも二種類あるらしい。
まず龍。
コバヤシが最初にイメージしたものはこちらの方だった。
こちらは基本的に人前に現すことは無く、伝説にも多くその名前を残しているらしい。
いくつかの種類が居るともいわれているが、詳細は全く分かっていない。
巨大な身体をその翼で空を翔る姿を見れた人間には幸福が訪れるとも、、
そして次に竜。
こちらは前者と区別されて“地竜”と呼ばれることもある。
名前のとおり地上で暮らしてはいるが、こちらも人前に姿を現すことは基本的に珍しい(龍ほどではないが)
また前者と比べるとこちらは巨体の個体は少ないらしい。
そして、ごくまれに、人間の味を覚えてしまったが為に人里へと下りてくるようになった個体が出る時がある。
それをギルドでは“悪竜”と呼称し、討伐依頼を出すのだとか、、
人食い竜か、、
最初に“りゅう”という言葉を聞いたとき真っ先にドラコのことを考えたコバヤシだったが、どうやらこの話を聞いてもドラコがどういった存在なのかを見極める手がかりにはならなそうであった。
まあ“変異種”って書いてあったしな、、
コバヤシはドラコのステータス情報を思い出す。
「…ちなみに、俺が断ったらメイはどうするんだ、、」
コバヤシがメイにそう尋ねると彼女は下を向き口を閉ざす。
彼女なら一人でも行ってしまいかねない気がした。
・・・。
「…分かった、いいよ。一緒に行こうか、、」
コバヤシはしぶしぶといった感じで依頼を引き受けることにする。
「ただし報酬とかは普通に山分けで良い」
するとメイは途端に顔を輝かせ、何か呪文のような言葉を口にして、コバヤシの頬に口づけをする。
エルフ式のお礼よ、そう言うメイの耳はどこか赤く染まっている気がした。




