【ランチブレイクとミステイク】1-39
「コバヤシ~、これ!」
ドラコはそう言いながら山盛りのパンたちをコバヤシにトレーごと渡してくる。
・・・。
「ドラコ、ほんとにこんな食べれるのか?」
ドラコは一瞬はっとした顔になり、
「コバヤシの分も!」
「明日の分も!」
う~ん、まあそういうことなら良いか、、
「えっと、ドラコちゃん? 私はリーシア、よろしくね」
そういってリーシアはしゃがみ、ドラコと同じ視線になるよう挨拶する。
「・・・。」
ドラコはしばらくリーシアの顔を見つめていると、今度はてとてととコバヤシの後ろに回りこんでくる。
そこから顔をひょいと出して
「ドラコ、ドラコ…」
これがドラコの挨拶なのだろう。コバヤシはふと微笑みながら思う。
リーシアはそんなドラコを見て、よろしくねと微笑む。
リーシアンスマイルは全てを包み込むのである。
そんなことを考えてしまうもののコバヤシはふとわれに返りリーシアンに尋ねる(返れてない)
「リーシアさん、この店で食事の出来る場所ってあるでしょうか」
「あぁ、それなら中庭を使ってください」
リーシアはコバヤシの方へ向き直りそう告げる。
「あの、、良かったら私も御一緒してよろしいですか、、もうすこしで休憩なので」
そう言いながらリーシアはこちらをおずおずと見る。
「もちろんですよ」
「うむ」
威厳たっぷり風のドラコを見てリーシアは再び微笑み、ありがとうねとドラコの頭をおずおずと撫でながら言うのであった。
・・・
コバヤシとドラコは会計を済ませた後(ま、まだ残金は大丈夫だ、、慌てるようなもんじゃない、、)、教えてもらった中庭へと入っていく。
中庭はお店の奥から繋がっているようで、リーシアさんは父と交替し次第こちらに来るそうだ。
お店の奥を抜けると、そこには小さいながらも立派な中庭が広がっていた。
やはり中庭もこのお店の外観同様、西洋風のガーデニングといったところか、、
そう考えたところでこの世界に西洋も東洋もないかと思い当たる。
世界地図とかあるのだろうか、、
「コバヤシ、あそこ」
考え事をしていたらドラコがコバヤシを呼ぶ。
ドラコは中庭の中央にあるテーブルセットを指差している。
なるほど、イスも三人分あるし、あそこならちょうどいいな。
「あそこで食べようか」
コバヤシはドラコの頭を撫でながらそう言うと、ドラコは再び首が取れそうな勢いでそれを縦に振るのだった。
テーブルセットやイスは全て木製で、年季を感じさせるものの全てに手入れが行き届いているものであった。
コバヤシとドラコはさっそくそのテーブルに買ってきたパンを広げる。
これで紅茶かコーヒーでもあったら文句なしすぎる、、
「皆さーん」
リーシアさんが店の方から、手になにやらポットとカップを三つ持ってこっちに向かい歩いてきた。
気が利きすぎるこのお方はやはり女神とか天使とかそういった類のものだろう、、
コバヤシは笑顔でこちらに歩いてくるリーシアに手を挙げながら、そんなことを半ば本気で考えるのだった。
・・・
「お、おおお。ドラコ、これで勝てる」
ドラコは、目の前に広げられているパンの山を見ながら目を輝かせ、そんな発言をする。
勝つって何にだ、、
そう言いながらも、どのパンから食べようかと目の前のドラゴン少女は真剣に向き合っていた。
リーシアさんはそんなドラコを横目に、お茶?を三人分煎れてくれていた。
注ぎ終わると彼女は自分の分のご飯と思われるサンドイッチ(どう見てもサンドイッチ、、)を出す。
そうこうして三人でランチを食べ始めるのだった。
「レミさんが、このお店のファンを自称してましたよ」
「あぁ、ええ、そうですね。彼女はだいたい昼過ぎか夜とかに来るんですよ、ふふ」
「毎日来てるんですか、、それは確かに“ファン”ですね」
もぐもぐ
「この街にはパン屋というものが少ないですからね」
「いえ、このお店のパンがこんなに美味しいからですよ」
「ふふ、ありがとうございます」
むしゃむしゃ
「その服着てるとだいぶ印象が変わりますね、コバヤシさん」
「そうでしょうか?」
「ええ、なんというか、すごくちゃんと溶け込んでいますよ」
ぱくぱく
「どちらで買われたんですか?」
「服はエディンバラで、この剣は確か、、ザン?というところでだったと思います」
「エディンバラ、、あぁ、レミが好きなあのお店ですか。ザンというお店は聞いたことがないですね、、」
もぐもぐ、ごっくん
「すべて、おいしい」
それまでひたすら食べることに集中していたドラコが、ようやく口を開く。
一人で半分程度を食べたところでおなかいっぱいになったのか、今は満足そうにリーシアさんが煎れてくれたお茶を飲んでいる。
それにしてもこのお茶は紅茶に味が似ているがどういうものなのだろう。
「コバヤシさん、達はこのあとどうする予定なんですか?」
そう言ってリーシアはドラコの方を横目にコバヤシへ尋ねる。
「そう、、ですね、、」
コバヤシは少し考える。
「とりあえずはこの街で安定するまで依頼を受けようかなと」
結局はそうなるだろう。この世界をもっと観光してみたいとも思うが、いまのところはまず安定した生活を目指さねば、、
「そうですか…」
リーシアはどこかほっとしたように胸を撫で下ろす。
そのとき店の方から「リーシア」と呼ぶ声が聞こえてくる。
「はーい!」
リーシアさんはそちらに向かって大きく返事をする。
「ごめんなさいコバヤシさん、そろそろ戻らないと」
なるほど、おそらく先ほどの声はリーシア父だろう。
「いえいえ、一緒にランチが出来て楽しかったです」
そう伝えるとリーシアは少し照れたような顔で微笑む。
「ドラコちゃんもまたね」
「ん」
ドラコはおなかいっぱいで眠くなってしまったのか、うとうとしながら返事をする。
「あ、そうだ」
コバヤシはふと思い出し持っていた鞄の中からあるものを取り出す。
「これ、こないだ頂いたポーションのお礼といってはなんなんですが、、」
そう言ってコバヤシは、ダンジョンの最下層で拾った宝石のような石を一つ、確か『セフィア』と言っただろうか、それをリーシアへと差し出す。
「え、、これ、って、、」
リーシアは差し出されたその石をまじまじと見つめる。
「これは借金とかとは関係なく、(日ごろお世話になっている)自分の気持ちなので」
コバヤシはそれをリーシアの手へと渡す。
リーシアはまだ固まっている。
何か変なことをしてしまっただろうか、、
コバヤシは少し焦るものの、すぐにリーシアが
「あ、ああのそれじゃわたしももどりますすんからので!」
そう言うやいなやすぐに店の方へとかけていってしまった。
・・・。
何か怒らせるようなことだったのだろうか、、しまったな、、
隣ではドラコがすでにおやすみ直前であった。




