【共同浴場】1-37
エディンバラを出てからしばらく街中を歩くと、ついにコバヤシはそこへとたどり着く。
場所についてはあらかじめレミから教えてもらっていたので、なんなくたどり着くことが出来た。
その大きな建物には『共同浴場』というこれまた大きな看板が上部に取り付けられている。
やっと、、やっと身体を洗い流すことが出来る、、
社畜ライフで鍛え上げられていたコバヤシであっても、少なくともシャワーぐらいは浴びたいとしみじみ思う。
この世界にはシャワーなんて無さそうではあるが、、
いずれにせよ早くこの共同浴場とやらを体験せねばと、コバヤシはドラコを連れて、このまるで神殿か何かのような建物へと足を踏み入れる。
浴場の隣には『共同洗濯場』なるものも設置してあり、そこにはいくつもの井戸と、中々広い広場のような場所に、恐らくは洗濯物を干すのであろうと思われる柱がいくつも立っており、実際にその何本かには棒がかけられては洗濯物が干してあるのだった。
あとで自分もここで洗濯をしてみよう。
建物の中に入るとこれまた広い共用スペース、休憩スペースだろうか、が広がっており、更にそこから先は男女別の入り口で分かれていた。
ドラコ大丈夫かな、、
ドラコは『女性』と書かれた入り口表示をじっと見つめている。
そういえば文字読めるのだろうか、、
そんなことを考えながらも、コバヤシは一人分の料金を確認し(ずいぶんと安い)ドラコにそれを渡す。
「…ドラコ、一人では入れるか、、?」
そう不安げに聞いてみると、ドラコは親指をコバヤシの前にぴっと立て、一人中へと入っていった。
だからそういうのはいったいいつどこで覚えてくるんだ、、
不安、極まりない、、
・・・
男性用の浴場内は、これまたとんでもなく広々としたものであった。
コバヤシはあたりをざっと見渡す。
人はちらほらと見えるが、この広さにしては異様に空いていると言える。時間的な問題だろうか。
しかしやっぱりシャワーなんてものは無いか、、
あるのはいくつかの桶ぐらいであった。
どうやら水風呂?も小さいのが一つ隅の方にあるみたいだ。
コバヤシはさっそく大きな湯船へとつかり、そのまま寝てしまいそうなのをこらえ、ぼんやりと考え事を始める。。
ドラコは大丈夫だろうか、、
ふと女湯に居るであろうドラゴンキッズの心配がぶりかえす。
まあなるようになるか、、
湯船に浸かっているせいか、思考が短絡的になっているコバヤシである、
そういえば新しく称号が増えていたっけかと少し確認してみると、やはり新しいものが更にいくつか増えている。
・子連れ冒険者 ・迷宮踏破者 ・お人好し ・借金大好き ・お風呂大好き
・・・。
若干の悪意を感じるのは気のせいではないはずだ。
コバヤシは少しため息をつきながらも次はスキルの確認をする。
そこには《値引き》《忍び足》《運搬》といった新しいスキルが並んでいた。
どれも使えそうなスキルだと考え、コバヤシは後でSPを振っておこうと心に留める。
このまま一日中ここに居られそうだ、、
お湯の温度は熱過ぎず温すぎずといった具合だった。
そういえばこの世界には季節とかあるんだろうか、、
日付や曜日についても後で確認しなきゃな。
ぶくぶくぶく。
あと少ししたら、ドラコのこともあるし出ることにしよう、、あと少し、、ぶくぶくぶく、、
・・・
男湯を出ると、共用スペースのような場所でドラコはすやすやと寝転がっていた。
こいつは、、
コバヤシはふっと笑いながらもドラコの隣に座る。
これで牛乳なんかもあったらなと思い小さくため息をつく。隣にあった井戸の水を飲めたらがぶがぶ飲もう、、
「ん」
隣で寝ていた少女がもぞもぞと起き上がる。
「おはよう、ドラコ」
ドラコはコバヤシの顔を寝ぼけ眼でみつめる。
一度顔をくしくしとこすると目が覚めたようだ。
「ん、おはよう」
「お風呂はどうだった?」
コバヤシがそう尋ねるとドラコは浴場をたいそう気に入ったのか
「ドラコ、ここ住みたい」
と言ってきたので思わず笑ってしまう。
なるべく来るようにしよう。俺もお風呂は好きだしな、、
「住むのは無理だけど、なるべく来ような」
そう言ってドラコの手をつなぎ、二人はそこを後にする。




