【異世界と、転生と】1-3
こうして、ここでは毎日このように多くの人間が命を落とし、それでも世界は変わらずにとこどおりなく進んでいくんだとか、
そんなようなことを考えたと思う。
あとは死んだらどうなるのかやっとわかるのかとか、そういったことだったかもしれない。
電車が顔面に触れたであろう瞬間なにを思ったんだろう。
なにを思ったにしろ、ただただどうしようもなく、等しくて誰にでもやってくる、迎えにくる“それ”によって、どうやら、これで全てが終わったのだ。
ざざぁー・・・
夢から覚めたときのような、まだ眠り続けていたいような、そんな幸福感の中に自分は居た。
― ああ、全部夢だったのか、、 ―
最後は死んでしまったけれど、自分の人生の終わり方にしては幸せな方だったんじゃないかと思う。
どこから夢だったのか、会社をクビになったことも夢だったのだろうか、、
ざざぁー・・・
そうか、この眠りを誘うようなBGMは波の音か。いつのまにこんなヒーリングミュージックまでかけて眠ってしまっていたのだろうか。
ざざぁー・・・
あたまが冴えてきたと同時に目を覚ます。どうやら家では無いようで、そもそも室内でもないようで。
― ここは、、ビーチ? ―
久しく見ていないような美しく白い砂浜が目の前に大きく広がっていた。
かなり大きいビーチのようだが辺りには自分以外誰も居ない。
時刻は昼ごろだろうか、照りつける太陽が砂浜の白さをより強調する。
― まだ夢の中なのだろうか。それにしてはあまりにもリアルだが、、 ―
確か明晰夢とやらがあったのだったかなどと考えていたところで、もう少し辺りの様子を見渡してみる。
着ている服装は上下共にいつものスーツ姿そのままである。サイズだけがいつもと違うようなそんな違和感を覚える。それにしてもこの砂浜の風景にはなんとも不似合い極まりない。
そしてビーチというにはあまり整備がなされていないように感じられた。ところどころ漂流物が砂浜を覆っている。砂浜の隣はちょっとした森のような土地へと続いていた。
海の水はどこまでも澄みきった美しさを湛えている。
― こういうビーチを沖縄のどこかの写真で見たことがある気がするが、、 ―
この森はいったいどれだけ深い森なのだろうかと少し気になり覗いてみようかと近寄ろうとしたところで、
「おめでとうございますコバヤシ様」
背後から不意に声が聞こえ、急ぎ前へ跳びながら振り返る。
そこには高身長な若い男が立っていた。しかしこの男、シルクハットのようなものや不思議な形をしたステッキ、更には片眼鏡、確かモノクルといったか、までも装着している。
胡散臭さを体現したかのようないでたちだ。
「そんなに胡散臭いですか、この格好は」
目の前のその奇術師のような男はからからかうような口調で話す。
この浜辺には他に一切の人影が無い。というより先ほどまでコバヤシ一人しか辺りには居なかったはずだが、、
いきなり襲ってくるということは無いだろうが、、あまりにもこの目の前の男は怪しすぎた。
コバヤシはふと周りに何か武器になりそうなものが無いか確認しようと目を走らせる。
「ご安心を。襲ったりなどしませんよコバヤシ様」
じろりとコバヤシは目の前の男をにらみつける。ただでさえ悪い目つきがより一層の悪人面になる。
というよりそもそもなんでこいつは俺の名前を知っている、、
「それはですね」
男の声はどこか歌っているような口調でもある。
「我々があなたをここへ連れてきたからです。」
瞬時にコバヤシは森へと向かって走り出す。
拉致! 目の前に見えるあの森へと逃げてなんとかあいつをまく!
「落ち着いて下さいコバヤシ様」
するりと目の前の木の陰から奇術師男が現れる。
な! どうやって!ついさっきまで後ろに居たはず!
「拉致なんかじゃありませんよコバヤシ様」
にっこりと、デパートの販売員みたいに完成された笑顔だ。
「…誰なんですか、あなたは」
「ようやく話を聞いていただけますか。ありがとうございますコバヤシ様」
やたらとこいつは人の名前を呼ぶな、癖なのか、
「あぁ、お気に触りましたのなら申し訳ございませんコバヤシ様。ええそうです、どうやら癖のようなものなのです」
謝罪を口にしながらも男は満面の笑みを崩しはしない。
というより、ん?
「はい、そうですコバヤシ様。あなた様の思考はそのまま私へも伝わるようになっております。」
は? なに言ってるんだこいつは、
「えぇ、えぇ。多くの方はそのようにお思いになられます。」
やはり、あまりにもリアルではあるがこれはきっと夢なのだろう。明晰夢というやつだったか、、
「いいえ、決して夢ではございません。」
・・・。
「それでは本件に移らさせていただいてもよろしいでしょうか、コバヤシ様」
「…そのまえに」
「はい、何でしょうかコバヤシ様」
・・・。
「…なるほど。しかし、、」
「早くやれ」
「…かしこまりました」
そう言うと奇術師男は手に持っていたステッキを大きく振り上げ、コバヤシの頭へと勢いよく振り落とした。
ごっ、という鈍い音が鳴ると同時にコバヤシがうめき声を上げる。
「ぐ、、ぅあ、、」
「これで先ほどの二点を信じてもらえたでしょうか。」
人の頭を容赦無く棒で叩いたにも関わらず、やはりこの男の笑顔は変わることがない。
コバヤシはうめきながらも以下二つの点に関してはそれなりに納得にいたることが出来た。
一、この男が本当にテレパシー?のようなものを使えるならば、口に出さずとも俺が考えることは分かるはず。
二、これが夢ではないと確認できるほどの痛みを受けてみる。夢であれば目覚めるであろう、目覚めてくれ
この二点を確認するために先ほどコバヤシはこの奇術師男に
― その持っているステッキで俺の頭を思いっきり叩け ―
と脳内で命令してみたのである。
まだ鈍く痛む頭をさすりながらもコバヤシは頭を切り替えていく。
「夢かどうか確認するために肉体的痛みを用いるというのは常套手段ではありますが、このようなやりかたで確認されたのはあなたが初めてでございます。コバヤシ様」
相変わらず人の名前を取って付けたようにくっつける。
「これで信じてもらえたでしょうか」
「……多少は」
「それでは、実はあまり時間も無いので本題を話させていただきます。まずは・・・」
男はどこか満足気な口調で続ける。