【帰還準備】1-32
「この部屋にはあのクモしか居なかったのか?」
コバヤシはためらいがちにもメイにそう尋ねる。
「そう、ね、私達のパーティーが入った時からなら、あのクモが部屋の真ん中で、待ち構えていたわ、、」
私達のパーティーか、、
こういうとき、コバヤシはどういった言葉をかければいいのかわからず、黙り込んでしまう自分の弱さを呪う。
・・・。
少し重い沈黙が流れる。
「ま、今回の冒険で初めて一緒になった奴らだったから、、そこまで辛くもないわ」
そういってメイはふっと笑みをたたえる。
こういう時の女性は、男性のそれよりもはるかに強い。
「…そうか」
コバヤシはメイの顔を直視は出来ずともそう応える。
まだほんの少ししか経ってないにもかかわらず、ドラコが死んでコバヤシだけが生き残ってしまうという想像は、自身が死ぬよりも比べられないほどに辛いことのように感じた。
ドラコは何かを感じ取ったのか、コバヤシのズボンをぎゅっと掴んでくる。
それを見てメイは微笑みながらも、急に顔をしかめる。
「どうした」
コバヤシは心配そうにメイに尋ねる。
「あ~、、ごめんごめん、、あのクモにやられたところが所々痛くてね、、」
そう言ってメイは両手をさすっている。
そこでコバヤシはいまだ自分の手にはポーションがあったことを思い出す。
「そうだった、これを使おうと思っていたんだったよ」
そう言ってメイの前へポーションを差し出す。
メイはそれを見て目をぱちくりさせながらも、ワンテンポ置いて
「…これ、使ってもいいの?」
と聞いてくるので、もちろんと返す。
少しためらいながらもメイはそれを受け取ると、一気に飲み干す。
なるほど、、これはやはり飲んで使うものなのか、、
飲むのか傷口にかけるのかの二択で悩んでいたコバヤシは納得する。
「…どんなかんじだ?」
コバヤシはポーションを飲み干したメイに尋ねる。
「ありがとう。これでもう元気十分よ!」
見ると、小さい傷口などは全てふさがっていた。
ポーション恐るべし、、
メイの傷も回復したので、さてそろそろ地上へと戻ろうかと考えていると
「コバヤシ」
ドラコがコバヤシに何かを差し出してくる。
何だろうと思いドラコの手の中を見てみると、そこには不思議な輝きを放つ青色の宝石?のような石があった。
「あら、それは、、セフィアかしら」
メイが石を見て呟く。
「せふぃあ?」
コバヤシは聞き返す。
「ええ、この辺りで取れるとは聞いたことがないけど、、」
宝石の一種だろうか、、
「メイ、これを少し拾ってからの移動でも良いかな?」
「良いわよ。私は少しここで休んでるわね」
メイはそう言うので、金欠貧乏冒険者チームのドラコバヤシは、辺りにもっとセフィアなる石が無いか探すのだった。
・・・
結局ドラコが手に入れたもの以外には3つほどしか見つけることが出来なかった。
よし、それじゃあ今度こそ地上へと戻ろうと、コバヤシとドラコはメイの元に戻る。
メイの服装は、かなり身軽な軽皮鎧で、おそらくは動きやすさ重視にしているのだろう。武器も使いやすそうな小剣(コバヤシが持っているものよりは長い)を腰に下げている。
そしてなにより、白金色と言えるような色のショートヘアは肩までかかり、その整った顔立ちは、時に少女のような雰囲気すら感じさせる。
コバヤシは試しに一つ聞いてみることにした。
「メイのその耳は、もしかして、、」
「ん、ああ、もしかしてエルフ見るの初めて?」
そう言ってメイは自分の両耳を触ってにやりとコバヤシを見る。
やはりエルフなのか、、
「…エルフが居ない国で育ってね」
少なくとも三次元には居なかったはずだ。
「まあそれは普通の国ね」
メイはふふっと笑いながら言う。
エルフは珍しいのだろうか。
「そういえばあなた達はどこから来たの? ギルドの依頼か何か?」
「俺とドラコはメリエという街から、ギルドの依頼で来たんだ」
コバヤシが応える。
「メリエか、、じゃあそこに帰るの? ここからだと歩いて半日くらいかしら」
メリエのことを知っているのか、、
「そうだね、今日中には着くように帰るつもり」
するとドラコがふああとあくびをしている。もう眠くなってきたのか飽きてきたしまったのか、、
「そうなんだ、、じゃあもうそろそろ地上に向けて出発しないとだね」
そう言って、メイは立ち上がる。




