【武器屋から無一文再び】1-23
「ドラコ、ここ、好き」
エディンバラから徒歩数分の場所にあった武器屋の店内で、ドラコはそう口にする。
『ザン』というらしい名前のこの武器屋は、かなりの狭さでかつ錆の匂いが店内にひどく充満している。
なぜドラコはこんなところが好きなのだろうか、、
古くて狭くて錆くさい、とてもではないが女の子が好きになるような場所ではないように思われる。
まあ女の子といっても龍なのだが、、
店内の商品(だろうと思われる)をいくつか手に取り色々と確かめる。
確かにここならいまの自分でも手が届きそうな値段の武器があるかもしれないな、、
いかにもぼろぼろの剣や槍などがところどころ適当に置いてあるのだった。
コバヤシは店内の奥にいる、このお店ではたった一人の店員と思われる人間に声をかけてみる。
「あの、」
奥にいた中年の男性はイスに腰かけながらコバヤシをじろりと睨む。
「このお店で一番安い商品はどれでしょうか」
「…馬鹿にしてんのかてめえ、」
男性はよりいっそう厳しい目つきでコバヤシを睨みつける。
「あー、、いえ、決してそうではなく、、実はすでに全財産がこれしかなくてですね、、」
そう言ってコバヤシは今現在持っている全ての硬貨を出す。
ドラコはさっきからあたりの武器をかたっぱしからくんくんと匂いを嗅いでいる。
「…こんなんじゃくず鉄ぐらいしか買えねえな」
お店の男性は硬貨に一瞥くれるなりコバヤシに告げる。
やっぱりこれじゃ無理があったか、、
仕方が無い、武器はまた今度にでも買いにこようと、コバヤシはドラコを呼ぼうとする。
からんからんからん…
すると目の前にぼろぼろの短剣?(ナイフよりは長い)が転がってくる。
「…溶かす予定だったそいつなら、おめえさんの全財産と交換してやるよ」
「ありがとうございます、、っ」
コバヤシにはまだこの世界の物価などまるでよくわかっていなかったが、いまはとりあえず武器に見えるものであればなんでもいいから入手しておこうと考えるのだった。
「これも、良い匂い」
そう言ってドラコはコバヤシが拾った短剣をずっとくんくん嗅いでいる。
武器、もしくは金属?の匂いが好きなのだろうか、、
コバヤシはとりあえず手持ちのコインを全て武器屋の男性へと渡す。すると
「こいつぁおまけだ」
ところどころ破れかかったこれまたぼろぼろの皮鞘?をコバヤシに投げる。
「助かります」
ふんっと武器屋の男性は鼻を鳴らし店の奥へと消えていった。
「これは、あんまり」
皮鞘の匂いを嗅いだドラコがそう言うので、コバヤシは少し笑ってしまう。
・・・
買ったアイテムなどを基本全てアイテムボックスに入れているのも不自然なので、次にお金を手に入れたらカモフラージュ用のバッグを買わないとなと、宿屋への帰り道でコバヤシは考える。
あとは、、これまたカモフラージュ用に防具だろう、、
再び無一文へと戻ってしまったコバヤシには、そのどちらも購入するのは次回へと持ち越しになってしまっていた。
ドラコは何故か少し上機嫌そうにコバヤシの手を握りながらぶらぶらと上下させている。
こうしていると本当に普通の子供なんだよな、、
・・・
「あ~、武器買ったんですね~」
宿屋へと帰ってくるなり、レミはコバヤシの持っている皮鞘を見て反応する。
「あら、やっぱりこの子にあの服着せたんですね~、かわいいなあ~」
そして今度はドラコの格好を見て騒ぐ。
そういえば出かけるときには彼女に会わなかったな、、
「あの、、レミさん、、」
コバヤシはドラコが今着ている服をいくらかで譲ってくれないかと交渉を試みることにする。
「こんなに似合ってるんだからもちろんいいよ~」
そしてあっさりと交渉に成功する。
彼女が子供だった時に着ていた服だったらしく、このままタンスのこやしになるくらいだったらということらしい。なんと泊まってくれているお礼&先ほど頂いたパンのお礼として、この古着はただで進呈してくれるとのこと。
なぜ、これほどまでに出会う人間出会う人間すべて心優しいのだろうかこの街は、、
「ありがとうございます…」
そう言ってコバヤシは、レミに向かい深々と頭を下げる。
「いえいえ~」
レミもそう言って頭を下げる。
「レミ、いいやつ」
ドラコはレミの前で初めて言葉を発する。
「あはは、ありがとね~」
レミはドラコの頭を撫でながらそう言うのだった。
・・・
“box”
コバヤシは自分の部屋へ帰ってくると、アイテムボックスの中身を整理することにする。
整理というよりも、中に何を入れていたかの確認が主にだった。
そしてどうやらドラコは部屋の中だと“裸族”であるらしいことが判明する、、
外で服を脱がないだけましだと考えるべきだろうか、、
いちおう外で全裸はまずいということは理解しているのだろうか、しかし部屋に着くなり身に着けていた服をささっと脱ぐなりベッドで丸くなってしまった。
コバヤシは自身がロ○コンでなかったことに感謝しつつ、アイテムボックスの整理を続ける。
しかしそこで、ふとドラコの周囲にいつもとは違ったAR表示が出ていることに気づく。
良く見ようと意識して見ると、そこには“party”という表示がされてあった。
party?
するとさらに新しい画面が表示される。
・ドラコ(紅龍の子供;変異種)
・Lv1
・HP100 ・MP10 ・STR200 ・VIT200 ・DEX200 ・INT100 ・AGI100 ・LUC10
これは、、ドラコのステータス、、?
他の人間にもステータスの概念はあるのだろうかと不思議には思っていたが、他人のがこのように表示されるのはこれが初めてだった。
「ドラコ、“レベル”って何か分かるか、、?」
コバヤシは試しにドラコに尋ねてみる。
しかしドラコは眠そうな顔をこすりながらもゆっくりと首を横に振る。
まあ、、この子は今日生まれたばかりだもんな、、それにしては知能が高いと思うのだが、、やはりそこは龍だからとでもいうファンタジー理論なのだろうか、、
外はすっかり日も落ちて暗くなっている。
窓から外を見ると、街灯の数はやはりとても少ない。
これはどうやって光っているのだろうかと、昨日は気にしていなかった部屋の“ライト”を見る。
それは部屋の机の上に一つだけ置いてあり、なぜかぼんやりと明かりを灯している。
電気と言うには弱すぎる、というよりそもそもコンセントやケーブルなどといったものは見られないし違うだろう。
しかし火でもないことはこの“ライト”を見ればすぐにわかるものであった。
よく見ると木に取り付けられている石?がぼんやりと光っている。
火でも電気でもなさそうとなると、、やはりこれは魔法的なものなのだろうか、、
あれこれと考えなければならないことが増えてしまったが、今日はそろそろ休みを取って、明日朝一にでも調べてみることにするか、、
コバヤシは『レベル、ドラコステータス、party、魔法ライト、、、お風呂』といった単語を忘れないように心に留めておくことにする。他にもまだ調べなければいけないことがたくさんあった気がしたが、、
ベッドはドラコがすっかり占領してしまっていたが、丸まって寝ているのでなんとかコバヤシが寝るスペースもありそうだった。
明日はまた新しくギルドで依頼を受けないとな、、
それにしてもこちらに来てからは実に健康的な生活を送れている気がする。
死んでから健康的な生活とは、ふと笑みがこぼれる。
コバヤシは、自分が明日もこの世界でちゃんと目を覚ましますようにと願っていたことに気づく。
どうかこれが夢ではありませんようにと、あらためて願い、そして隣ですでにすやすやと眠っているドラコを横目に、コバヤシは静かに一言だけつぶやく。
「おやすみ、、」




