【パンから服屋】1-22
リーシア父から渡された紙袋に入っていたのは、なんとも美味しそうなパンの詰め合わせであった。
コバヤシはリーシア家を後にして、宿へと帰る道すがら袋の中を確認する。
大きいバゲットが一本と、クロワッサン?のようなものが三つほど入っている。どれも美味しそうだ、、
リーシアさんからもらったポーションはアイテムボックスに入れておくことにする。
一度宿屋に戻って、このパンをドラコと一緒に食べるか。それから武器と服を見に行っても遅くはないはずだ。
日はまだ暮れてはいなかったが、夕暮れが近いことを空は感じさせている。
そうこうしているうちに宿屋へとたどり着く。
・・・
「おかえり~、てあれ、それもしかしてクウォーツのパン~?」
帰るなり、レミがそう尋ねてくる。
「はい、そうなのですが、よくわかりましたね」
コバヤシは不思議に思い尋ねる。
「そりゃあ私はあの店のファンだからね~」
えっへんと胸を張りながらレミは応える。
「そうだったのですか、、そうだ、、よければこれどうぞ」
そう言って、コバヤシは三つあるクロワッサン(仮)を一つ取り出しレミへと渡す。
「えええぇ~いいの~?」
レミは受け取ったパンを高々と掲げながらコバヤシに尋ねる。
「はい、お世話になっていますので」
「わ~、ありがとね~」
ぺこり
・・・。
「いえ、、」
コバヤシは自分の部屋へと戻る。
ん?
部屋の中ではドラコがベッドの上で丸まっていた。何故か服を脱いでいる、
「コバヤシ」
ドラコはコバヤシに気が付くと立ち上がり声をかけてくる。
「ただいまドラコ」
コバヤシはドラコの頭を撫でながら返事する。
しかしなぜ服を脱いでいる、、
ふとドラコが、コバヤシの持っている袋を凝視していることに気づき苦笑する。
「お土産だよ」
そう言ってから、自身もそのお土産にありつくことにする。
ドラコと二人でクロワッサン(仮)を一緒に食べる。
最初、匂いを嗅ぐだけでなかなか食べようとしなかったドラコだったが、コバヤシが美味しそうに食べているのを見てから一口かじると、残りを次の一口でぱくりと食べてしまった。
よっぽど美味しかったのか、、
確かに美味しい、味も本家クロワッサンとそんなに違いを感じなかった。普通のクロワッサンよりも少し甘い気がする。味付けが違うのだろうか、、
コバヤシは袋から残りのバケットを一本取り出し、それを半分にちぎってドラコへと渡す。
今度は最初からためらいなくぱくぱくと両手でそれを食べていくドラコは、全くもって“龍”といった感じはしない。
口いっぱいにバケットをほおばる姿はほほえましいが、、
「これを食べ終わったら、服買いに行くか、、」
ドラコはいまだに頬をふくらませながらも、こくりとうなずく。
・・・
「レミさん」
「あれ~、またお出かけ~?」
コバヤシは出かける前にレミに話しかける。
「はい、あのすみませんが子供が着られるような服を一着、少しの間だけお借りできないでしょうか」
「ん~? いいよ~。ちょっと待っててね~」
そう言ってレミはどこかへと歩いていく。
「これでもいい~?」
戻ってきたレミは、なにやら茶色い布のようなものを持っている。
「一枚で着れるやつなんだけど~」
レミはその布のようなものを広げてコバヤシに見せてみる。おそらくワンピース?のようなものだろう、、
「大丈夫だと思います。ありがとうございます」
そういって頭をさげようとするが、途中でレミの視線に気づきやめる、、
「ふふふ~」
そう言って今度は彼女の方が意味も無くぺこりと頭を下げる。
・・・。
借りてきたワンピース(仮)をなんとかしてドラコに着せてみる。
さすがにコバヤシが着ていたあの白シャツをいつまでもワンピースのように着られるのはなんとも抵抗があった。
とりあえずこれで服屋まで出歩けるな、、
「きつくないか」
コバヤシがドラコにそう聞くと、赤毛の龍少女は「きつくない」と応えるのだった。
「よし、それじゃあ買い物に行こうか」
ドラコはこくりとうなずく。
服屋は近くにいくつか存在していたみたいなので、あらかじめレミから聞いておいたおすすめの店へと向かうことにする。
『エディンバラ』という名前のお店らしい。
このときマップスキルで特定のお店のような探し物の検索も出来ることに気づく。
これはほんとに便利なスキルだな、、
後でもう少し性能を確認しようと心に決めつつ、コバヤシ一行はこの『エディンバラ』へと向かいだす。
そろそろ日が落ちそうだ、、武器屋はまだ開いてるだろうか、、
まあ開いていなければまた明日にでも行けば良いかと考え、そういえば武器屋に関してはレミさんに聞くのを忘れてしまったなと気づく。
服屋近くの適当なところで大丈夫だろう、、
今のところ武器の優先順位はコバヤシの中で服よりも低い。
正直ステータスとスキルがあればたいていはなんとかなりそうな気はする。もちろん油断は大敵だが、、
そろそろ『エディンバラ』の近くである。
「服屋に着くよ」
コバヤシはそうドラコに告げる。
ドラコはこくりとうなずき、コバヤシの手を握ってくる。
コバヤシはその手をひきながら、目的地のエディンバラという看板が無いか目を凝らす。
ここのはずなんだが、、
マップスキルでは確かにいまコバヤシ達の目の前に目的地があるとなっている。
しかし目の前にあるのは、、
なんとも怪しげな一軒の古民家である。
ふと表札?のようなものに『総合服店 エディンバラ』と書いてあることに気が付く。
どうやらここで間違いないみたいだ、、
ドラコはというと、じっと目の前の家を見つめている。
「とりあえず入ってみるか、、」
ドラコは再びこくりとうなずく。
・・・
ドアを開けてみると、そこには外からは想像も付かないような広さの部屋が広がっていた。
どう考えても外から見えた広さとは違う気がするが、、
もしかしてこれは魔法とやらで可能にしているのだろうか。
「いらっしゃいませ」
丸めがねを付けた小太りの男が、コバヤシたちに向かい挨拶する。
「どうぞご自由に店内をご覧下さい」
お店の中には至るところに服が置いてある。
あまりの量とそして種類の多さに、コバヤシは少し目がちかちかする気がした。
「あの、すみません。この子が今着ているような服ってありませんか?」
こういうときは最初から店員を頼ってしまうに限る。
それでしたらと、いくつかの服をおススメされるが、そのほとんどが予算オーバーだった、、
というよりそもそも服を買いに来るにはまだまだお金が足りなかったか、、
ドラコはどの服もあまり興味がなさそうである。試しにどれが良いか聞いてみると
「ドラコ、これ」
と言って、いま自分が着ている服を自慢げにぱたぱたさせる。
どうしたもんかな、、
とりあえず現在の予算で買える黒いワンピース(仮)のようなものを一着だけ買うことにする。
いま着ている服に関しては、、宿に帰ったらレミさんに交渉してみよう、、
それよりもいまの手持ちで買えるような武器があるとはもはやとても思えない、、
だがとりあえずは見ておこうと、エディンバラの店員に『近くで一番安そうな武器屋』を聞いておくことを忘れずにするコバヤシであった。




