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【異世界パン屋にて】1-21

店内は外よりもさらに美味しそうな物の匂いで満たされていた。

いくつものパンが棚に並んであり、そのどれもがコバヤシの食欲を引き立てる。


ぐ、空腹で来るもんじゃないな、、


コバヤシは自身の選択を少し後悔する。

店内を見た感じ、コバヤシの知っているパンと似たようなものも多く並んでいた。客はそこまで入っていない。


「…いらっしゃい」


不意に、店の奥から低い声が聞こえてくる。


そこには2mはあろうかという色黒の大男が小さい椅子に座りながらこちらを眺めていた。

付けている茶色いエプロンがあまりに似合っていないスキンヘッドの大男である。


「…あの、リーシアさんはいらっしゃいますか、、?」


コバヤシは少しためらいながらも話しかける。


「…あんた、リーシアの知り合いかい、、」


大男の目つきが鋭くなる。


「はい、コバヤシと申します」


「…少し待ってな、、」


そう言うと大男は店の奥へと消えていく。


・・・。


しばらく待つと、先ほどの大男と同じような茶色いエプロンをつけたリーシアが駆けて来る。


「コバヤシさん! いらっしゃい!」


なんとエプロン姿が似合うことであろうか、先ほどの大男とはえらい違いである。


「リーシアさん、こんばんは」


コバヤシは挨拶もそこそこに、今日行ったギルドでの冒険者登録や、初依頼をいま終えてきたことなどをリーシアに伝える。


「そうだったんですね、、」

そこでリーシアは言葉を止める。


「コバヤシさん、その格好であの海まで行ってきたんですか、、?」

「そうですね、あぁ、羽織っていたシャツはちょっと失くしてしまいまして、、」


ドラコのことは後にでもなんとか説明を考えることにしよう、、

リーシアはじっとコバヤシのほうを見ている。


「…この辺りはあまり魔物が出ないからといっても、武器とかを一切持たずに出歩くのは、、」


あ、、


そうか、確かにギルドで武器や防具を付けていない人間なんて居なかった。

ステータスやらスキルだとかの確認ばかりを意識しすぎて、おそらくこの世界の当たり前でありそうな武器やら防具やらという考えはすっかりと抜けていた、、


「あー、、そう、ですね、、そう言われてみればそうですね、、」


反論の仕様がない、、


「まあ伝え忘れていた私にも責任はあります、、」

そう言うリーシアさんは少し肩を落とす。

「いえいえ!リーシアさんに責任は無いですよ!」

コバヤシは少し慌てる。


「明日にでも買いに行こうと思います!」

そう伝えると、リーシアさんは目をぱちくりとさせてから少し微笑む。


それで、、とコバヤシは今日の報酬額をリーシアに報告し、あることを相談してみる。


「実は、思ったよりも報酬が少なくて、、その、返済は明日以降でも良いでしょうか、、」


リーシアはぽかんとコバヤシのことを見る。それから突然大きく笑い出した。


「あはははは、、コバヤシさん、、もしかしてそんなことを報告しに来たんですか」

リーシアはずっと笑いながらもコバヤシに尋ねる。


「は、はい、、」

「あれはいつでも良いて言ったじゃないですか」

リーシアはまだ笑っている、、


「しかし借りっぱなしというのは、、」

コバヤシはためらいながらも話を続ける。

「ちゃんと安定して稼げるようになってからでいいですよ」


そう言うリーシアの目には笑いすぎてか涙までにじんでいる、、


「…分かりました、、しかしなるべく早くに返せるよう努力しますので、、」

「では、期待して待ってます」


こういう時の彼女の笑顔は本当に魅力的だなと、コバヤシは心の中で思う。


「…おい」


店の奥から先ほどの大男が再びぬっと現れる。


「話は終わったか、リーシア」


そう言って大男はリーシアを見る。


「ごめんねお父さん、すぐに戻るから」


…お父さん、、?


「ふふ、私はお母さん似なんですよ、コバヤシさん」


思っていたことが顔に出てしまっていたのか、リーシアはコバヤシの顔を見ながらそう伝える。


「…娘さんには昨日から大変お世話になっております」

そう言ってコバヤシは大男へ向かって深くお辞儀をする。


やはりそう簡単にはこの長年の癖が抜けそうにはないなと、再びお辞儀をしている自分に対し自分で突っ込みを入れる。


「…。」


リーシア父はコバヤシに向かってなにやら紙袋を差し出してくる。


「これ、父がコバヤシさんにだそうです」


リーシアさんは笑みを浮かべながら言う。


コバヤシは袋を受け取ると「ありがとうございます」とリーシア父に伝える。


袋を渡すやいなや店の奥へと再び戻っていった。これを渡すためだけに来たのだろうか、、


「そうだ、私も、、」


ちょっとここで待っていてくださいとだけ伝えると、リーシアさんはぱたぱたと店の奥へ駆けていく。


しばらくして戻ってきたリーシアの手にはなにやら小さい小瓶が一本握られていた。


「次からはこれをもって行って下さい」


そういってコバヤシの前に小瓶を差し出してくる。


『ポーション(小)』


AR表示が出る。ポーション、、


「これは、、」


いちおう不思議そうに尋ねるコバヤシ


「ポーションです。ちょっとの傷や体力とかでしたらこれで回復させることが可能ですので」


やはり、、コバヤシは鑑定スキルで得た情報と同じ知識を得る。


「…すでに借りてばかりですのでこれ以上借りるわけには、、」


コバヤシは遠慮がちに応える。


「もう、そういうのは良いですから、私がただ受け取ってほしいだけなんです。お返しとか要りませんから」

リーシアはやれやれといった感じでコバヤシの手にポーションを押し付ける。


「…ありがとうございます、、この恩は」

「だからもうそう言うのはいいですって」

そう言ってコバヤシの言葉をリーシアはさえぎる。


「はい・・・」


目の前の、おそらくは一回りほども年下であるだろうはずの女性に対しコバヤシは、これはかなわないと思うのだった。

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