【理屈】1-19
人は、自分のために行動する。
たといそれが誰か他の人間の為に行動しているかのように見えたとしても、
自分は誰かの為に行動していると意識的に行動しているとしても、
やっぱり結局のところそれは、自身のための行動であると、コバヤシはそう考えていた。
自身もまた、例外ではない。
宿屋に着き、部屋のベッドに腰かけながらコバヤシは考えていた。
ドラコは部屋の中をぐるぐると眺めている。街に着いてからはずっとこの調子である。
コバヤシがかつて居た世界にだって、さすがに奴隷は居なかっただろうが、乞食という立場の人間は居たはずだ。
向こうの世界で何もしてこなかった人間が、たとえば孤児や奴隷のような扱いを受けているこちらの世界の人間達に対して、いったい何が出来ると言うのだろう。
もちろん、この世界でのそういった事情に関して彼はまだ何も知らないに等しい。
しかし、とコバヤシは考える。
知ってしまった以上、これから先、たとえば奴隷だとかの存在を、見て見ぬ振りし続けるということが、果たして自分は出来るだろうか。
自分のこの価値観は、あくまで“現代人”のものだ。
この世界、この時代の人たちにとっては、自分の価値観の方が異端であろう。
しかしそれでも、決して誰かのためではなく、自身の為に、自分の目の前で、自分が救える命があるのなら、助けようとするのかもしれない。
これは道徳だとか、倫理だとか、正義だとか悪だとか、ましてや優しさだとか、そういったものではおそらくない。
そう、やっぱりこれは、あくまで自分の為に、行っていることなんだろうと思う。
そうして自身を正当化し、納得させて、言い聞かせて言いくるめてそして、再び動けるようになるのだ。
・・・
少し長くぼーっとしてしまっていたことに気づき、コバヤシはふとドラコを見る。
ドラコもこちらをじっと見つめている。
宿屋の受付に居たレミには、ドラコを「親戚の子を、少しの間だけ預かることになりまして」とだけ伝えてみた。
不思議そうにドラコを観察されはしたがなんとか受け入れられた。
おそらくはリーシアさんの信頼性ゆえによるところが大きい気がするが、、
これはとんでもく恩が大きいものになっている、、今度きちんと恩返しをしないとなと強く心に留めることにする。
ドラコを宿屋に置いていくもとい留守番させるために一度こちらに帰ってきたが、今度はギルドへ依頼完了の報告をしにいかなければと、コバヤシは部屋を出る準備をする。
「ドラコ、少しだけここで留守番をお願いできるか」
ドラコはじっとコバヤシの顔を見た後に、こくりとうなずく。
コバヤシはドラコの頭をぽんと撫でる。
あとで一緒に何か食べにでも行くか。残金次第だが、、ドラコは何を食べるだろうか、やっぱり肉、、?
考えながらも、コバヤシは部屋の扉を開ける。




