【サキュバスの身分証】3-19
コバヤシの言葉だけではさすがにまだ半信半疑といったようで、マルコは自分の目で確認したいと言い出し始める。
よしよしここまでは順調にことが運んでいるなと、コバヤシは自分の案に自分で少し感心する。
「それでは、自分たちでギルドに依頼して来ましょうか」
マルコさんはまだここを離れるわけにはいかないでしょうし。
そんなことをコバヤシは提案する。もちろんここまで計画どうりの流れであった。
こうしてあくまで“第三者”を装い、あの現場を誰かギルドの職員にでも確認してもらえば、もう計画はほとんど完成と言っても良かった。
しばらくはまだ警戒が続くかもしれないが、一度“脅威”はもう去ったのだということが分かってさえしまえば、あとはすぐにでも多くの人たちが行動を起こし始めるだろう、、
王宮に囚われている人間や奴隷達をどうするかということをもちろん彼は考えていたが、ここで自分が直接その解放へと動くというのは、ずいぶんと“都合がいい”ように思えたので、囚われている人たちには申し訳ないがもう少しだけ我慢していてくださいと、彼は心の中で謝るのだった。
そしてマルコがこちらの提案を快諾したために、コバヤシら一行は西門を後にし、全員揃ってギルドを目指すことにする。
・・・
そういえばと、コバヤシ達がギルドへ向かおうとした時にマルコがこちらを呼び止める。
「“彼女”の身分証だけ拝見させてもらってもいいか?」
そんなことを目の前の門番は尋ねてくる。
“彼女”としてマルコが指差していたのは、、
自称“転生サキュバス”こと、ルゥその人であった。
…あぁ、、
少しまずいことになったぞと思い、コバヤシは出来る限り限界の速さで頭を回転させる、が、
「あぁ、ごめんなさいね」
これでいいかしら?
そう言ってこのサキュバスは自身の“身分証”をどこからともなく取り出して、マルコへと見せる。
…!?
そんなことして大丈夫なのかというか魔族にも身分証なんて物があるのかと、いくつもの疑問と不安が一瞬でコバヤシの頭を駆け巡る。
「…はい、どうもありがとうございます」
それでは一応まだ気をつけてくださいねと、その門番はルゥに、たったいま確認した彼女の身分証を返しながら告げる。今は非常時なので通行料などは取らないとのことだった。
「え、あ、あぁ、、はい、」
ありがとうございます、、
どこか自慢げに身分証を受け取る彼女を不思議そうに見つめながらも、コバヤシはそう言ってから、今度こそ一行はギルドへと向かうのだった。
・・・
「…で、、あれはいったいどんな手品を使ったんだ」
コバヤシが、隣を歩くルゥにそう尋ねる。
「“あれ”って?」
ルゥがきょとんとした顔でこちらを振り向きながら聞き返す。少し褐色の肌にその大きな赤い瞳がよく映える。
「さっきの“身分証”のことだよ」
コバヤシは立ち止まりはしないものの、ルゥの方を向きながら応える。
「ルゥも身分証あったのね」
メイが間に口を挟む。
「あーあれね、、」
そう言ってから彼女はふふっと笑い、こちらに先ほどの身分証を渡してくる。
そこには、コバヤシが所持しているものとまるで同じような木製のカードに、ルゥの名前が刻んであった。
「よく出来てるでしょ」
彼女はニヤリと悪戯っぽく微笑む。
まさか、、
なんとそのまさかであり、彼女が言うにはこの身分証をずいぶん前に一人で偽造したとのことであった。
…すごいな、、
コバヤシから見てもそれはどう見ても本物のようにしか見えなかった。
「はー、よく出来てるわねー」
メイはその“偽造身分証”を手にしながら感心している。
「ほら、私って昔から街に行かなきゃいけなかったじゃない?」
ふふんとしながらルゥは喋りだす。そういえばこいつと初めて出会ったときは街中で“男漁り”にチャレンジしていたんだったけかということをコバヤシはふと思い出す。
「だからどうしても身分証があったほうが便利だったのよね~」
“職質”されるたびに逃げるのもあれだったしー、と彼女は過去の苦労を話しながら大きく息を吐く。
というか“職質”て、、
「だからどうにかこうにかして苦労の末にこれを造り出したってわけなのよ!」
そう言ってから彼女は再びふふんとその胸を大きく張るのだった。
目のやり場に困るからやめてほしい、、
するとどこからかおなかの鳴く音が聞こえてくる。
「…ドラコ、、おなかすいた、」
赤髪の少女は、マイペースにもそう呟く。
一行の先にはようやくギルドの建物が見えてくるのだった。
後でたらふく食わせてやるからもう少しだけ待っててくれドラコよ、、
久しぶりにリーシア家のパンが食べたいけど今日は難しいだろうなと考えながらも、コバヤシはドラコの頭を撫でる。




