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【ギルドへ】1-12

どれだけぐっすり眠ろうとも、コバヤシは朝早くに起きてしまう習慣が出来ている。

毎朝、朝一に会社へと出勤していた名残である。


古い木の香りがする。うっすらと目を開けると、昨日の事はどうやら夢ではなかったのかという現実感がそこにはある。


“skill”


やはり夢ではなかったようで、この非現実的なゲームのような世界が現実なのだという不思議な感覚に包まれる。


コバヤシは今日しなければならないことを、いまだベッドに横たわりながらもリスト化していく。

いまだこの世界が夢のようなものという可能性も完全には捨て切れなかったが、まずはこの世界で生きていくこと、仕事を手に入れ、そしてお金を手に入れることだ。

前の世界で自分が携わっていたSEとしての知識・技術がこの『中世レベル』の世界で役に立つとは思えない。とりあえずは冒険者組合、ギルドといったか、に行ってから色々判断することにしよう。

そこへ、どこからか良い匂いが漂ってくる。


そう言えば朝と夜はご飯が付くと言っていたっけか、、


彼は昨日から何も食べていないことに気づき、腹が減ってはなんとやらと、部屋を出て昨日の受付へと向かうことにした。


「あれ~、早いね~。おはよ~」

確かレミという名前だったか。コバヤシは挨拶を返す。

「おはようございます。とてもよく眠れました」

「あはは、それは良かった~。ちょうどいまご飯が出来たとこだけどどうする~?」

「ではいただきます。実はもうおなかペコペコだったので」

「じゃああっちの食堂で待っててね~」

レミはにっこりと笑いながら受付の隣にある扉を開ける。


そこからはかなり広めの食堂が広がっていた。吹き抜けの造りで、二階席もいくつかあるようだ。

コバヤシは適当な席に腰かけ辺りをそれとなくうかがう。


昨日の時点で気づいていたことではあったが、コバヤシが現在身に着けているような“スーツ”を着ている人間は他には居なかった。

お金を手に入れたらまずは服を調達するべきであろう、、こんなに注目されるのは本意ではない、、

ジャケットは昨日リーシアさんに渡したままなので今はワイシャツにインナーとスラックスのみである。


そうこうしているうちにレミが料理を運んできた。この宿には何人ぐらいが働いているのだろうか、、


「はいどうぞ~」

そう言ってレミは木でできたトレーをコバヤシの前に置く。

シチューとパン、それにベーコンとポテトの炒めたものといった感じだ。

よくよく考えればこれがこの世界で初めての食事である。


「ありがとうございます」

コバヤシがレミにそう告げると、レミはにっこりと笑いまた食堂の奥へと戻っていった。

さっそくコバヤシは朝食にありついてみる。


味は薄味だがどれも丁寧に調理されておりとても美味しい。

こんなにもちゃんとした朝食はここ数年とったことがないな、、昔のことを思い出し胃がきりりと痛む。

そう考えると、こんなにゆったりと食事を楽しんでいるのも本当に久々なことだ、、無一文ではあるが。。


朝食を食べ終わり、このままこの広々とした食堂にもう少しゆったりして居たいという欲に駆られるが、さすがにこのまま無一文でいるわけにはいけないと、ギルドとやらに出かける準備をすることにする。

といっても、そもそも持ち物など何も持っていなかったので、昨日リーシアさんから借りたお金だけ忘れないように気をつける。

あとは昨日手に入れた身分証ってとこか、、

いちおう宿を出る前に自身のステータスをもう一度確認すると《鑑定》という新しいスキルに“無一文”という新しい称号を取得していた。


無一文。。


そういえばまだこの“box”というのは試していなかったな、、

すると目の前に奇妙な黒い円盤のようなものが自分の前に出現する。マンホールぐらいの大きさだろうか、、


なんだこれは、、


円盤の厚さは非常に薄く、仕組みはまるで分からないが自分の胸の前辺りで浮遊し留まっている。

ふと、その円盤の近くに今度はAR表示がポップアップする。


『アイテムボックス』

AR表示はすぐに消える。


よくわからない現象が立て続けに起こったが、とりあえず先ほどのAR表示はいったいなんだったのだろうか。

これまではあんな表示など出なかったが、、もしかするとさっきの《鑑定》スキルの影響か?


そこでコバヤシは目の前にあった黒い円盤が消えたことに気づく。


“box”


また目の前に先ほどの円盤が出現する。どうやらこれがboxとやらで間違い無いみたいだな、、

再び『アイテムボックス』というAR表示が出る。


…この円盤がAR表示どおりのアイテムボックスというものであるならば、おそらくアイテムを収納できるものなのだろうか、、

しかし何かで試そうにも、いまコバヤシが持っているアイテムは何も無かったので後で試すことにする。

リーシアさんから借りたお金で試すのはさすがに恐いしな。


彼女から借りたお金は全てコインで、紙幣は無く、銀色のものが3枚に胴色のものが5枚だった。

これがどのぐらいの価値を持っているのか分からないが、とりあえずはまずギルドへと向かうことにしようと、コインを眺めていると、


『3シル、5コル』というAR表示が出る。


もしかすると「これはなんだろうか」と考えると先ほどの“鑑定”スキルが発動してこのようにAR表示の説明を出してくれるのだろうか、もしそうだとすると中々に便利なスキルなので後でレベルを上げておこう。


 そうこうしてようやくコバヤシは宿を出る。

ギルドの受付は宿前の中央通りをまっすぐに行った大きな建物だとレミから聞いていたので、色々と街中を見物しつつ中心部へと向かって歩いていく。


大通りには時折馬車も走っている。道沿いには様々な店が並んでいる。

宿屋の看板を見た時も思ったが、このリゼリア語という言語の表記はアラビア文字のようだなとコバヤシは考える。ミミズ文字みたいなのでスキル無しだとあまりに難しい言語のように感じられた。


しかしスキルレベルを上げるだけで外国語が難なく理解できるようになるというのは便利で仕方が無い。あとでスキルレベルによる理解度の変化を検証してみるか、、


目新しいものが多く目移りすることが多かったが、すぐに目的の建造物が見えてくる。

その建物の看板には『冒険者組合』と書いてある。おそらくギルドという言葉は通称で使われるものなのだろう。

その建物は周りの建物と比較してもはるかに大きな造りであった。入り口辺りからすでに何人もの人間が出入りしているのが分かる。


コバヤシが入り口へと歩いていくと、何人かの人間が不審そうな目で見るのが分かる。


まあこの格好は他と比べるとあまりにも“うく”から仕方の無いことかもしれない。


コバヤシはコバヤシで他の冒険者を観察していたが、どの冒険者もコバヤシと目が合うなりおびえたようにすぐ目をそらす。


やはりこの服装のせいなのだろうか、、食堂からもずっとこんな感じだが、、


コバヤシは衣服の緊急性を再認識しながらも、ギルドへの扉を開いた。

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