【王】3-13
コバヤシが扉を開けたその先に、“彼”は座っていた。そこは玉座などではなく、どうやら寝室のようであった。“彼”は大きなソファに優雅にくつろいでいた。
「で、なんなんだおまえ」
その男は、くつろぎながらもこちらへとその視線を向ける。明らかにむき出しの敵意を感じさせるものであった。見たところ武器のようなものは手にしていない。
年は今の自分と同じぐらいだろうかと、コバヤシは目の前に居るその男を見つめながらも考える。もしかしたら“転生者”はみなこのぐらいの年齢にされてしまうのかもしれないなと、コバヤシは頭の隅でうっすらとそう推測する。
「…あんたが、イチノセ・ユウキか、、」
コバヤシは目の前のその男からの質問には答えずに、逆にこちらから質問を返す。
もっとも、聞くまでもなくコバヤシにはその男がそうだということに半ば確信のようなものを得ていた。
コバヤシの質問に対して、ソファでいまだくつろいでいたその男はこちらへとその姿勢を向ける。
男の髪は、コバヤシと同様、または多くの“日本人”がそうであるように、黒い髪であった。少し長いその前髪は、目元を隠すようにかかっていたが、その奥からは、確かにはっきりとした敵意を持つその視線を感じることができた。
白のワイシャツの上に黒のジャケット、そして下にはいているのは、スウェット?だろうか、、
不思議な組み合わせだな、という印象をコバヤシは受ける。しかしやはりこの服装はこの世界のものではないなと、彼は思う。
「おいおい、この王を呼び捨てにするとか」
お前、いい度胸だな
“世界王”を名乗るその男は、こちらへ向ける敵意を更に強める。
コバヤシはそんな彼の様子を観察した上で、こちらからも続けて言葉を開くことにする。
「…俺は、、“第三次転生者”だ、」
そう言うと、目の前の“第四次転生者”はその口をぽかんと開ける。
「…へぇ、、」
そう言えば他にも居るんだったっけか、、
イチノセはそう言いながらも、再び同じ目つきへと戻る。全てを見下している、そんなように見える薄ら笑いを浮かべながら。
「で、その“先輩”が俺に何の用?」
先輩という単語を使いはしているものの、その言葉には微塵の敬意も寄せていないことがよく分かる。
もちろんコバヤシは敬意など求めてはいなかったが、、
「…なぜ、こんなことを、、」
彼には、目の前に居るこの男の行動理由が、何一つ理解出来なかった。
なぜ、なんで、どうして、、
それだけがコバヤシの聞きたい、たった一つのことであった。
「こんなこと?」
あー?、、、どれのこと?
イチノセは、まるでなんのことかわからないかのようにうんうんとうなりながらもそう尋ね返してくる。
「一体、何人殺したんだ、、」
目の前の人間に対し、コバヤシは自分の中でこれまでにないほどの“怒り”が、ふつふつと湧き上がってくるのを感じた。
「何人って言われてもな~」
目の前のその男は、うーんとしばらく考えていたが、すぐにはっとした顔になり、こう応えた。
「“お前は、今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?”」
そう言ってからイチノセは「うっわ~これ決まったわ~ひゃはは」と続けて高笑いをするのだった。
コバヤシには、彼の言っていることが何一つ、理解出来なかった。何一つ、理解したくなかった。
んだよ元ネタ分かんないわけぇ?
「つまんねえなぁ~」
ま、とりあえず転生者同士、仲良くしていこうぜ
彼はそう言ってニヤリと笑う。その笑みは、いびつで、醜悪で、下劣なものにしか、コバヤシには思えなかった。
「…お前は、ここで一体何をしているんだ、、」
なんで、あたりまえのようにそうしていられるんだ
「いや、“異世界チーレム”絶賛お楽しみ中ってわけよ」
ついでに建国無双もやってるっていうね
コバヤシの問いに対し、そんなことを彼は言って、そして笑う。大きく笑う。何もかもが楽しくてしょうがない、そんな笑いだった。
「そうだ、この世界二人で半分こにしちゃわね?」
やっぱ“ソロプレイ”も良いけど“協力プレイ”もやりたいわけじゃん?
「二度目の人生なんだから、我慢なんてしてたら損するだけだって、もっと楽しもうぜ」
彼は笑う。嗤う。哂う。
コバヤシは、自分の頭がずきずきと、段々痛くなっていることに気がつく。めまいも起きているのではないかと思った。しかしなんとか彼はそれをこらえながらも、目の前のその“得体の知れない気味悪いナニカ”へと質問を続ける。
「…なんで、、なんでそんなことをするんだ、」
なんでそんなことをしたいと思うんだ出来ると思えるんだ
イチノセは、しかしコバヤシの言っていることがまるで理解できないかのように首をひねる。その表情には「?」が浮かんでいた。
「いや、普通はするっしょ?」
だって、“異世界転生”なんだぜ? これ
「俺達って“主人公”なんだからさ」
あははははははははははは
彼のその下卑た笑い声を聞くたびに、コバヤシの中で何かが壊れていくような錯覚に陥る。もしかしたらそれは、錯覚まどではなかったのかもしれなかった
・・・
自分のことを、自分で“主人公”だと思っている。
偶然、理由もよく分からずに、たまたま手にしたその強大な力を持ってして彼は、自分が主人公の物語を書いているつもりだったのだ。
もしかしたらそれは、他にも多くの人間が考えていることなのかもしれない。
「自分がもし主人公だったら」
そうであったなら、、
そんなことを考えて生きている人は、もしかしたら意外と多いのかもしれない。
そして確かに、あちらの常識でこの世界のことを考えるこちらのほうが、もしかしたら可笑しいのかもしれなかった、、
“力”のあるものが全てを支配する、支配できる、、?
この世界ではそれも、もしかしたらよくあることなのかもしれなかった。
目の前のこのイチノセとかいう人間の言うことの方が、こちらでは正しいのかもしれない、と。
しかし、とコバヤシは思う。
「…イチノセ・ユウキ」
おまえのやっていることは、
「ただの、クソ野郎だ」
そう、告げる。
イチノセはコバヤシの顔をじっと見つめる。そして、
「あっそ、」
んじゃ、
「もういいよ」
目の前が、白い光に包まれる。




