『二つの現場』
― メリエ “元9大貴族専属調理人” ドバ・テンザリダ ―
メリエ内における男手のそのほとんどが“王宮建設”として従事している中、彼とその数人だけはここの調理場で働く事を許されていた。
この街にあのふざけた“王様”が来る前まで彼は、9大貴族が一つのためにこの調理場でその腕を振るっていた。
しかし、、
彼と共に働いていた人間達の半分以上は、やはり“王宮建設”へと借り出されてしまっていた。更に、彼にとっては致命的なことに、手に入る食材が限りなく少なくなってしまったことであった。
それもそのはずで、現在この街ではほぼ全ての人間があの“王”のためにここで働かされており、物流もほとんど止まっているといってもいい。
そしてこの“王”のために食事を作らされていることで最も腹立たしいことが、イチノセとか名乗るその王様を気取る青年の“注文の仕方”であった。
「とりあえずフランス料理とかなんかで何か美味いもん作ってくれや」
彼が最初に王から受けた“注文”である。
“ふらんす料理”、、?
彼がその聞き慣れない料理名について王に尋ねると、
「そんなのも知らねえのか料理人のくせに」
自分で考えろ
そう言うなり彼は調理場へと追い出されてしまったのだった。
知らない料理を、その名前からだけで想像し作り出すなどという行為は、実に馬鹿げているにも程がある、、
そして極めつけは、奴隷達への料理であった。
いや、それは果たして料理と言っていいのかすら彼には分からなかったが、、
まるで「ゴミのような」食材を使い、一日に一度、その「ゴミのような」料理を奴隷達へと出さなければならなかった。
こんな食材しか使えない悲しさや、こんな料理しか作れない自分への怒り、そしてもちろん王に対する憎しみ、そういったものが、料理人である彼の中でふつふつと積み重なっていくのを、彼は感じていた。
こんな扱いを受けている奴隷は、彼の知る限りではここにしかないように思えたが、しかしそれを王に対し“進言”することはなかった、出来なかった。
これらのことがきっかけで、彼は“とある食堂”をのちに開くことになるのだが、それはまた別の話である。
・・・
― メリエ “元大工見習い” セン・ヒューイ ―
周りの人間達は、すでにふらふらとしながらも、このふざけた“工事”をなんとか続けようと、自分の身体が倒れてしまうということだけにはどうにかこうにかして耐えているようであった。
いや、、こんなものは“工事”とは呼べないと、彼は頭を振る。
彼の周りでいま働いているほとんどの人たちは、普段このような労働に従事していない。更には、ほとんどの労働者が毎日きちんとした食事を食べれているとは、とてもではないが言えなかった。
この建設さえ、、これさえ終われば、自由に、、
“王”は、この“王宮”を完成させさえすれば再び元の生活へと出来るだけ戻すということを言っていた。もちろんその言葉もどこまで信じられるかは分かったものではないが、、
しかしそれでも、彼はなんとかしてこのふざけた建造物を建てなければならないと、自身もわずかにふらふらとしつつも気合を入れるのだった。
これが完成する頃には、この中の何人が果たして残っているのだろうか、、
彼はそんな不安を振り払うかのように、ただ黙々と決められた作業を続けていく。
ここでは倒れた人間から捨てられていく。代わりなんていくらでも居るというのが、あのふざけた王様の方針であるようだった。彼はその顔を思い出すとはらわたが煮えくり返るような思いになる。
すでに何人かはばたばたと倒れていき、街の外へと運ばれて行った。
親方やみんなも無事だといいが、、
彼は同僚達の安否を思う。
その時だった。
王が居ると思われるその辺りから、空へと真っ直ぐに、白い光の柱が伸びたのを彼は見る。




