『埋める男、運ぶ男、逃げる男』
ざくっざくっ
門の外で男は、自らの仕事であるその作業へと没頭している。
没頭しなければ正気を保つことはできなかっただろうと、後になってその男は思うのだったが、今はただ目の前の作業を少しでも、少しでも進めんと、彼は地面を掘り続けているのだった。
ざくっざくっ
穴を掘り、死を埋め、そして蓋をする。
これはこの世界のどこでだって行われていることなんだと、ふと彼はそんなことを考える。
彼の周りには、いまだ積み重なる大量の死が、まるで順番を待つているかのように(と彼には感じられたのだが)静かにたたずんでいる。
ざくっざくっ
“王”から、街の外で作業をするように言われ、実際に街の外に出れるようになった人間は、彼以外にも何人か居た。
逃げようなどとは考えなかった、考えられなかった。どうせ無理なのだろうと、心のどこかで分かっていたのかもしれない。
またこの時の彼には知る由もなかったが、逃げようとした人間は“見せしめ”として、ありとあらゆる苦痛の上で殺され、その亡骸は晒され続けていたとのことだった。
ざくっざくっ
彼は、自分がなぜここから逃げようとしなかったのかを説明することは上手くできなかったが、おそらくは、と彼は思う。
それは他者の死を哀れんでか、それとも自身の死を恐怖してか、それとも仕事だと言われたが故の使命感なのか、
それとも全く違う何かだったのか。
ざくっざくっ…
彼は死を埋める。彼は死を埋める。彼は生きるため、祈るようにして他者の死をそこに埋めていく。
ドサドサドサッ
・・・
がらがらがらがら、、
その男は、冴えない顔つきで何かを運んでいた。
一夜にして“王宮”の一部となったその場所の近くから、東門へと向けて、彼は大量のその何かを、手押しの荷車に載せて、黙々と運んでいた。まだ夜明け前のことである。
がらがらがらがら、、
運んでも運んでも、それらが無くなることは決して無いのではないかと彼には感じられた。
無くしては増え、失くしては殖え、亡くしては、、
がらがらがらがら、、
彼は死を届ける、彼は死を運んでいる。すでに失われた命を、自らの命を守るために外へ運ぶ。命のために、死を運ぶ。
街中の、各所至るところに散りばめられていた散らかされていた多くの死者達は、彼のような男たちの手によって、今ではその多くが門の外に積まれている。
そこから先は、それらを埋めていく人間の仕事だった。
がらがらがらがら、、
一度に運べる亡骸の数は、モノにも依るが3~4体が限界だった。
これで今日何度目の往復になるだろうかと、彼はぼんやりとした頭で考える。
運んでも、運んでも、埋めても、埋めても、彼の中には何かがずっしりと、その心の奥底深い場所に、まるで重石を付けられたかのように、蛇がとぐろを巻いているかのように、言葉では上手く言い表せない何かが、しかし確かに生まれていくのを感じるのだった。
がらがらがらがら、、
彼は何度も往復する。他者の死を運びそれを託す。何度も、何度も。
自身もいつかはこうして運ばれるのだろうかという不安や恐怖を忘れるために、
ただただ彼は、その作業を行うのだ。
・・・
「はぁっ、はぁっ」
メリエの近く、森の中をその男は、一心にまっすぐに駆け抜けていた。
はだしで駆け続けていたがためにその足は擦り切れ、皮もところどころ剥けているのがわかる。
しかしそんなことなどお構い無しに、彼は走り続けている。
「はぁっ、はぁっ」
やっぱり、いける、、!
俺の脚なら、絶対にこのままいけるぞと、彼は確信したように走り続けた。心なしかその高揚で口には笑みすらこぼれてくる。
俺は、、俺は絶対に逃げてやるんだ、、
王都で別れてきた恋人のことを考えながら、彼は森の中を走り続ける。
あと少し、あと少しメリエから離れてしまえばもう大丈夫なはずだと、男は考えていた。
その時だった。
目の前に、まるで雷が落ちたかのような轟音と光がとどろく。
「っ!?」
男はその衝撃によって少し後ろへと吹き飛ばされる。
そこへ、一人の男の声が、あの男の声が、どこからか聞こえてくるのだった。
「いやぁ、助かったよ」
“王”の声は、男の前方、光が落ちた方から聞こえてくるのがわかった。
「誰も逃げようとしないからさ」
“見せしめ”に使えるものが出てこないじゃんかよってね
そう言うイチノセは声高に話す。
…見せ、しめ、、?
男には、目の前のその、自身を“王”だと自称する人間の言葉の意味が理解出来なかった。いや、理解をしたくなかったのかもしれなかった。
「それじゃ、時間ももったいないし」
そう言うなり彼は、その手を振り上げた。
はい、どーん
王都へ逃げようと考えたその男は、王にとって記念すべき最初の“見せしめ”となった。
ありとあらゆる苦痛の上に彼はその命を奪われ、そしてその亡骸は、晒され続ける。
王都に居たとされる彼の恋人は、幸運なことに、または不幸なことに、その亡骸を見る機会を得ることはなかった。




