【変わり果てた街;西門】3-10
最初に異変を感じたのは、その景色よりもまず先に漂ってきた“異臭”の方であった。
そしてすぐに、その原因と思われるものが見えてくる。
そこには、いくつもの“死”が積み重なっていた。
「なん、で、、、」
なによ、、これ、、
コバヤシから降りたメイが、ふらふらとその“山”へと近づきながら呟く。
ドラコとルゥの二人は、厳しい顔つきでその“山”を構成する数多の死体を見つめていた。二人の瞳には、静かに怒りを宿しているかのように思える。
いつでも、どこでも、人は、人間は、死を迎えている。
どこで、誰に、そしていつ、どんな形で“それ”が降り注ぐのかは、誰にもわからない。
自分たちが気づかないだけで、知らないだけで、それは当たり前のように起きている、起こされている。
だから、この“山”のような出来事も、世界のどこかでは、知らず知らず当たり前に行われていることなのかもしれないし、
どこかの誰かにとっては、もしかしたら“日常風景”なのかもしれない。
だが、
コバヤシは、それが怒りなのか悲しみなのか、はたまたもっと根本的な、根源的な感情なのかはわからなかったが、知らず自分の目から涙が静かに零れ落ちる。
「コバヤシ」
すると、ドラコが気を遣ってかコバヤシの裾をぎゅっと掴んでくる。少女は真っ直ぐにこちらを見上げていた。
すぐに彼は涙をぬぐい、少女に小さく「ありがとう」と言って頭を撫でてやる。
いつまでもここに居るわけにはいかない、、
ここに着いた時、彼は真っ先にマップを確認し、自身の知り合いを検索してみたが、誰一人ひっかからなかった。マップの検索範囲外に居るのかそれとも、、
コバヤシはふと、目の前に広がるいくつもの“山”を見上げる。
探している人間が、もしすでに死亡していた場合、検索にはひっかかるのだろうか、、
彼は、そんな不吉な考えを振り払うように西門へと近づいていく。
いつも居たあの門番達の姿が見えないのも気になった。
しかし門のすぐ近くまで来ると、いつもの門番のうちの一人が居るのを確認することができた。そういえばあの二人は検索対象にしていなかったなと、コバヤシは思い出す。
若い方、確か名前はマルコとか言ったか、、
そんなことも思い出しながら、コバヤシは彼のほうへともっと近づいていく。とりあえずの状況を知っているだろうと考えたからであった。
マルコは、いつもとは違い門の“内側”に立っていた。顔色はとてもではないが正常とは言い難い顔つきである。疲れなのか、それとももっと違う何かか、、
門をくぐった時、コバヤシは耳の近くで何かが「ジジッ」と弾けるような音を聞く。それは一瞬のことでありまた、コバエか何かの羽音の様でもあった。
そこでようやく門番の彼がこちらに気づいたようだったが、彼はコバヤシ達を見るなりその顔色が更に悲痛なものと変わっていった。
一体どうしたというのだろうか、、
「何が、あったんですか、」
コバヤシは、彼に対しそう声をかける。これはコバヤシがいま最も知りたいことであった。
そして彼、その門番の片方は、泣き出しながらも“自身の知る全て”を話し始めるのだった。
・・・
先日現れた“その男”の話、突如として成立した“王制”、逆らう民衆、殺される多くの人間、逃げ惑う人々、更に多くの犠牲者、捕らえられた多くの人たち、もう片方の門番、グエンという名前であった、も捕らえられているらしい、“王宮”と呼ばれる施設の建設、そして、、
「…リーシアさんも、、」
メリエ内の女性は、ほぼ全てがその“王宮”へと連れて行かれているらしいとのことだった。
ではまだ生きているかもしれないと、コバヤシはかすかに希望を抱く。
女性達を集めて何をしているかは分からないが、生きてさえいれば、、
そしてマルコは、自身のことを“世界王”と名乗っているその男、イチノセ・ユウキ(ここでメイがこちらをちらりと見た気がした)の強さについても言及する。
「あいつは、、生き物を殺すのをまるで楽しんでいるようだった、、」
それも、、信じられないぐらいの強さで、、
そう言ってからマルコは言葉を止める。
西門を通り抜けてからずっと、わざわざ索敵を使わずとも、コバヤシにはその気配を感じることが出来ていた。
ドラコも同じようなものなのかは分からなかったが、街の中央、王宮がある方を睨みつけている。おそらくはそこに、“王様気取りの転生者”が居るのだろう。
コバヤシは、自分の手に力が入っているのに気づき、その拳を緩める。
「その、、アキラがこの街に急いで帰ってきたのは、、」
メリエがこうなっていたのを、分かっていたからなの、、?
隣からメイがひっそりと彼に対し話しかける。
「…いや、、」
こんなことになっているとまでは、、
そう言ってからコバヤシも言葉を止める。
すると再び、マルコが話の続きをつむぎだした。
「この街が“王制”になって以来、街全体に、不思議な魔法がかけられたんです、、」
そう言って彼は、コバヤシ達の後ろを指差す。門の方であった。
コバヤシ達一行はマルコが指差した方を振り返って見てみる。すると、、
そこには、先ほど自分たちが入ってきたその門に、蓋がされていたのだった。いや、正確には、その開いている門が真っ白に塗りつぶされているかのように見える、と言った方がいいのかもしれない。それがまるで“白い蓋”のように見えるのであった。
なんだこれは、、
コバヤシは驚きを隠せない。
こんなもの、入ってきた時はなかったはずだ、、
近づいてそれに触れてみると、その“白い蓋”はまるでどっしりとした粘土で出来ているもののように、押そうともまるでびくともしない。
「無駄ですよ、、」
マルコが言うには、この“白い壁”は街全体を覆っており、この街を囲っている壁の上にも続いているとのことだった。
そう言われて壁の上空を見てみると、うっすらとだが白いガラス?のようなものが伸びていることに気が付く。
「理屈は全く分からないんだが、、」
この街を出ることは出来ないが、外から入ることは自由に出来るのだという。
自分達がすんなりと入ってこれたのはそのためだったのかと、コバヤシはどこか納得をする。
「しかしこれでは、外の様子などが全く分かりませんね、、」
そう言ってからコバヤシは目の前の白い壁を見つめる。壁の上からなら見えるのだろうか、、
そして、門の外に積まれている大量の死を思い起こしながらその顔をしかめる。
「グエンさんも、無事だと思いたいですが、、」
マルコがそう言うと、コバヤシの隣に居たドラコが、彼のほうをじっと見つめる。
そういえば、ドラコにとってはあのグエンという門番はある意味で“恩人”とも言えるのだったなと、コバヤシはふと思い出す。
彼は、そんなドラコの頭を優しく撫でながらも、これから先のプランを練る。
・・・
「三人には、ここで待っていてもらいたい」
そう言ってから、コバヤシはドラコ、メイ、ルゥの三人の顔を見る。
「ドラコも、行く」
「あたしも行くわ」
「私も、行くに決まってるじゃない!」
すると三人は一斉に反対の声をあげる。
「ただ様子を見てくるだけだから」
お願いだからどうかここで待っていてくれと、コバヤシも退かない。
今回は、王都で会ったあの魔族よりも更に危険な気がしてならなかった。もしそうであるならば、自分の近くに彼女達を置くことはリスキーでしかないと彼は考える。
最初は渋っていた三人であったが、コバヤシが「絶対に無理をしない」という条件のもと渋々引き下がることになった。
「…本当に行くんですか、、」
するとマルコが、その様子を見かねてか声をかけてくる。
「少し、様子を見てくるだけですよ」
リーシアさんを放ってはいけない、、
そんなこと考えながら、コバヤシは彼にそう返事をする。
すると彼は、ふぅとため息を一つ吐き、コバヤシに“王宮”の場所を教えてくれる。
どうか、ご無事で、、
「それでは、行ってきます」
西門に残る一行へと向けて、コバヤシは挨拶の言葉を残す。
そして彼は、その“地獄”へと足を踏み入れる。




