【束の間の休息】3-9
眠ってしまったドラコを落とさないようにして走るのには少し骨が折れたが、またしても前方に森が見えてきたので、コバヤシ一行はその森に入ったすぐのところでしばしの休息を取ることにする。
おそらくはすでに深夜頃だとは思うが、この世界ではいまだ時計を見たことがないので、はっきりとした時刻はよく分からない。だが深夜であることには違いないだろうと、彼はそのように推測する。
明日にはメリエに着けるはずだと思うが、、
コバヤシはそう考えながらも、メイ、ルゥ、ドラコの三人を地面へと降ろしていく。ドラコ以外はいちおう起きていたが、むしろ意識を失っていたほうが良さそうなのではと思ってしまうほどの顔色であった。
「二人とも、、大丈夫、、?」
そんな二人を見かねてコバヤシが声をかける。
「…よゆう、よ、、」
そんな余裕のないコメントでメイが応える。
白金色のショートヘアをくたらせながらも、エルフである彼女のその整った顔は、いつもであれば凛々しさに溢れているが、今はそのようなものをとてもではないが感じさせない。ちょっとだけ尖ったその“エルフ耳”もくたりとしなっている。
「…なかなかの、ドライブだった、わ、、」
ぜぇぜぇ言いながらもそう告げるのは、メイの隣でぐったりとしているルゥである。
彼女にとってはこれが初めてとなるコバヤジェット(ドラコ命名)だったが、予想以上に堪えたようであった。(一応)種族としては“サキュバス”である彼女の表情は、メイと同様こちらも青白くなっている。わずかに褐色の肌をしたその健康的な肌とは不釣合いな顔色であった。黒髪のロングヘアを今は後ろで結んでいる。言われなければ、また彼女の尻尾を見なければ、ルゥをサキュバスと判断することはなかなか難しいのではないだろうかと彼は思う。
しかし二人とも申し訳ない、とコバヤシは心の中で謝る。
「ここでしばらく休憩していくから、二人は休んでいてくれ」
俺が“見張り”をしておくから
コバヤシがそう言うと、二人はそれぞれ死にそうになりながらもありがとうと呟く。
ほんとにぎりぎりだったみたいだな、、
ドラコはというと、すでにその身を丸ませておやすみモードへと突入していた。
少女の赤く長い髪はさらさらと真っ直ぐにいつもであればなびいており、日が出ている時はその輝きと美しさを増す。普段は少女、または幼女とも取れるようなその外見からは、どこかミステリアスな異国の少女といった印象を抱かせる。あと数年たてばれっきとした“美少女”デビューを果たせるだろう。
最も、この子が人間と同じように成長していけばの話だが、、
コバヤシは、ぐっすりと眠りこけるその少女に自身の上着を掛けてあげながら、そんなことを考える。
移動手段もだが、今度は野外でも寝れる用の“グッズ”でも揃えておくといいかもしれないな、、
どうやらコバヤシ以外無事に眠ることができたようであった。
そこで、ふとルゥのすぐそばに新しい“表示”が出ていることに気がつく。
“party”
そこにはそう表示されていた。
相変わらず条件は分からなかったが、どうやらいつのまにかルゥも“party”になっていたようであった。
ドラコ、メイ、そしてルゥ、これで四人パーティーって訳か、、
人数的に魔王でも退治しに行かされそうだな、なんてことをぼんやりと彼は考える。
そういえばこの世界には“本当に”魔王や勇者なんてものが存在するんだったけか、、
そこでコバヤシは、少し気になりもう一度“call”をかけてみることにする。
…ツー、ツー、ツー、ツー、、
しかしやはり、まるで「通話中」かのように繋がらなかった。
正直この“機能”は、コバヤシにとって無くてはならないといったようなものでは全くなかったが、それでも直るのだろうかと彼は少し心配になる。
これが終わったら復旧するものなのだろうか、、
しかし彼には一体何をどうすればいいのか、今のところ皆目見当がつかなかったので、とりあえずこのままで放置しておくことにする。
まずはメリエに行って、知り合いの安否だけでも確認をしないと、、
こういうときは携帯電話の偉大さをあらためて感じるコバヤシであった。
彼は、これから向かっている街についてあらためて考えると、やはり少しの冷や汗が流れるのが分かるのだった。
・・・
次の日の明け方近く、ドラコが一番早くに目を覚ましたため、前にこの少女が店で購入していた“ビーフジャーキー”のようなものをコバヤシは鞄から取り出して、朝食代わりに二人でかじることにする。
コバヤシの知っているものよりもかなり硬く、また味もさほど濃くはなかったが、それでもその薄味と噛み応えは、ドラコと自分を十分に満足させるものであった。
ドラコが何も言わずに無心で噛み続けている姿はどこか可笑しくて笑ってしまう。
アイテムボックスに入れっぱなしになっている“イボシシ”の肉も、その内きちんと調理しないとなと彼は思い出す。
「…ん、、んぅ、」
するとメイとルゥの二人も目を覚ましたようだったので、四人は再び“特急コバヤジェット”の旅へと戻ることになるのだった。
・・・
ルゥとメイが気持ち悪くなるよりも先に、コバヤシはその街の姿をついに捉える。
どうやら昨日泊まっていた森の場所が、すでにメリエからだいぶ近くだったようであった。
「へぇ~、あれがメリエの街かー」
左脇でルゥがそんな感想を漏らす。
・・・?
しかしここでコバヤシは、その街に対して前とは違う印象を受ける、感じる。
…なんだろう、、
そして街が近づくにつれ、彼はその違和感の正体に気がつく。
「…なに、、あれ、、」
右脇でメイがそうこぼす。
見えてきた西門付近を見て、彼女も思わずそう感じたのだろう。
そこには、筆舌に尽くしがたい光景が、一面に広がっていた。




