【奴隷と側近】3-6
ある奴隷の話
・・・
彼女の地獄は、そこから始まった。
最初は、救われたのだと思った。彼女は“神”なんてもの信じてはなかったが、その時だけは、そこへと現れたその男が、さもそのような存在なのではないかと、そう思えたのであった。
“彼”は、私を含む未売の奴隷達が入れられていた牢の前に、突然と現れた。そしてその手には、この店のオーナーである奴隷商人の首をぶら下げていた。
助かったのだと、彼女は思った。これで家族の元に帰れるのだと。
しかし、彼女を助けたその男は神などでは決してなく、むしろ、おそらくは“悪魔”と評した方が良い存在だったのだと、彼女は後から知ることになる。
「今日からおまえらは俺の所有物だ」
喜べ
その悪魔は、イチノセと名乗った。
その後に連れて行かれた場所は、また再びの地下牢であった。奴隷商で過ごした場所よりも遥かにそこは劣悪な場所であった。この場所が街の中心部にあるらしいということはなんとなく理解できた。
後に分かったことであったが、そこは普段犯罪者などを拷問にかけたり、拘留する場所とのことだった。
“最初の日”を迎えた次の日、その牢からは、最初に居た人数のおよそ半数近くが姿を消していた。彼女はそのことを少しは不思議に思ったが、それよりも自分のスペースが広くなったことに喜びを覚えたのだった。消えた奴隷達の行方について彼女が知るのは、その次の日のことだった。
“王”から呼ばれれば、奉仕に向かい、それが終われば再びこの牢へと帰らされる。
牢の中では、全員にそれぞれ“最低限の”食事が与えられた。
また牢には窓がなかったので、外の時間を知るためには王から呼ばれたときに見える、または感じられる外の景色からしかなかった。
王が奴隷を呼ぶときは、奴隷一人の時もあれば、何人かを同時に呼ばれる場合もあった。
「もう、、無理です、、」
何度目かの“御呼び”に応えて彼女が王の場所へと向かうと、そこにはすでに何人かの奴隷達が王の前に転がっていた。何人かはすでに人としての形を保っていない。彼女は、全身が凍りつくような感覚に襲われる。
そのとき王の前には、頭を地面へとこすりつけながら謝り続けている一人の女性が居た。
お願いです、、許してください許してくださいなんでもしますなんでもしま―
ぱきゃ
王の前で懇願していたその女奴隷の頭を、王が握りつぶす。
まるで卵が割れたみたいだ、と私は思ったのを覚えている。しかしそこから先の記憶は、あまり覚えていない。
王とは、奉仕中にいくつかの言葉を交わしてはいたが、彼女にはその言葉の半分も理解することができなかった。
「俺がそのうち技術革命してやっからよ」
俺はお前らを救ってやったんだぜ?
「そのうち冒険にもつれてってやっから」
ひゃははははは
逆らった奴隷は、その場で拷問に。気分によっては処刑されることもあった。賃金なんてものは当然なく、食事も変わらず最低限度のもののみであった。
次第に彼女は、生きることと死ぬことの、そのどちらが幸せなのか、やがてわからなくなり、最後には
それを考えることすら、しなくなった。
・・・
そば仕えにされた男の話
・・・
私は、“その日”までこの街で貴族様のお世話をさせていただいておりました、、
ですが唐突に、それは失われたのです、、
その男は自らを“イチノセ”と名乗りました。。全く聞いたことのないような珍しい名前でした。もちろん本名かどうかも定かではありませんでしたが、、
とにかく“その男”は、私がそれまで仕えていた貴族様のお家を、ことごとく蹂躪していったのです、、
何人かは無事逃げおおせたようでしたが、私は運悪く“彼”に捕まってしまったのです。
えぇ、、もちろん死を覚悟しました、、私はその男が、他の人間達を素手で、そう、まるで雑巾か何かを絞るように、淡々と殺していくそのさまを見ていたのですから、、
しかし何故か私は、そのようにはなりませんでした、、
私には、ある一つの“仕事”が与えられたのでした。それをしっかりとこなせば殺しはしないとのことでした、、
だから私には、その仕事を引き受けるしかなかったのです、、
女性たち、ほとんどは奴隷でありましたが、その彼女らを“地獄”へと連れて行くという仕事を、、
何人も、何人も殺されていきました。。殺す理由なんてものは特に話していませんでした、、おそらく彼にとって他の人間の命は“おもちゃ”かなにかと同じだったのではないかと思います、、
気に入らなくなったら壊すか、捨てるか、、
“彼”が、そのときには彼は“王”を自称していましたが、、その“王”が連れて来いと言った人間を、私は牢から連れてくる、、それだけの仕事でした、、
王が行為に及んでいる時は、部屋の外で待機させられるか、中でただ見ていろと言われたときもありました。
王は、、あの人は、他人がひどく痛がる姿が好きだったかのように思います、、
私は、、私には、、多くの人間を“地獄”へ連れて行った責任があるのです、、どうして私だけがこうしてのうのうと生きていられるのでしょうか、、そんな資格などあるはずもありません、、
私は、私は、、
…聞こえてくるんです、、毎日、どんな時も、、
「おまえのせいだ」と
そう、聞こえてくるんです。。
※元デリーズ家召使●●●●は、このすぐ後にその消息を絶つ。
現在もその行方は、わかっていない、、




