【ユウキ・イチノセ Ⅰ】3-1
男は、ゆっくりとその目を開く。
辺りには少し強いくらいの磯の匂いが漂い、波の音がどこか規則的にそのリズムを刻んでいる。
ここは一体、、
男は先ほどまで自分が居たはずの自室を思い出しながらも、自身の頭の後ろをさする。
…何も怪我していない、、
ふとそこで、自分の両手に先ほどまでべったりと付いていた血が、綺麗さっぱりなくなっていることに気が付く。
確か、、さっきまであの“クソババア”を殴り殺したところで、後ろから誰かに後頭部を殴られたと思ったんだが、、
あれは夢だったのだろうかと、男はもう一度自分の後頭部をさする。
「おめでとうございますイチノセ様」
するとそこに、奇妙に甲高い男の声が後ろから響く。
声のした方をすぐさま振り返ると、そこには異様に足が長い“ピエロ男”が立っていた。
かなりの高身長であるその男?は、タキシードにシルクハット、メイク等は特にしていないみたいだったが、その端正な顔の鼻だけが赤いボールのようなものとなっていた。
なんだ、、こいつは、、
「混乱されるのも無理はありません」
目の前の男はどこか朗らかな口調で続ける。
「イチノセ様」
あなた様は、この世界に“転生”されました。
…てん、せい、、?
「その通りでございます」
ピエロ男はにっこりと微笑んでいる。
…そうか、、
「俺は、転生したのか、、」
いや、
「…やっと、、やっと転生できたって訳だ」
イチノセは、そのあふれ出る笑いを抑えることができなくなる。
「あははははははは!! やった!やったぞ!!」
本当に出来たんだ!
「…これはこれは、どうやら話が早くて助かります」
目の前のピエロ男は、変わらぬ不気味な笑顔でそう言う。
「てことは、お前は神かなんかって訳か?」
イチノセもその男に向かって笑みを返しながらもそのように尋ねる。
「“チート”にしてくれんだろ? それとも、もう与えられた後か?」
これまでに読んできた膨大な“異世界もの”を思い出しながらイチノセは、その目の前のピエロに尋ねる。
「…私からあなた様にお渡ししたものは、第四次転生においてイチノセ様が獲得された分の“転生ポイント”のみとなっております」
…そう、そうだ、、
イチノセは“前世”の頃の記憶を思い出す。
「確か、“異世界転生ポイント”とか言ったな、、?」
その通りでございますと、目の前の足長ピエロは告げる。
「それでは、時間があまりありませんので説明の方を進めさせていただきます」
まず、、、
その説明は、かつてここと全く同じ場所で、あのコバヤシ・アキラが受けたものと、何一つ変わらないものであったことを、彼は知る由もなかった。




