『転生サキュバスは恋に落ちる』
こうしてこの街に来るのはこれでもう何度目になるだろうか、、
いつものコートを羽織り、その下にはいつもの勝負服を着て、彼女、ラレリュース・ド・エルゥは王都の路地裏に立っていた。
いい加減にそろそろがんばらなくっちゃ、、
せっかく“サキュバス”とやらに転生したのだ、前世でおそらく出来なかったであろう“営み”までなんとしてでも挑戦したいと強く意気込む“処サキュバス”であった。
しかしいざ男をたぶらかそうと思っても、肝心なとこで意気地がつかずに逃げ出してしまうルゥである。
だって、、女の子だもん、、
彼女は、おそらくこの世界では誰にも分からないであろうネタをぼやく。
いや、でも、、
「今日も出来なかったら、、」
一体いつまでずるずると私は、、
「…このままじゃ、いつ出来るかわからないし、、」
そんなことを一人でぐずぐずしているところに、後ろから男の声がこちらへ飛ぶ。
「そこを動くな」
その声は、荒くはないがよく通る、好みの声であった。
ルゥは、突然声をかけられびっくりしながらも、そんなことを感じた自分に気が付く。
・・・
まさか、、私以外にも“転生”をしているような人間が居ただなんて、、、
彼女は、ついさきほどまで話をしていたあの青年の姿を思い返す。
アキラ・コバヤシか、、
あの、まるで縁取られたような目の下の隈と、どこか疲れたようにこちらを見据える黒い瞳と髪が印象的であった。
ふふっ、、キュートだわ、、
彼はまだこの街に留まるのかしらと、彼女は自分の住処へ帰っている道中に考える。
それだったら、また会えるかもしれない、、
そう考えるだけでなぜか彼女の足取りは軽くなったように感じられた。
“ニッポン”という国は聞いたことがなかったが、そもそも彼女の場合は前世の記憶を事細かに覚えている訳ではなかったので、それも無理ないかと思っていた。
どうやら私の“転生”とは少し違うようだったなとルゥは考える。
明日あたりにでもまた彼を探してみよう、、
彼女は、前に見えてきた自分の住処を眺めつつ、そんなことを計画するのだった。
・・・
次の日の夜明け前。ルゥは、近くで聞こえる物音やざわめきによって起こされる。いまだ眠いその目をこすりながら彼女はゆっくりと起き上がる。
王都に近い鉱山のすぐ隣、そこに広がる森の中にルゥは住んでいた。小さいながらもきちんとした木造の一軒家である。と言っても“掘っ立て小屋”のようなものであったが。誰がいつ建てたのかはわからなかったが、彼女はここを気に入っていたので勝手に使わせてもらっていた。
尻尾さえ隠しておけば、よっぽどのことがない限り自分が“魔族”だとばれることはなかったので、ここを訪れる人間がもし居てもだましとおせる自信が彼女にはあった。
ルゥは、なにやら外が騒がしいことにそこで気が付く。
なにかしら、、
外に出て鉱山の方を見てみると、なんとそこには、辺り一面魔物の軍勢であふれかえっていた。
なに、、これ、、
その軍勢の魔物達は、みな一様に王都の方面を見据えている様に見える。…気のせいだろうか、、
彼女はその光景の衝撃で一気に目が冴える。そしていくつもの疑問が次々と頭に浮かんでくるのだった。
と同時に、嫌な予感で胸の奥がうずく。彼女の悪い予感はこれまでもよく当たった。
まさか、ね、、
そう考えるも、彼女は自分がすでに王都へ向けて駆け出そうと決めていることに気が付く。
しかしそこで、魔物達の大群がゆっくりと、だが確実に王都のほうへ向けて、進軍を始める。
どうやらまた悪い予感が当たってしまいそうだと、彼女は急ぎ着替え、自身も王都方面へと駆け出す。
大丈夫、、私のほうが早く着ける、、
ルゥは魔物達に見つからないように、しかし急ぎ足で森の中を抜け王都へと向かう。
彼女は、昨日出くわした青年のことを考える。
伝えなければ、、
彼女は駆ける。
私は、この気持ちを知っている。
走りながらどこかでそう感じる。
彼女は翔ける。
…待ってて、ダーリン、、
未来のワイフが、今行くわ!
『転生サキュバスは恋に走る』




