【カルテット】2-31
王都内を侵攻している魔物、そしていまだ王都の周りで待機していた魔物達全てに対し、それは突然に生じた。
魔物達の動きが一斉に止まり、それまでの獰猛な様子とは打って変わり、混乱しあたりを見回すというような状況へと変化した。中には魔物同士で争いだすといった有様である。
なにが起きたんだ一体、、
兵たちの指揮を執っていた男は、その魔物達の変化に一瞬戸惑う。
しかしここが勝機、、!
「ここだっ! 全員で押し返すぞ!!」
うおぁああああ! いくぞぉおおお!! おぉおおおお!!!
王都南門周辺の戦いは、ここから形勢を変える。
・・・
アキラがやったに違いない、、
メイは、魔物達の様子がこれまでと打って変わったのに気づき、そう確信する。
ドラコ、メイ、ルゥの三人は、東門から西門へと向かいながら、道中に出くわす魔物達を蹴散らしつつ走っていた。
「二人とも! たぶん敵の首領がやられたんだわ!」
とりあえず西門まで行ったら宿まで折り返しましょう!
メイは後ろを走る二人にそう告げる。
「アキラが、、」
そう言ってルゥはどこか遠い目をする。
「おーきーどーき」
そしてドラコは(おそらく)了解の意思を示す。
全く、、ホントに一人で終わらせちゃうんだから、、
メイは彼のことを想いながら、ふと笑みがこぼれそうなのをこらえた。
・・・
いつの間にか明けていた嵐の後の空には、大きな夕陽が沈もうとしている。
コバヤシは、待ち合わせ場所に指定しておいた宿『ドミノ』の前で三人を待っていた。
彼女らの無事はマップで確認済みだったので、こちらから先に迎えにいこうか少し考えたが、王都門の外の掃除を少しだけ手伝っていくことにしたのだった。
あっちにはドラコも居るしメイも居る。無理はしないだろうし大丈夫だろう、、
コバヤシは先ほどの“ヴェルド”なる魔族との戦いを思い返す。
彼はコバヤシに一突きされると、そのまま倒れていった。おそらくは急所にでも当たったのだろうとコバヤシは考える。
もしくはこのナイフの力とかだろうか、、
コバヤシは、鞘に収まっているその短剣をちらりと見る。
あの魔族、向こうも何か訳ありのようであったが、、
しかし今となってはそれも知る芳がない。
負けた側には何一つ残されず全てをむしりとられる。それは現代もこの世界も変わりはしない。そこにはどんな理由も通じはしない。自分が負けても同じことには変わりない。
コバヤシは、ヴェルドと名乗ったその魔族の遺体をアイテムボックスに回収しておいた。
こうしておけば他の誰かに自分の存在を勘付かれることもないだろうと彼は考える。
力というものは誇示しないに越したことはない。魔族を倒せる人間が果たしてどれほどのものなのかは分からなかったが、まあいざとなれば“勇者”とやらのせいにしておけばいい、、
そしてそれからドラコたちと合流するまでの間、王都周りの魔物掃除に励んでいたコバヤシであった。
南門付近はさすがに人の数が多かったのでそのままにしておく。どちらにしろそちらは兵士達の勢いがすさまじかったので特に問題はないだろう、、
そんな少し前までのことを考えていると、自分の名前を呼ぶ誰かの声が聞こえた。
「アキラー!」
声の方を見てみると、メイがこちらへと駆けてきている事に気が付く。その後ろにはドラコとルゥが続いていた。
マップで分かってはいたが、やはり三人とも無事でよかったと心からそう思うコバヤシであった。
ぼふっとメイが抱きついてきたことに少し動揺する。
「…良かった、、」
彼女はぽつりとそう呟く。
「ドラコもー」
赤毛の少女も抱きついてくる。
コバヤシはそんな二人の頭を撫でる。少し恥ずかしいんだが、、
ドラコとメイの二人はコバヤシから離れる。メイの目は少し赤くなり潤んでいた。
「三人も、無事でよかったよ」
みんなの顔を見回してからそう告げる。
するとそこで、ルゥがふとうつむいていることに気が付く。
どうかしたのかと彼女に尋ねてみる。どこか怪我でもしたのだろうか、、
ルゥはこちらをゆっくりと見つめ、真剣な表情で何かを呟く。
「・・・・・の・・ん、」
…え?
コバヤシは聞き返す。彼女に聞き返すのはこれで何度目か。隣ではメイが口をぱくぱくさせている。どうしたんだろう、、
・・・。
「…あなたに、この身を捧げることに決めたの、、ダーリン」
あくまで真剣な顔つきで、彼女はそう告げる。
…え?
・・・
いきなり何を言い出すんだというよりも言ってることわかってるのか何で急にそんなことをとか、思うことはあまりにたくさんあったコバヤシは、いったいどういった反応をすればいいのかわからず彼女の目をぼんやりと見つめ返す。
彼女のその頬は、わずかに赤らんでいるように見えなくもない。
「…あ、あんた、、何言ってんのよ、、」
すると横に居たメイがルゥに向かってそう尋ねる。コバヤシよりも驚いたような顔をしている。
なにって、、
ルゥはメイの方を向く。
「私の今の気持ちよ」
彼女はそう言って、少し照れくさそうにはにかむ。
「一応は“同属”とも言える存在を私は裏切った、、」
あちらにはもう私の帰る場所は無いわ。
「まぁ、もともと居場所なんて無かったけどね、、」
そう言う彼女はどこか寂しそうに微笑む。
「それに、」
ルゥはドラコの方を指差しながら再びコバヤシの方を見据える。
「この子、どちらかというとこっち側のが近いんじゃないの?」
まるでドラコの正体にすでに勘付いているかのような言い方であった。三人だけの時に何かあったのだろうかとコバヤシは考える。
それなら、とルゥは続ける。
「いざという時に私のような“近い存在”が居た方がいいんじゃないかしら」
そう言って彼女はふふんとどこか自慢げに胸を張る。それは若干、いやかなり凶暴な姿であった。
この世界にも“セクハラ”の概念がないか今度調べておこうなどと少し混乱するコバヤシである。
しかしそれにしても、、
確かに彼女の言うことには一理あるなと彼は考える。
「それでもダメ、、かしら、、」
ルゥはいつまでも応えないコバヤシの様子をNOと捉えたのか、そのような反応をする。
どうしたものか、、
するとドラコがコバヤシの裾を引っ張る。
「ルゥ、いいやつ」
少女は、コバヤシの顔を覗き込むように下から見つめていた。
気づくとメイも複雑そうな顔でこちらを見つめている。
・・・まったくかなわない、、
コバヤシは話し出す。
「…俺の居た世界じゃ、、イギリスと日本は仲が良いんだ」
ルゥは一瞬ぽかんとした顔になる。
「一緒に冒険していくってことなら、」
良いよ、
コバヤシはルゥに向けてそう告げる。
すると途端に、彼女の顔には満面の笑みが広がっていく。
「運命の、ひと、、」
そして一言ぽつりとそう漏らすのだった。
メイはやれやれといった顔でこちらに微笑んでいる。
「ちゃ~ら~ら~ら~らったった~」
ドラコは何故か宿屋の音楽を口ずさむ。コバヤシでも知っているかの有名なゲームである。
BGM違いじゃないのか、ドラコよ、、




