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【森~街】1-9

少女は少し小走りで、コバヤシがやってきた方とは逆のほうへと向かっていく。海とは逆の方、森の更に奥へと向かっていくように感じられた。

一応周囲には常に索敵で引っかかるような生物がいないか確認しておくことを忘れない。


「あの、」

少女は後ろを振り返りながらも、恐る恐るといった感じでコバヤシに尋ねる。

「あなたは、、あ、そうだ、、名前、、私はリーシア。リーシア・クウォーターと言います」


この異世界(?)で初めての現地交流か、、


「リーシアさん、、ですか、、」

これはリーシアが名前、クウォーターが姓だろうか

「私はアキラ。アキラ・コバヤシです」

偽名を使おうか一瞬迷ったが、本名を名乗ることにした。

「あきらこばやし、さんですか、、ずいぶんと変わった名前ですね、、」

少女、リーシアはコバヤシの顔をちらりと振り返り見るが、すぐに進行方向へと顔を戻す。


さて、いったいどこまで話したものか、、


「コバヤシさんはどちらからここまで来られていたのですか?」

疑うというよりは純粋に不思議に思ってといった感じだ。


「…。」

コバヤシは返答にしばし窮する。するとリーシアは不安げに振り返り、

「あの、もし嫌であれば無理に答えなくてもいいですよ、」

少し微笑みながらリーシアは言う。


この少女は恐らく、恐らくだが信頼できる人物である気はする、、しかし、、


全くの未知の世界において、自分の無知さを晒してしまうのは、かなりリスキーな行為であるように思える。


しかしコバヤシは意を決しこのように答える事にした。


「…黙ってしまいすみませんでした、、実は ・・・ 」


コバヤシは自身を【名前しか覚えておらず、なぜここに居たかもここがどこかもわからなくて途方にくれていた】という設定で話すことにした。


「…そう、だったのですか、、」

「なので悪人ではなさそうな人にたまたまお会いできたのは僥倖でした」

コバヤシはリーシアの様子を確かめながらもそう告げる。

リーシアは再びちらりと後ろを振り返りコバヤシのことを一瞬見るが、すぐにまた進行方向へと向き直る。


「…魔力障害の一つに、コバヤシさんのような症状を引き起こすものあると聞いたことがあります」


マリョクショウガイ? また知らない単語である。


「街の医師に見てもらえば少しは助けになるかもしれません。着いた後で紹介します」

あまりにも良い人過ぎる気がしてコバヤシは多少身構える。

「そこまでしていただかなくても、街に案内していただけるだけでもありがたいです。」


もし何の見返りもなしに言っていたのだとしたら、この女性は少しお人好し過ぎるのかもしれない、、


「…あと半刻ほどで街が見えてくるはずです」

リーシアは再び後ろを振り返り今度はコバヤシよりも更に先へと目を細める。おそらくあの男たちが居ないか確認しているのだろう。

コバヤシの索敵圏内には特に何も引っかかるものは無かったが、それを伝えるにはあまりに不自然な説明にしかなりそうにないのでここは黙ってうなずくだけにしておこう。


そういえば、先ほどリーシアさんが半刻と言っていたが、この世界の時間の概念はどうなっているのだろうか、、日本、というより現代の地球とは異なっていそうな気もするが、、

やはりこの世界に関する知識が乏しすぎる。


「…いま向かっている街は、一体どのような所なのでしょうか」

コバヤシは前を先導するリーシアにそれとなく尋ねる。

「そうですね、、私の住んでいる街なのですが、メリエの街といいます」

「このあたりではかなり大きな街になるかと思います。ギルドやマーケットもこの辺りでは一番大きい部類に入るでしょう」


コバヤシはリーシアが話す内容を整理しながらも耳を傾ける。いくつかの不明な単語は頭にメモしておくことも忘れない。


「リーシアさんはその街の出身なのでしょうか」

コバヤシはふと気になり尋ねる。


「いえ、私がかつて住んでいた村は、私がまだ小さかった頃に魔物によって壊滅しました」

「それは、、」

コバヤシは反応に窮する。

「大丈夫です。まだ幼かったのでほとんど覚えていませんから」

リーシアは微笑みながら振り返る。

魅力的な笑顔だ、、リーシアにようやく少しの元気が出てきたことにコバヤシは安堵する。


「私と私の家族はそれからメリエに移住してきたのです」

リーシアは再び前を向き話す。


「そうだったのですね」


どうやらメリエという街には、いや、この世界でも移住・移民というものは存在しているみたいだな、、

もちろんコバヤシが元居た世界には魔物によって村が滅ぼされるなどということは無かったが、、


「そろそろ街が見えてくるはずです」

そう言いながら、リーシアは前方を見つめる。

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