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幼年期8

 ジャックに魔物のことを話してから翌日のことである。


 日課となった朝の父親とのランニングに出たとき、息を切らせた男が私たちに走ってくる。


「どうしたんだ?」


 父親はその男を落ち着かせるために、井戸から水を持ってくる。


 男は水を一杯飲むと落ち着きを取り戻した。


 そして大事な話というので父は私だけを先に走っておくように言って男の話を聞いた。


 父親が家族に対するなよなよした態度ではないことからその相手が父の部下の人間なのだろうと予想された。


 父の言いつけに従い私はそのまま町を走っていると、一人の中年女性が道路の真ん中で膝をついて荒々しく息を整えていた。


 私はその女性の傍らに座りどうしたのかと話しかけた。


「息子が、行ってしまったんです……。私、止められなくて。お願いします!私の息子を町に引きずり戻してください!」


 女性は私の肩を強くつかみ、ガラガラの声で懇願する。


「息子さんはどこに?」


「山です。一つ目のいる山に……。どこから仕入れた情報なのか……。それで私の体を治せるって言って……私そんなこと望んでないのに……。ただ生きてくれさえすれば。うぅ」


 私は女性の涙ながらの訴えに嫌な予感がよぎった。


「……息子さんの名前は何というんですか」


「ジャックです……。馬鹿で乱暴者ですけど……私の一番の宝物なんです」


 嫌な予感は的中した。


「俺、自警団の人に相談してくる」


 私は彼女に繰り返し大丈夫と声をかけて走り出した。


 全速力で近くの自警団の方のところに行き今の話を伝えた。 


「どうせ、またいたずらだろう!私たちは今忙しいんだ。さっさと出ていけ!」


 返答は驚くほど冷酷であった。私の取りつく島など全くなかった。


 私は去っていく自警団員に憤慨した。


 なんのための自警団なんだよ!と声に出していたかもしれない。


 しかし頭を冷やし私は次の行動を考えた、彼らは動いてくれない。


 ほかに頼る当てもない。なら自分で彼を連れ戻すしかない。


 私の頭はすぐにそんなことできやしないという思いでいっぱいになった。


 私は関係ない。リスクとリターンが計算できないのは彼の責任である。


 そのような自らを安全圏に置くための正当化の論理を組み立てる。


 私は、このことに関してだけは卓越している。


 組み立てながら、自分の思考のくせに気が付く。結局自分のことしか考えられないのかと、心の中から自らをあざ笑うような感情がわいてくるのだ。


 自らあざ笑うことで心のバランスをとっている。


 ……この思考の癖に私の寂しい人生の理由があったのではないのか。


 ……せっかくもう一度人生を与えられたのだ。友達のために命を張ってもいいじゃないか。


 私は体をこわばらせながら、「大丈夫」と何度もつぶやいた。


 のどがカラカラに乾いていくのを感じながら何をすればいいのかを考える。


 私はいざという時のために家宝の古びた刀剣を持ち出し山に向かって走り出した。


 胡散臭い迷信と同レベルだがそれを信じてみることにした。


 こういうオカルトを本気で信じたのは初めてである。


 しかし、オカルトとはどうしてか自分の中の不思議な力を引きずり出すのに役立つようだ。

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