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幼年期6

 町でぶらぶらとしていて、気が付けば太陽は隠れてしまった。


 さすがに悲しみも癒え、私はそろそろ家に帰らなければなと思い、足を自宅に向けあるきはじめる。


 しばらくあるくと路地で言い争う声が耳に入ってくる。


 私は気になってのぞき見をしてみた。


 暗くてシルエットしかわからなかったが子供が大人2人に食って掛かっているようである。


「ふざけるな!これをもってこれば母さんの治療費分の金を出すって言ったじゃないか!だったらそれ元の場所に返してくる!」


 子供は声を荒げながら大人が手に持つ何か細長いものをつかむ。しかし容易に引きはがされ、組み伏せられてしまう。


「うるせぇ!そんなの嘘に決まってるだろうが!」


「やめろ!はなせ!」


 子供は逃げようとするがさすがに大人にのしかかられた状況で逃げ出るわけがなかった。


「ヒヒヒ。だまして悪いが、お前にはここで死んでもらうぜ」


 そういってもう一方の大人が銀色に輝く短刀を胸から取り出す。


「おい!待てい」


 私は子供に貧しかった時の自分を重ね合わせてしまい、いてもたってもいられずそのいざこざに立ち入った。さすがに盗みはしたことはないが。


「あ!?」


 大人の二人がこちらを向いた。


 その瞬間に私は目をつむって火の玉を手元に一瞬出現させる。


「うわぁ!」


 大人たちはそれに目がくらみ前後不覚になる。


 私はその隙を突き、上にのしかかってる大人を押しのけ、彼が盗んだと思われるものを取り返し下敷きにされていた子供を起こして退避する。


 別に私は彼らを罰したいわけではなかった。


 そもそも私にそんな権限はないのに、そんなことをすれば彼ら同様犯罪者である。


 法的理由のほかに、殺すことはできるかもしれないが、殺さずに無力化できるほど、つまり舐めプできるほど強い自覚はないし。


 ほかにもそもそも彼らを裁けるほど私は清廉潔白な君子、聖人ではない。ただ今は金持ちの親に生まれて犯罪に手を染める必要がなかっただけという自覚がある。


 もっと精神的に言えばだれかを罰することで気持ちよくなれる人間ではないのでなるべく人は傷つけたくないというチキンな理由もある。


 などと、自分の行為を正当化していると(正当化しなくても自分は正しかったといえるほど強くも、傲慢でもない)、二人を撒いたようである。


 私は安全を確認したのち、今持っているものを確認するとそれは我が家の家宝である小剣であった。


 おじいさんがいつも言うにはこの剣の切れ味は世界一で切れぬものはないと言う。


 私としてはその話は、半信半疑といったところである。


 というかそんな剣を鞘に入れられる時点でね。


 私はともに逃げてきた子供にいったいなぜ我が家の紋章の装飾が施された小刀を盗んだのかを問いたださなければいけなくなった。


「おい、これはなんだ」


 私は努めて威厳があるようにふるまった。


「お前には関係ないだろ」


 しかし先ほど大人に殴り掛かったところからもわかるようにはねっかえりの強い子供は私に恭順するということはないようである。


 一見して特別体つきがごつかったので、村でよく見るいたずら好きの小作人の息子だと思い出した。


「関係あるだろ。俺はお前を警察に突き出してもいいんだぞ」


「だったら、それをもとの場所に返してこればいいだろ!」


 ごつい子は私の腕からその短刀を奪い返そうとする。


「いや、そういう問題じゃないし。そもそもこれ俺の家の家宝なんだけど」


 私はその手をぬるりと交わす。


「はぁ?あ、じゃぁお前は魔法の使えない騎士の息子のアッシュか」


「ああ、まぁそうだよ」


 父さんの二つ名ひでぇな。


「けっ!俺は金持ちが嫌いなんだよ!」


「……だとしてもお前が犯罪者なのは変わらんだろうが……。で、母親の治療費とかって何のことなんだよ」


 その気持ちわからなくもない。


「聞いてたんじゃねぇか!……はぁ、わあったよ。話すよ。命も助けてもらったしな。でも警察に突き出すのはなしだぜ」


「話次第だな」


「別に大した話じゃねぇけどな。単純に過労がたたって俺の母ちゃんが病気になっちまったんだよ。どこにどもある話だけどな。


 でもいざ俺の身に降りかかると許せなくてさ。なんで俺の母ちゃんが!って思ったんだよ。


 ほら。俺って見ての通りろくでなしの屑だからさ母親が俺の分も稼がなくちゃいけなくて。


 それで。俺、母親のこと、小言ばっかりの小言ババア思って、大っ嫌いだって思ってたけど。


 でも俺のために働いてくれてることも知ってたから何とか今までの恩返しをしようって思ったんだよ……。


 笑えるよな。今更なにを言ってるんだって話だよな」


 少年がうつむき自嘲しながら話すのでどこか真実味があった。


「……別に笑えるとは思わんぞ。むしろその年で親の愛情に気付けるなんておかしいな。……それなら俺が父親に頼んで金の工面してもらうとかどうだ」


「いや、確かにお前の家族なら払えるかもしれないが。俺が返しきれる額じゃねぇんだよ。お前は金持ちのボンボンでわからんかもしれんけど借金ってのはフクリ?っていう魔法で呪われるって母さんが言ってたしだめだ」


「それなら俺が父親から金を借りてそれをお前にあげるとか……」


「それは……本当に切羽詰まったら頼むかもしれんけど。そういうのはなるべく避けたいんだ。俺の家の問題ぐらい俺が解決しねぇと。……すまんかったなその短剣盗んじまって」


「なんだよ改まって」


「いや、俺。金持ちはクズばっかだと思ってたから、あんたの家から物を盗むときこれは天罰だって思って思ってたけど。あんたと話すと別に、いい奴だったからさ……」


「俺は親が裕福だから余裕があるだけだと思うし、別に自分をいいやつだって思ってないけど」


「そういうところがいいやつなんだよ。悪い奴は自分はいい奴だって信じてるからな」


「そうか?まぁ、ならそうしておく。ありがとう。名前を教えてくんないか?」


「唐突だな」


「友達がいなくてな自然な聞き方がわからんのだよ」


「ふぅん。俺と一緒じゃん。ジャックっていうんだよろしく。稼ぎやすい仕事があれば紹介してくれ」


 ジャックはそういってアッシュに手を伸ばす。


「ああ、よろしく」


 そういってジャックの手を握り返す。


 その後私は彼に二人の大人たちの特徴を聞き出し、父親にジャックのことは伏せて家宝が盗まれたことを話した。


 その結果男二人の特徴は町人の誰とも一致せず、かつ彼らは見つからなかったためおそらくこの町から逃亡したと結論した。


 その過程で門番が厳罰に処罰されたり、家宝がもっと厳重に保管されりと、それ相応の処置は取られた。

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