幼年期5
話はキチママのスパルタ教育が体になじんでころまで飛ぶ。
大体6から7歳になったころである。
あるいは家の隣に小高い丘ができるぐらいと言った方がいいかもしれない。
話は乳母の娘の話である。
私がスパルタ教育を受けている頃も彼女との友好は密かに続けていた。
それがスパルタ教育を終えある程度自由を得た私は本格的に彼女を自分のものにしようと模索を始めた。
彼女の名前はセイラと言い、幼いながらもその子供のようなのっぺりした顔ではなく、もうすでに美貌の端緒が表れている。
セイラは彼女の母親と一緒に私の家の使用人として働いている。
ちなみに彼女は別に特別不幸だから働いているのではないことは言っておこう。
子供を働かせるのはこの村では当たり前である。
私が彼女を探しているとき、たいていは彼女は洗濯をしている。
それゆえ、いつものよう我が家の井戸に出かける(我が家は裕福であるので井戸が家の敷地内にもある)。
すると案の定いつものように仕事しているセイラがいる。
「セイラ、いつもありがとう」
私は彼女の横に腰をついて彼女に話しかける。
セイラは手を動かしながら私の声に反応する。
「えへへ、ありがと。アー君もお疲れさま」
言い忘れていたが私のこちらでの名前はアッシュである。
彼女との距離もだいぶ近づき言葉遣いもだいぶ砕けている。
「あーもうほんと疲れた。俺の母親厳しすぎんよー。もう少し手心加えてほしい……」
「アー君って、いつも訓練後はそれを言ってるね。でもお母さまはアー君のことほめてたよ」
「そんなん当たり前なんだよなぁ……、あれだけのスパルタ教育をこなしてるのに悪口言われてたらグレちゃうよ……」
「ま、まぁ。でもお母さまのおかげで教育を受ける機会があるんだから感謝しないとだめだよ」
セイラは少し寂し気に話した。
「なんだ、セイラは勉強がしたいのか?」
私はセイラのやりたいことに探りを入れてみることにした。
「そりゃ、いいなぁって思うよ。だって頭が良ければいい人と結婚して、働かなくていいもん」
「セイラの言ういい人って働かずにご飯を食べさせてくれる人のこと?」
「うーん?あと私を大事にしてくれる人かなぁ?」
「じゃぁ俺がセイラを大事にすれば結婚してくれるの?」
ちなみに私は他社と話すときの一人称は俺、心の中の一人称は私である。
理由は見た目的には俺のほうがいいだろうが、本来社会人としての一人称は私であったためこのようなちぐはぐが生まれたのである。
「えー、アー君はねー。そういうのじゃないかな」
え、何それはかなりショックなんだけど……。心折れそう。
「ど、どうして?」
「だって、お母さんは好きな相手と話すときはドキドキして緊張するって言ってたけど、アー君からは全然感じないもん!」
セイラはけられらと笑う。
「ま、まじかー。いや。そ。そうなんだー」
幼馴染なら付き合えると思ったんだけど。あかん、生きる希望を失う!!!
これまでいい感じの関係を築いてきたと思ったんだけど……。
私のガラスの恋心が粉々に砕け散ったのと同時にセイラは洗濯の仕事を終えた。
「じゃぁ、私仕事に戻るから。またお話ししようね!」
「うん。じゃぁね!」
私はカラ元気で彼女を見送ると家を出て傷ついた心をいやすために町でふらふらと徘徊することにした。