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幼年期3

 さてあれから幾分月日を重ねた。


 若干ではあるが自分の思考がこちらの言語に置き換えられいる(安心)。


 これならいつかしゃべれるようになるだろう。


 体のほうはといえばハイハイができるまで成長した。


 乳母の娘の条件付けもうまくいっている。


 娘も同様にハイハイできるようになったが私を見るとハイハイして私の元まで来るようになった。


 意外とうまくいくんだなぁ(うれしい誤算)。


 さて夜誰もいないときに練習していることがあるのだ。


 それは家族を呼ぶ練習である。


 なぜ誰にも知られずに練習しているのかというと訳がある。


 誰を最初に呼ぶのか。


 これは赤ちゃんである私が切れる最高のカードといってもいい。


 かっこよく言ったが平易に言うと親というのは赤ちゃんに初めて呼ばれると優越感を感じるのである。


 馬鹿じゃないの(嘲笑)。


 それを利用して仲良くなる相手を選ぼうというのが話の本筋である。


 そしてそれを私はすでに決めている。


 家族の中で最も利用しやす人物、それはおじいさんである。


 おじいさんというのは加齢臭とか会社にしか知り合いがいないとかで人間関係に飢えているのである(悲しい実体験)。


 そこに赤ちゃんが媚びてくればおじいさんは容易落ちる!。


 そしておじいさんというのはかなり金をため込んでいる傾向がある。


 時間を味方にため込んだ財産を赤ちゃんのために使わせる。


 おじいさんは金の使い道に乏しいのだ(実体験)。


 未来を心配しすぎてため込んだいいが、体にガタが来てまともに動ける状態ではなくなってしまうと娯楽に金を使う余裕なんてなくなり生命維持装置を長引かせることしか頭になくなり最後に後悔するのだ。


 ああ、もっと遊んでおけばよかった、と。


 心が弱っている人間に取り入るなんて簡単である。


 フフフ。さぁ決行は明日だ。私はほくそ笑みながら眠った。




 翌日、おじいさんより早く起きた。


 理由は二つ。


 一つはおじいちゃんになると寝るのにも体力を使うからろくに寝られずすぐに起きてしまう。


 そして娯楽に乏しいご老体は新しい命をめでることぐらいしかやることがないのである。


 もう一つはおじいさんはヒエラルキーが低いから、あまり人がいるときには顔を出さない。


 人がいないときを見計らって私に会いに来ては頭をなで自分の名前を呼ばせようと必死である。


 以上の理由で朝が最もおじいさんに会える可能性が高いのだ。


 私は日課通り頭をなでるおじいさんに渾身の「おじいちゃん」をおみまいする。


 ちなみに赤ちゃんが最初に言う言葉は「ママ」と聞こえることが多い。なんということはない単純にその言葉が赤ちゃんにとって最も発音しやすいだけで母親が好かれているわけではない。


 おじいさんは素っ頓狂な声を上げ家族全員を起こそうとする。


 私は計画通り!と内心ほくそ笑む。


 おじいさんにたたき起こされ不満たらたらな父親の前で何度も「おじいちゃん」と唱える。


 父親はかなり悔しそうな顔をするとおじいさんは、それはもう満面の笑みを浮かべるのである。


 おじいさんはほかの人間もたたき起こして、あとは同様に繰り返すのであった。


 それからは周りの環境が露骨に変わった。


 おじいさんが孫のためにいろいろなものを買い与えるのである。


 体をくるむ製品の質が良くなったし、ゴミみたいなおもちゃも与えられた。


 それは速攻で乳母の娘のものになったのが。


 最も良いのは乳母車を買ったということである。


 おじいさんは私を乗っけると外に飛び出す。それには父も同行する。


 治安でも悪いのか、あるいは子供の気持ちをもう一度自分に向かせようとしているのか。


 とにかくそうして私は外をきょろきょろと眺める特権を得たわけである。


 私が暮らしているのはあまり大きくない町である(とはいえこの世界での基準がわからないので現代基準である)。


 せいぜい200人前後といったところであろう。


 街路は土を固めただけであり、人々は集合住宅(寮のようなものを想像すればわかりやすい)に住んでいるものがほとんどで、私の家を含め2、3の一軒家があるのみである。


 ただし町の周りはかなり厳重に整備してあり、大きな堀や木でできた壁がある。


 またその整備はかなり頻繁に行われている。よほど周りを外敵に囲まれているのかと思いきや、これまで何かが攻めてきたということは聞いていない。


 大きな家に住んでいるのは小作人みたいな階級なのだろう、見たところ朝早くから農場に駆り出されているようである。


 一方私の家などはそこから税金を搾り上げる家といったところだろうか。格差社会である。


 郊外に出ると延々と農地が広がっている。


 この集落は農業が中心産業であるのだろう。


 集落の中心にはこの辺りでは珍しく大きい家が建っている。


 町のどこからでも見えるその家を私が見つめているとおじいちゃんは私にそれが何なのかを教えてくれる。


「あれはなマリ男爵の家じゃ。あの家がこの土地の所有者ということになるな」


「親父……赤ちゃんにそんなこと言ってもわかりませんよ……」


「いやいや、この子は賢いでのぉ。すぐにお前さんなんて手も足も出なくなるぞ」


 おじいさんはふぉっふぉっふぉっと笑う。


 親ばかだな。6歳未満の子供が数を100とかまで数えられるのを自慢する教育ママみたいだな。


 ピアジュが6~7歳にならなければ数の概念を認識できないと示したのにばかばかしい。


「さぁ、どうでしょうね。私にはわかりませんが。まぁゆっくり元気に育ってくれさえすれば私は文句ありませんよ」


「いやいやもうすでに義娘さんと教育に力を入れると決めているのだ。将来はわが家を騎士格から世襲できる貴族格に……まぁお前さんがなってくれてもよいのだがな」


 そういっておじいさんは高笑いする。


「ははは、まぁ、頑張りますよ」


 父親は少し引き気味である。


 やめろぉ、過度なストレスを与えて子供がぐれても知らんぞぉ!と言いたいけど言葉はまだそこまで置き換わってないし、何も言えないのである。


 愛想笑いでもしておこうか。


「ほれ、息子よ見た前!この子も笑っておるわ!」


「私にはひきつっているようにも見えるんですけどねぇ……」


 そうして楽しい?人生の初めの思い出となりそうである。

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