対決
第9話 対決
マサが調べてくれた西崎の経歴は凄まじいものだった。
西崎は生まれて直ぐに公園のトイレで発見され、親の事は未だにわからないらしい。
それから中学卒業まで施設で暮らし、就職したらしい。
西崎は施設では大人しいが頭の良い優しい性格だったと言う。
下の子の面倒もよく見たらしい。
元々頭の良かった西崎は無駄遣いはせず、五年間必死に貯めたお金を基に二十歳の時に起業した。
会社は順調に成長し、結婚もして男の子が生まれて幸せの絶頂にある時事件は起こった。
家族のいなかった彼は妻を愛していたし、一人息子を溺愛していた。
漸く人並みの幸せを手にし一息ついた時、妻の浮気が発覚した。
それから彼の人生は一変してしまった。
浮気相手の男を半殺しにして懲役三年の刑で服役する。
当然会社は潰れ、妻と子供も行方不明になっていた。
あらゆる手段で探したけれど、手掛かりさえ見つけられなかった。
彼はまた一人になってしまい、己の人生を恨んだ。
親に捨てられ、妻に裏切られ、最愛の息子も行方不明だ。
彼は世界中の人間を憎んだ。
それからの彼は人間をやめたような生き方をした。
法に触れないぎりぎりの所であらゆる悪事を犯し、何人もの人を不幸にしていった。
詐欺まがいな事をして、財産を奪い取り一家心中に追い込んだり、経営者を罠に嵌めて会社を乗っとったり、女を騙して風呂屋に沈めるなんてのは日常茶飯事だ。
まるで不幸を作る事が生き甲斐かのようにしてのしあがっていった。
彼のやり方の非情さから、やがて彼は誰からも恐れられる男になり、悪の世界でも「奴にだけは手を出すな」と言われる程になっていた。
西崎は足元に倒れている黒崎の顔を踏みつけて
「お前には失望した」と言った。
「何をする。お前の為に戦った男じゃないか?」と俺は吠えた。
「負け犬は要りませんから」と西崎は冷たく言い放ち、凄まじい怒気をはらんだ目を俺に向けてきた
この男は得体が知れない。
さすがに俺も少し怯んだが、その時後から意外な言葉が聞こえた。
「親父、もう悪い事は止めなよ」と言いながら翔が前に出てきた。
突然親父と呼ばれて西崎は驚いたようだ。
西崎は翔を見つめた。
「お前・・翔なのか・・・? 何故ここにいる?」
いつもニコニコして怒った所など見せない翔が『仁王』のような顔をして西崎を睨んでいた。
「俺の名前をまだ覚えてくれてたんだ。あんたはもう俺も母さんの事も忘れちまったと思ってたよ」
その言葉にあの西崎が動揺していた。
「お前の名前は俺が付けたんだから忘れるはずは無い。母さんは元気か?」
「あんたがボロ雑巾のように捨てた母さんは去年死んだ」
「なっ・・・」
西崎が絶句した。
「俺はあんたを探したよ。復讐するためにね」
「それは違う。俺が母さんを捨てたんじゃない」と西崎はすがるような目を翔に向けた。
「今更言い訳何か聞きたくもない。母さんは苦労して苦労して死んでいった。あんたは何にもしてくれなかったじゃないか」
西崎は狼狽した。
「俺はただ・・・」と言って言葉に詰まった。
明らかに西崎の雰囲気が変わった。
あの周囲を威圧する鋭い眼光はなくなり、息子の言葉に抵抗出来ない、ただの親父になっていた。